第27話 魔法対決
ミルクココアの味がする。
マーキィの大好物だ。
甘い、甘い、どこまでも甘く、どこまでも柔らかい。
ぎこちなく揺れ、小刻みに震える唇。
「……マーキィ、何故だ?」
「だって! こうすればパパが強くなるって、シェラ姉も、エミ姉も言ってたから!」
「確かに、そうなのだが……」
確かに年齢は変わらないが、マーキィはシェラナやエミルンとは違い、貞操観念がまだ育ってなさそうなので、考えないようにして来たのだ。
「マーキィ、キスという行為はそう簡単にしていいものではない。例え父でも男には──」
「知ってるよ! でもやったの!」
「……分かった、ありがとう」
何故だ、と聞き返すことも出来た。
だが、時間もないし、聞かなくても答えは分かっていた。
「では行こう、私のそばから離れるなよ?」
「うんっ!」
ジークはマーキィを連れて墓地に戻る。
マーキィの潜在能力はまだ分からない。
だが、先ほどから、体内より「何か」が漲っているのが分かる。
「あら、戻ってまいりましたの? 嬉しいですわ、これは丁重にもてなしませんと」
「……っ!」
潜在能力の声に、マーキィがびくんと、震え、ジークにしがみつく。
その時、ジークは、視界の、いや、視界のようなものの違いに戸惑っていた。
「……見える」
いや、見えている、というと語弊があるのかも知れない。
これは、何か視界に「見えている」わけではない。
死霊使いからゾンビたちにつながる、これは、おそらく目には見えないものだろう。
「……魔力、か?」
魔力は当然目には見えない。
だが、今、ジークには見えている。
つまり、これは──。
「私は、強力な魔力を保有している?」
魔力は見えるのは、基本魔法使いのみ。
魔力を保有することで、魔力のある場所が本能的に理解出来るのだそうだ。
「という事は──空気の防壁!」
先ほどまで知らなかった呪文を、今は理解している。
それがどういうものかも、理解している。
「ほら、行くぞ」
「う、うん……!」
ジークは迷わず、隊群のゾンビの中を突き進む。
隙間なく阻んで来るゾンビ。
彼らを倒せない。
この街の墓で静かに眠る人たちだ、被害者なのだ。
だから、ただ、まっすぐに突き進む。
当然全てのゾンビが襲いかかって来ようとするのだが、ジークは無視して進む。
「あ……?」
ゾンビたちは、ジークたちに近づけない。
歩けば避けていく。
これが、空気の防壁だ。
「あら、なかなかやりますわね」
死霊使いに近づくジーク。
そのそばの二体の魔力を、死霊使いから断ち切る。
「……なかなかの魔法使いですのね。私の二百歳の頃に近いですわ」
二百年前、つまり自分の半分くらいの力だ、と言いたいようだ。
だが、これはマーキィの潜在能力。
妖魔が挙って欲しがるそれは、そのレベルなのだろうか?
「いや──違う!」
二百年生きる魔法使いは珍しくはない。
ならば何故他の魔法使いは狙われないのだ?
それは、マーキィがその程度の魔法使いの潜在能力ではないからだ。
「そちらが魔法使いなら、こちらも本気を出しましょう──爆発の嵐!」
「っ!」
知らないはずの魔法、だがそれが炎魔法の上位魔法である爆発の魔法を、風魔法で拡散し、被害を広める魔法だと理解した。
そんなものを墓地で使うなど、常識では考えられない。
「全てを包み込む壁!」
「っ!?」
爆発の拡散。
例え、自分たちが避けても、墓地が破壊される。
それに、動き出したゾンビも吹き飛ぶものもあるだろう。
だから、ただ、防ぐだけではいけない。
全ての爆発を包み込み、閉じ込めるしかない。
ぼふ、と空気の震える音だけはした。
だが、多少の風以外、完全に爆発を防いだ。
「……これを防ぎましたか。これは私も本気を出すしかないようですね」
「さっきも本気を出すとか言っていたな?」
「うるさいっ! 雷撃!」
「大地へ逃がせ」
死霊使いの出した巨大な雷を、全て地面に吸収させた。
「な……どうして私が雷撃を撃つのを……!」
「魔力の流れで分かる。それに、その程度なら、いくらでも潰せる」
「な、なんですって……」
「本物の雷撃はこう出すのだ、行くぞ?」
「え……?」
読ませる、など考えない。
宣言しての攻撃。
「雷撃!」
「大地へ逃がせ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ばちばちと、逃がし切れなかった雷が、死霊使いの身体を苛む。
「う……あ……」
耐え切れなくなり、倒れる死霊使い。
「私の娘の魔法潜在能力をなめるな」