第14話 魔法医から学ぶ。
翌日、ジークはシェラナを連れてユーリィに会いに行った。
シェラナは用件を言わずとも二人で行くと言ったら喜んでついて来た。
そして、同じように抱きついてついて来た。
「失礼する」
「何じゃ、また来たのか。問題でもあったのか?」
「いや、今日は別の用件だ。頼みがある」
「……何じゃ、言ってみい」
「このシェラナを弟子にしてくれないか?」
「なんじゃと?」
「お願い、出来ませんか……?」
シェラナからも頼み込む。
「……前に、私から魔法医を習わぬかと誘った時には断ったではないか? どういう風の吹き回しじゃ?」
「お父さまに行けと言われたからです」
「……なんじゃと?」
「いや、ちょっと待ってくれ! そうじゃない!」
明らかに気を悪くしたユーリィを、ジークがとりなす。
「昨日たまたまシェラナの体液を口にすることになり、潜在能力探り当てることが出来たのだ」
「ほう」
ユーリィの表情が変わる。
「多少暴力的になったが、傷をつけたわけではない。精神的には、どうか分からんが」
「いえっ! お父さまを増々好きになりました!」
「……そうか」
多少呆れたようにシェラナと、そして、ジークを見る。
賢者であるユーリィには、何をしたのか理解出来たのだろう。
「それで、彼女の潜在能力は回復能力であると分かったのだ。瞬時に死ぬような怪我出ない限り、致命傷でも一瞬で回復してしまったのだ」
「ほう、それは興味深い」
「今はもちろんそんな力はないのだが、鍛えればそこまでの魔法医、もしくは回復師になれると思うのだ」
「魔法医と回復師は何か違うのですか?」
「魔法医は街に常駐して街の者を治療する者だ。もちろん旅の魔法医もいるが、まあ、『治す者』だ。回復師は冒険者の一人で、旅に同行する者だ」
「うむ……私もかつては回復師じゃった。懐かしいのう」
「そうだったのですね」
「お前は旅に出る必要はない。だが、自分自身の身を守るためにも習得できるならしておいた方がいい」
「はい。これまでは妹たちのために、治癒に時間をかけることが出来ませんでしたが、これからは出来ますし、頑張ってみます」
「うむ、私も術を引き継ぐ弟子が出来るのは喜ばしい。教えがいがある弟子だと思うから、容赦はせんぞ? ついて来れるか」
「はいっ!」
「よろしい。では弟子入りを認めよう」
「ありがとうございます!」
「私からもよろしく頼む」
「うむ……ところで、体液を口にした方法は何となく理解したが、何故そのような事態に行きついたのじゃ? さすがにお主も、面白半分に娘にした少女の口は吸わんだろう」
「うむ。実は昨日──」
ジークは経緯を説明した。
「なるほど、ベックの息子を懲らしめたか。見たかったのう、その画面を」
ユーリィが愉快そうに笑う。
「私はここに来て間もないが、奴はあくどい事でもしていたのか?」
「いや逆じゃ。何もしなかったんじゃ」
「何もしない……?」
「この街は貴族の隠れ家と言われておる、ある意味自治の街であり、王家すら管理出来ないことになっておる。それは逆に王家が守ってくれんとも言える」
「そうなるな?」
当たり前のことだが、王家が介入しないという事は、王家の兵はこの街には来れない、つまり守ってももらえないという事だ。
「であるから、貴族たちが兵を出したり、金で兵を雇ったりして街を守っておるのじゃが。もちろん全員が金や兵を出しておるわけではない。現にアルメル家はこれまでどちらも出しておらん」
「も、申し訳ありません、そのような余裕がなく……」
「責めているわけではない。この街の貴族には訳ありも多い。それに全員が貴族ではないからな。じゃから、出せる者だけが出せばええ。それで成り立っておる。じゃが──」
ユーリィは眉をひそめ、不快を表情に表す。
「ベックの息子は金も兵も有り余るほど持っておる癖に何も出してこんかったのじゃ」
「なるほど」
「別に、それが悪いわけではない。何度も言うが出来る者だけで守るだけの事じゃ。じゃが、その性根というのが、なんというか……気に入らん」
ユーリィの言い方は曖昧だったが、分からないわけでもない。
ベックはあれだけこれ見よがしに兵を持っており、かつ一番大きな邸宅を建てているのだ。
少しは街に協力してくれてもいいのではないか、と誰もが思う事だろう。
「まあ、しばらくは大人しくしていると思う」
「そうじゃろうな。それでよい」
ユーリィは満足げにうなずく。
「それと、もう一つ」
「何じゃ?」
「その、自治の事だが、私が参加することで、アルメル家は貢献できないか?」
「ふむ……もちろん出来る。やるつもりか?」
「ああ、私がアルメル家に出来る貢献にもなるからな」
「お父さまはそこにいるだけで貢献になりますわ!」
「いや、もうベックも遠ざけた今となっては、私のやることなどないと言ってもいい」
「遠ざけたのもお父さまの功績ですわ! その功績だけで、ずっとお父さまで構わないのです! 私たちは全員そう思っております!」
「それでも、私はやりたいと思う。私はお前たちのいい父親でいたいのだ。私から何かを学んで育って行って欲しいのだ」
「分かりました。お父さまがそうおっしゃるのであれば」
こうしてジークは、街の守り手に参加することになった。




