第23話 ゾンビの調査
「ゾンビ、だと?」
「うむ。街の墓場で見かけたという者がおるのだ」
ジークはシェラナを送りがてら、ユーリィにゴブリンについての報告をしに彼女の家に赴いたのだが、そこで全く別の話をされたのだ。
「度々休みなしですまんが、ゾンビとなれば急がねばならん。頼まれてくれるか?」
「ああ、分かっている……」
正直、まだ疲れが取れ切っていないので少なくとも二日は休養したいのだが、ゾンビとなれば仕方がない。
ゾンビは、手足や心臓を突き刺しても死なない、いわゆるアンデッドという魔物だ。
更に厄介なのは、ゾンビに咬まれた者はしばらくするとゾンビになってしまうということだ。
であるから、一頭見つけたら早々に倒さなければならない。
集落全てゾンビになってしまった地域もよく聞く話だ。
だが、それにしても不可解なこともある。
「それはいいのだが……そのゾンビは、何故発生したのだ?」
「うむ……墓場に出た、という事は自然発生ではない」
ゾンビは自然発生することがある。
それは、野に捨てられた死体などに、ある一定の条件が重なると、ゾンビとして動き出すことがあるという。
だから、ダンジョンではゾンビが多いのだ。
だが、死んで神父の祈りを受けた死体は、基本的にゾンビになることはない。
人間は学習して、葬儀の形式の中に、ゾンビにならない手段を加えているからだ。
「つまり、だ。何者かが人為的に発生させたという事だ」
「──死霊使い?」
「そういうことになるな」
墓場の死体から、ゾンビを造れる者がいる。
それが、死霊使いだ。
彼らは一応は魔法使いに属するが、自然魔法でも四大精霊を駆使する魔法を使わない。
つまりは、死体を動かすのだ。
これが、かなり厄介なのだ。
通常の魔法、例えば火をつかさどる魔法を駆使する場合、その炎は完全に使い手が制御しなければならない。
大魔法使いクラスになれば、自律しているような魔法を使えるように思えるが、彼らも無意識にそれらを制御しているだけだ。
だが、死霊使いは自律して動くゾンビを造ることが出来る。
自律しているため、死体さえあればいくらでも造ることが出来る。
つまり、大魔法使いクラスの魔法を、彼らはそこまで熟達したものでなくても使えてしまうのだ。
更に言えば、死体がなくても、生きた人間さえいれば、いくらでもゾンビを増やすことも出来る。
最強の魔法使いと言ってもいい。
もちろん、遥か昔ならともかく、今やどの国でも死体を魔法に施すことを禁じている。
であるから、死霊使いはその術を継承するため、動物や魔物の死骸で続けることが多い。
だが、術がある以上、それが人間に向けられる事件は必ず一定数存在する。
「……この街の者か?」
「分からん。この街には多くの貴族がおるし、貴族本人やそのお抱えには魔法使いが多いからな」
これまでの歴史において、死霊使いがで登場することは多く、その大半が悪者としてだ。
死霊使いであること自体、犯罪者だと思っている者は子供だけではない。
ゾンビ発見の事件があると、当然だが、近所に住んでいる死霊使いは、必ずと言ってもいいほど疑われる。
であるから、死霊使いは住んでいる土地を追われることも度々ある。
そして、自らが死霊使いであることを隠すのだ。
だから、別の魔法を覚え、ただの魔法使いであると偽装するのだ。
「それに、私個人としては、例え死霊使いがいたとしても、出来る限り疑いたくはない……彼らは静かに暮らしたくてここを選んだのだからな」
大半の死霊使いは悪事を働こうとは思っていない。
知の探究として、死体を操る術を研鑽したいだけなのだ。
そして、変に疑われないように偽装しているだけだ。
「だが、ゾンビを発生させた者だけは許すわけにはいくまい。もしくは、誰かの身間違えかも知れん。確かめて、誰が操作をしているかを見極めるのじゃ」
「分かった」
「出来れば……その、犯人が分かっても公にならぬようにして欲しい。いや、これは私の頼みではあるが……」
年老いた、だが幼女のような見た目のユーリィが憂いを含んだ表情でジークに頼む。
「分かったが──理由を聞いてもいいか?」
「この街の者なら、知り合いなら……何故そうしたかを知りたいのだ」
「そうか、そうだろうな」
魔法医ユーリィ。
この街の魔法使いにも知り合いが多い事だろう。
なら、何故そんなことをしたのか、それを聞きたいのは当然の事だ。
「戦闘になったら約束は出来んが、なるべく心得よう」
「うむ……すまんな」
ジークは、ユーリィの家を後にした。