第15話 剣を教えていいのだろうか?
「ただいま」
「おかえり……あれ、シェ姉は?」
出迎えたエミルンが聞く。
「今日からユーリィのところで魔法医の修業をすることになった」
「ああ、朝言ってたね? 今日からなんだ?」
「まあな、だが、夕食の準備に間に合うように帰ってくるようだ」
「別に私が代わるんだけど……確かに毎日は無理かもね……」
エミルンが苦笑する。
料理は出来るが、姉ほどレパートリーがないのだろう。
「この家にはメイドは通いもいないのか?」
「昔はいたんだけど……今はお父さんの財産を細々と使ってる状態だから雇えないのよ……」
「そうか」
「だから、シェ姉もベックさんとの結婚は迷ったんだと思う。それで私たちを救おうとしたんじゃないかって」
「あいつは金だけは持ってるからな。だが、おそらくそうはならなかったようにも思うが」
ベックは外道な奴だ。
子爵が欲しいだけでシェラナと結婚して、その妹を養うかどうか、微妙なところだ。
もちろん、全員を養っていたかも知れない。
その場合、おそらく全員が最終的にベックの物になっていた可能性もある。
それはシェラナにも分かっていただろう。
だがそれでも、可能性に賭けるほど、追いつめられてもいたのだ。
そして、それについては何も改善されてはいないのだ。
「金はあるのか?」
「うん、まあ、全員が一生生きて行ける程度には」
「そうか」
おそらく、贅沢は出来ない程度に、という事だろう。
更にそこにもう一人加わったのだ、贅沢など出来るわけもない。
「ならば、シェラナには早く魔法医としての力を身に付けてもらって、稼いでもらうしかないな」
「うん、それは、そうなんだけど、さ……」
エミルンがそわそわと、ジークをちらちら見ていた。
「どうした?」
「その……わ、私に、剣術を、教えてくれないかなって……」
エミルンが振り絞るような声で言う。
前に彼女がそう言ったのは、ジークが寝ていると思っていた時だから、面と向かってそう言われたのはこれが初めてだ。
「分かった。それで、剣は持っているのか?」
「うん、お父さんのが……本当のお父さんのが」
ジークに気を使ったのか、エミルンは言い直した。
「それなら問題はないな。ただ、持ったことはあるか? 案外重いものだぞ?」
「う、うん、持ったことはある。振り回すのはまだちょっときついかも」
「力を使わない方法もあるが……俺はあまり知らないな」
ジークはそれなりの体型と力を持っており、若い頃は技と力で敵をなぎ倒して来た。
今となっては力も弱体化してはいるが、その戦闘スタイルはあまり変わってはいない。
そんな彼に、まだこれからの彼女を教えることが出来るのだろうか?
「まあ、考えておこう」
「うん、お願い」
可愛いわが子だ、出来れば最高の教育をさせてやりたい。
それが自分で本当にいいのだろうか?
そう、考えないわけにはいかないジークだった。




