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プロローグ2 元英雄の老い

 ジーク、という冒険者がいる。

 かつて英雄とまで呼ばれた男だ。


 十代の頃に冒険者になり、いくつものパーティーに入り、数々の冒険を潜り抜けて強く鍛えられていった。


 ニ十歳の頃、東の国に甚大な被害を与えていたドラゴンを退治した。

 古代(エンシェント)の名の付くドラゴンの中でも、かなり強力なドラゴンだった。


 二十一歳の頃、北の国で増殖し、国をなしたオークにさらわれた姫を救出した。

 万の単位のオーク軍を相手に、五人のパーティーで挑み、そのリーダとして戦った。


 二十二歳の頃、南の国で、海賊団に奪われた国の宝を奪い返した。

 海賊団のボスは、その海域の王と言われる存在だったが、ジークとの一騎打ちに敗れて果てた。


 二十三歳の頃、西の国に現れ、人々を恐怖に陥れた魔界の侯爵を倒した。

 悪魔の攻撃は心理戦にも及び、さすがのジークも今度ばかりはこれまでかと思ったが、仲間との絆もあり、辛うじて倒すことが出来た。


 彼は数々の国を救い、報酬を受け取った。

 数多くの国の姫や同行した女性冒険者からも求愛され、国王から娘への許婚をされた。

 だが、彼はこう答えた。


「いえ、私はこれからも冒険を続けるので」


 その全てを断ったのだ。


 実際のところ、若かった彼は、一人の女に縛られるのが嫌だったのだ。

 それを最も格好良くストイックに言っていただけの話だった。



 大金を保有していた彼は毎晩最高級の宿に泊まり、最高級の美女美少女と遊び、最高級の食事をした。

 大金があるのは分かるが、そんな使い方をしていたらなくなってしまうのではないか? と心配した仲間が尋ねるとこう言った。


「金があるなら使ってみんなで一緒に豊かにならないとな。なくなればまた冒険に出ればいいさ」


 そしてまた、彼は冒険に旅立った。


 実際のところ、面白いように金が転がり込んでくるので、後先も考えずに使いまくっただけの話だった。


 おそらくこの大陸でもっとも強く、最も報奨金を手にし、そして、最も女性に愛された男、それがジークだった。



 だが、彼も人間である。

 年が経過すれば、老いて来る。


 三十代に入って、あれ、なんだか疲れるのが早くなったな、と思ったのが最初だっただろうか。


 回復が遅くなり、無理をすると腰を痛め、全力を出すと翌日には筋肉痛になった。


 そして、顔面の筋肉が崩れ始め、ほうれい線が生まれ、目じりにも皺が刻まれる。

 それを隠すために口ひげを生やしてみたが、当然よりおっさん臭くなった。


 それでもまだ良かった。

 昔のように大陸一の活躍は出来なかったが、それなりの活躍でクエストをこなし、贅沢は出来ないが、日々それなりに裕福に生きていくことは出来た。


 だが、相変わらず入った金は全て使う一方だ。

 女に持てなくなったため、女遊びにも金がかかるようになった。


 だが、とうとう来てしまったのだ。

 老いアンドさらばえの四十代が。


 一日中歩いているだけで、二日後には筋肉痛になる。

 少しでも寝る時間を減らすと、昼に眠くて眠くてしょうがない。


 弱くはない。

 身体はまだ戦いを覚えている。

 だが、動かないのだ。


 雑魚レベルの敵を倒しても筋肉痛になる。

 ダンジョンのボスレベルの敵ともなると、技や瞬発力を駆使しなければ戦えないが、一瞬の勝負だ。

 戦いが長引くと、息が切れて動けなくなるし、戦いの最中なのに手足がつってしまう事もある。


 一応冒険者というのは命がけで戦っているので、戦闘中につってしまえば、そのまま殺されることもある。


 命がけで戦っているが、報酬は全盛期の百分の一もない。

 本来なら四十ともなれば冒険者を引退してのんびりと暮らすものだ。

 だが、彼はそれが出来なかった。

 金が、なかったのだ。


 いつでも稼げるからと思っていた金が稼げなくなり。

 宵越しの金を持たぬ勢いで消費していた彼は、収入が乏しくなってもしばらくは揉まらず、底を着いて初めて節約を始めたのだ。


 だが、時は遅かった。

 彼は日々の生活費を稼ぐ程度しか報酬が得られない身体に成り下がっていたのだ。


 一ところに留まっていては、自分のこなせるクエストはなくなって来るため、ある程度クエストなしで過ごせるだけ稼いだら旅をして、また新たな地で弱い冒険者のクエストをこなしてまた旅へ、の繰り返しだった。


 もはやいつ、稼げずに飢え死ぬか、戦い中に殺されるかを待つだけの身となっていた。


 だが、彼はどれだけ惨めでも、必死にあがいて生き続けようとしていた。

 これまでの栄光の全てを失っても、まだ、生きることを自ら止めようとは考えなかった。


 希望はない。

 夢も、最早ない。


 ただ、必死に毎日を生きるだけの余生だった。


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