第31話 癖の強い師
「失礼いたしますわ」
「えー……アルシェラの方か?」
「当然ですわ。この妖艶な魅力はどこぞの小娘には出せませんわ」
くるり、と身を翻して一回転する、その姿は十三歳くらいの少女にしか見えない、この前墓地で暴れた死霊使いだ。
「……一人か?」
「当然ですわ、譲ってあげたとはいえ、わたくしも元当主、挨拶くらい一人で行けますわ」
「そうか……」
ジークとしては、アルシェラの方が一人で来られても困る。
今の彼はどうあっても彼女には敵わない。
そして、彼女はやらかすのか、どうすれば怒るのか、分からないのだ。
「ここでは何ですから、奥にお越しくださいませ」
後ろに控えていたシェラナが奥の客間に誘う。
確かに、挨拶に来たにしろ、謝罪に来たにしろ、客間に通すのが筋なのだが。
何しろアルシェラだ。
墓地をゾンビだらけにした犯人だ。
見た目こそ少女で、しかも上品ではあるのだが、それがどう癇癪を起こすか分からないので、出来る限り早くお帰りいただきたい。
「素敵なお屋敷ですわね」
「恐れ入る」
「まあ、ここなら問題ありませんわね」
「…………?」
まるで我が家のように、客間を歩き回り、主人の席に座る。
しようがないので、ジークが客側に座る。
しばらくすると、シェラナが茶と茶菓子を持ってくる。
「それで、今日は何の用で来たのだ?」
「まずは謝罪よ。わたくしも貴族ですから、自分のやったことの責任くらいとりますわ」
「そうか」
「決して、レイシェルに言われてからではありませせんわ」
「……そうか」
言われてきたのだろう。
一人で来たのも、おそらく一人でちゃんと謝って来い、と言われたからだろう。
「それと、もう一つ」
「……何だ?」
まだ謝罪していないだろう、などと言うつもりはなかった。
「あなたのお子様の魔法の面倒を見てあげようと思いまして」
「…………は?」
「あなたのお子様の魔法の面倒」とは、もちろんマーキィの魔法の事だろう。
「でも、どうしてあなたが教えないのですの? あなたならわたくしよりはかなり劣りますけど、かなりの使い手のはずですわ」
そのかなり劣った魔法にお前負けたんだろう、などと心でだけ思う。
「ちょっと理由があってな。魔法を使えたのはあの時だけだ」
「そうですの、では仕方がありませんわね」
曖昧な説明で納得したアルシェラ。
「……それ以上聞かないのか?」
「どうでもいい事ですわ。どうせ、何らかの魔法で一時的に力を付けたのでしょう。他人にいちいち疑問を感じていては魔法使いなんかやっていられませんわ」
「……そうか」
魔法使いには変人が多い。
魔法使いである彼女はそんな変人とも何人も会って来たのだろう。
だから、いちいち相手の不思議に理屈を考えなくなったのだ。
「ま、私が教えるからには、一流の魔法使いになりますわ!」
「いや……その、それは大変嬉しい申し出なのだが……私はあの子を、死霊使いにする気はないのだが」
「わたくしも、我が家の代々受け継いできた死霊使いを教えるつもりはありませんわ。あなたのお子様に教えるのは、カムフラージュで修得している魔法の方ですわ」
「……なるほど」
アルシェラは確か、カムフラージュで全ての形態の魔法を極めたと言っていた。
つまり、マーキィにどんな適性があろうと、教えられるという事だ。
問題があると言えば、この性格だが、こればかりはマーキィにこの性格が移らないようにしなければならない。
それは、ジークが教育して行けばいいだろう。
レイシェルが当主で忙しいことを考えれば、少なくとも、これ以上条件のいい魔法使いはいないだろう。
「分かった、貴殿にお願いしよう。マーキィをよろしく頼む」
「任せていただきますわ」
こうしてマーキィの師は、おそらく彼女にトラウマを作った本人となった。