第16話 十八歳は大人ではないか?
「ふう……」
夕食が終わり、風呂から出たジークは、部屋で一息ついた。
移動して二日目の部屋だが、客間よりも大きい。
ベッドもダブルとなっている。
昨日もマーキィとオーヴォルが来て寝て行った。
おそらく今日も来ることだろう。
というか、さっきの風呂にも二人が来た。
十歳と十四歳の少女の全裸はさすがに困ったが、どうせ出て行かないと諦めて一緒に入った。
今は自分の部屋に戻ったが、おそらく彼女らが寝る頃にはまた来ることだろう。
ジークは自身子供を持ったことがないので、分からないが、これが父親の義務なのかも知れない、と、受け入れている。
何しろ自分に懐いてくる女の子は可愛いし、これが自分の護っていく者だと思うと、こうして一緒に寝るのも義務なのではと思えてくる。
とりあえず、彼女らが来るまでに色々と考えておくことが──。
「パパ! 一緒に寝よ!」
「今日は私をぎゅっとするのだ」
出来る時間はなかった。
「分かった。ではもう寝ようか」
「はーい!」
「うむ。今日は私だからな。私をぎゅっとして寝るのだぞ?」
ベッドに走って入っていく二人。
「やれやれ、しょうがないな」
まだ眠くはないが、この二人が眠るなら、自分も眠らなければならない。
考えることは横になってから考えよう。
「パパも早く!」
「早く私をぎゅっとするのだ」
「分かった分かった、今行く」
ジークはベッドへと向かう。
「待ちなさい、二人とも」
そんな声と共に入って来たのは、シェラナだった。
既に風呂に入ったのか、寝着を着ており、髪もまだ乾き切ってはいなかった。
「どしたの、シェ姉」
「毎日ではご迷惑よ? 今日は帰りなさい」
「えー!?」
シェラナの言葉に、マーキィが抗議の声を上げる。
「二人の気持ちは分かるわ。これまでお父さまがいなかったんだから、寂しいのよね?」
「うん」
「さみしくはない。だが、一緒に寝たいと思うのだ」
「でもね、お父さまも疲れていらっしゃるのよ。毎日戦っていらっしゃるのよ、だから、たまには休ませてあげて?」
「んー、んー……」
マーキィが拗ねるように、迷うように眉をしかめる。
「パパは私と一緒に寝ると疲れるの……?」
「疲れるわけではない。だが、疲れが取れにくくなることはあるかも知れないな」
ジークは別に一緒に寝て疲れるわけでもないが、シェラナがせっかく言ってくれたのだから、それに乗っておこうと思う。
「んー、だったら仕方がないね? また元気になったら一緒に寝てね?」
「今度こそ私をぎゅっとするのだ。とりあえず今するのだ」
オーヴォルは万歳のポーズで待っているので、ジークは抱きしめてやった。
「じゃ、また来るよ? おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ジークは出て行くマーキィとオーヴォルを見送る。
「ふう、助かった」
残ったシェラナに言う。
「いえ、構いませんわ。可愛い妹とは言え、今はただの邪魔ものでしたし」
「……ん?」
言葉に不思議な違和感を覚えたジーク聞き返す。
「今日は、私がお父さまと一緒に寝ようと思いまして」
「いや、ちょっと待て」
さすがに十八歳の娘、しかも、自分と結婚することを公言している娘との同衾は憚られる。
「さすがにお前とは難しいだろう」
「ですけど、マーキィとオーヴォルとは一緒に寝たのですよね?」
「そうだが……」
「私だって同じ娘ですわ」
「いや、お前が娘なら問題ない。問題ないわけではないが、まあ、呑み込むことは出来る。だが、お前は俺と結婚したいと思っているのではないか?」
「はいっ!」
「そのような相手と一緒に寝るのは問題があるだろう」
「でも、娘ですわ?」
「そうだが……」
「娘は一度はお父さまと結婚する、と言い出すものですわ」
「子供の頃にな!」
「私、まだまだ子供ですわ」
「…………」
確かに、ジークからすれば十八歳は子供だし、もし結婚していたなら、そのくらいの歳の娘がいてもおかしくはない。
だが、彼女は自分の娘ではないし、精神はともかく、身体はもう大人だ。
結婚するつもりはないが、一緒に寝るとなると、まだ枯れ切っていないジークの心が、彼女を女として認めてしまうかも知れない。
そして、彼女はそれを望んでいるのだから始末が悪い、誰も止める者がいない。
「シェラナ、落ち着いて考えてくれ」
「お父様も早く!」
シェラナは既にジークのベッドに潜り込んでいた。
「……お前、そんな性格だったか?」
「私だって死んだお父さまの子ですわ」
おそらくマーキィが強く受け継いだと思われる、貴族とは思えないやんちゃなザーヴィルの血を、彼女も引いているのだ。
「……あいつも自分がこうと決めた時は曲げない奴だったな」
「そうですわ。私も、絶対、お父さまと結婚しますわ」
「……しょうがないな」
ジークはシェラナの待つベッドに潜り込んだ。
「お父様♪」
シェラナが身を寄せて来る。
やはりこうなるのか、とジークは諦める。
押しつけられた胸は、マーキィのそれではなく、柔らかく、おそらく香水の類もつけて来たであろう香りも、大人のそれとしか思えない。
結婚してもいい年頃の娘のそれだ。
ジークは、これは娘だ、と心に言い聞かせて何とか眠ることにした。




