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第25話 眠れる者を起こす

 墓地は不思議なくらいに静まっていた。

 この街は貴族の隠れ家とも言われる、自治のある街。

 住民は高貴な者が多く、そして、ここに埋葬されている者は高貴な者が多いようだ。


 爵位を持っていたり、王族に名を連ねる者は、亡骸を領地に送られて埋葬されることもあるようだが、大抵はここに埋葬される。


「そう言えば、ザーヴィルとジャスナ姫の墓で手を合わせたことはなかったな」


 この地で死んだのであれば、この墓地に墓があってもいいはずだ。

 もしくは別の地に埋葬されているのかも知れないが、彼女たちがここに住んでいる以上、ここに埋葬されているのではないだろうか。


「シェラナに聞いておけば良かったな……」


 広大、という程でもないが、墓地の隅から隅まで歩いて名前を確かめるには骨が折れる程度には広い墓地だ。


「ゾンビは今のところいないみたいだし、墓を探して墓参りするか」

「うちの墓はね、こっちだよ!」

「ああ、そう……って、どうしているんだ!?」


 振り返ったジークが見たのは、マーキィの姿だった。


「私は魔物の調査に来たのだ。詳しくは言わなかったが分かるだろう?」

「分かったけど……それでも遊びたかったから……」

「…………」


 正直なところ、ジークは娘には甘い。

 女は何人も見て来たし抱いて来た。

 甘やかしたこともあるし、厳しくしたこともある。


 だが、娘という存在は、これが初めてなのだ。

 しかも、ある程度育ってから、なお自分を慕ってくれる存在なのだ。

 どうしても、自分の許す限り甘やかせてしまうのも仕方がない。


「しょうがないな、ではあの二人の墓を教えてくれ」

「うんっ!」


 一緒にいることを認められたマーキィは嬉しそうに駆け出した。


「走るなよ、何がいるか分からないからな」

「分かってるって!」


 だが、聞いていないかのように走っていくマーキィ。


「やれやれ、全く」


 言う事を聞かない娘に苦笑するジーク。


「こっちだよー! こっち―!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら手を振るマーキィ。


「そう急かさないでくれ、一応周りに気を使いつつ移動しているのだ」

「どうせ何もいないって! お墓はいつも静かだし、何かいればすぐ分かるよ!」

「そうなのだろうが……」」


 だが、ここにゾンビがいるという噂はあるし、その調査に来ているのだ。

 慎重に慎重を重ねるに越したことはない。

 ジークは辺りの気配に気を配り、マーキィの呼んでいる方向へ──。


「────っ!?」


 強烈な殺気、そして、魔力を感じる。

 剣に手をかけたジークは、辺りを見回すが、何もないし誰もいない。


「? どうしたの? 早くーっ!」


 殺気も魔力も消えた。

 気のせいだったか? いや、そんなことはない。

 先程以上に慎重に、移動するジーク。


「はーやーく……あれ? 誰だっけ? 見た事ある!」

「…………?」


 全周囲に気を配っているうちに、マーキィへの気をそらしてしまっていたジークは、

彼女のそばに誰かいることに気づく。

 一瞬警戒したが、それはマーキィと同じくらいの歳の少女だった。


「ごきげんよう、アルメル家のお嬢さんですわね?」


 上品に微笑む少女。

 光沢のある漆黒の長い髪。

 対照的に、だが輝く白を基調としたゴシックドレス。


 そのドレスと同じ素材で作られているであろう、日傘を差して、上品そうに微笑みながら、マーキィの立つ位置のそばに佇んでいた。


 ……いつ、どこから入って来た?

 周囲全体に気を配っていたジークは、その存在の発見が遅れたが、だが、墓場のどこかからそこに入って来たなら、さすがに気付く。


 つまり、どこかから気配もなしに忍び寄って来たか、最初からそこにいたか、しか考えられない。


「マーキィ、離れろ!」

「え……?」


 ジークの声。

 それに驚くマーキィ。


「まあ、ここがアルメル家の前子爵様が眠られている場所なのですね」

「あ、うん……はい、そうです……わ?」


 マーキィはいつもの調子で応えようとして、姉に躾られているのだろう、慣れない上品な口調で言い直した。

 辿々しく応対しつつも、ジークの言葉もあり、戸惑っている。


「それは、ご挨拶が遅れてしまいましたわね。子爵様にご挨拶いたしましょう」

「え? ですけど、パ……お父様はもう、かなり前に──」


「──起きなさい(アニメート)我がしもべよ(デッド)

「っ!?」


 ジークは過去にその呪文を聞いたことがある。

 それは、死霊使い(ネクロマンサー)が死体を呼び起こすときに使う呪文だ。


「マーキィ! 来いっ!」

「あ……あっ……」


 逃げようと、確かに一度は試みたマーキィ。

 だが、自分の、面影の記憶すらない父母の墓の地面が、明らかに目の前の少女の呪文で盛り上がり始め、恐怖と驚きで動けなくなっている。


「くっ……!」


 ジークは死霊使い(ネクロマンサー)に注意して、マーキィの元に走り、抱き寄せまた逃げる。


「あら、よろしいのですの?」


 ぼこぼこと蠢く地面から、手──腐ってほぼ骨となっているが伸びてきた。


「ご両親に、お会いしたいのではありませんか?」


 そして、死霊使い(ネクロマンサー)の隣に、二つの死体、ゾンビが立ち上がった。


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