第39話 師匠との邂逅
「これから私が貴様の師匠だ。私は厳しいがついて来い」
「……うむ」
オーヴォルは固まったようにレーナの赤い髪を見上げている。
「父よ」
「何だ?」
「彼女は誰なのだ?」
「私に直接聞け。私はベック様に仕える近衛だ。主に力の扱いに長けている」
「ベック」
表情がない同士、お互いの気持ちは理解しがたいが、ベックという言葉に、お互いに何か思うところがあったのだろう。
しばらくただ、じっと見つめ合っていた。
「オーヴォル、ベック氏は既に改心している。それに彼女は雇われていただけで、本人とは関係はない」
それをレーナの立場からは言いにくいだろうから、ジークが言うしかなかった。
「関係ないのか? ふむ」
「もちろん、私は近衛として、主人の行動をずっと見続けて来た。それに咎がないと言うつもりはない。だが、私も生きていくためには仕方がなかったのだ」
「うむ。それは理解出来る」
「ありがたい。では私を師と認めるのだな?」
「うむ、是非にもお願いしたい」
「分かった。では厳しく貴様を鍛えよう。私を超えるつもりで覚えるのだ」
「うむ」
二人が握手をする。
ずっと見ていたジークは、多少意味が分からなかったが、とにかく分かり合えたという事なら問題はない。
「では頼んだぞ、レーナ」
「了解した。最強にしてやろう。エイシャの鍛える娘以上にするつもりだ」
「それは聞き捨てならないわね」
三人で話していた、客間。
その奥から、凛とした声が響く。
「……エイシャ」
客間に入って来た金髪ロングのエイシャ。
そして、その後ろには多少気まずそうなエミルンだ。
「私の教えるこの子以上? この子の素質は本物よ? それに勝てるつもり?」
「そう言ったはずだが?」
「ほう……」
「ちょっと待て! エイシャ! 剣を構えようとするな! レーナも対抗しようとするな!」
「……分かった」
「申し訳ありません」
一触即発だったエイシャとレーナは、ジークの一言で冷静になる。
「そんなに血の気が多くて、よく近衛など勤まっているな?」
「それは……普段ストレスが溜まることもあり、つい……」
「師匠として弟子である娘にそれをぶつけてはいないだろうな?」
「そんなことはしていない! むしろ、彼女の上達があまりにも早いので、ストレスが解消されているところです」
「ならばいいが……エミルンもオーヴォルも戸惑っているではないか。私はこの姉妹を戦わせたくはないい、どちらが強いかなど気にはしない」
「しかし──」
「もちろん、競う相手がいる方が強くなるだろう。それは師匠の側も同じだ。師匠として二人にお願いしている以上、その指示を尊重する。だが、二人の仲が険悪になるようなことは避けていただきたい」
ジークとしては二人が、いや、四人がそれぞれの才能の分野で成長して欲しいと思っている。
そのためにライバルが必要なら、姉妹で競うのもいい。
だが、そもそもが、現段階で熟練度も体格も全く比較にならない二人が競う事は難しいだろう。
それに、姉であるエミルンはオーヴォルを指導教育する立場にあるし、その面目は保たなければならない。
であるから徒に対立を煽るのも考え物だ。
「私には、親友より預かった娘たち全員を成長させる義務があるのだ」
「了解した。問題ない、私とエイシャも仲がいいからな」
「え!? ……分かりました」
レーナの「仲がいい」に変な声を出したエイシャ。
何か思うところがあるのだろう。
「とにかく二人ともよろしくお願いする。ぜひ鍛えてやってくれ」
「それは当然だ」
「分かっている、エイシャの子より強くする」
「何だと?」
「だからやめろ」
若干不安は残るが、これでオーヴォルの師匠も決まった。
何とか姉妹全員に、師匠を宛がう事が出来た。




