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第96話 〜貴重な財産〜

 幸い殆どの婚姻届に不備は無く、あってもまだ正月休みやからとすぐに来て頂けた事であらかた業務を終える事が出来た。昼休憩は一時間遅れとるけどまぁこの時期にしては順調と言える。俺は持参しとる弁当を持って公園に出ようとしたところでポケットの中のケータイが鳴る、松田や。


「おぅ、どないした?」


 多分今日辺りで元の生活に戻るんやろ。


『明日の朝イチで帰るんだ、近くまで来てるからちょっと話せないか?』


「ええよ、今から昼休憩で弁当なんや。隣接しとる公園、分かるか?」


 あぁ。松田からの通話が切れ、俺は裏口から外に出て公園に向かうとちょうど奴も自転車で公園の入り口に入っていくのが見えた。ちょっと距離はあるけどスッキリした表情に見える、倉橋とは上手くやっとるみたいやな。


「よぉリア充」


 俺はからかい半分そう声を掛けてやる。


「よせその言い方」


 あ〜高校ん時は気付かんかったけどコイツこういうの得意やないらしい、耳まで真っ赤にして分かり易い男や。


「耳まで赤うして何言うとんのや?」


「うるさい、お前だって人の事言えんのかよ?」


「いや俺は侘しい独り身彼女ナシや」


 今はな、と心の中でだけ呟いとく。


「元旦の昼間、女性と一緒にショッピングモールに居ただろうが」


「あれはデートやない、現地で偶然会うただけや」


 うん、デートやない。心の中ではデートにカウントしとるけども……見られとったんかってことはほぉ〜そういうことかいな。


「一泊二日みっちりと……」


「馬鹿か、彼女療養中なんだぞ。一緒に飯食って家に送って翌日改めて会ったんだ、ホテル探すの苦労したんだからな」


「俺のせいみたいに言うなや」


 あぁそろそろ弁当食わんと。持参しとる弁当を広げると松田も俺に合わせて持っとった缶コーヒーを開ける。


「お前料理すんのか?」


「えっ? 知らんかったんか?」


 たま〜にと時々の間の頻度で俺部活の間食作っとってんぞ、家庭科部に仲良えのんがおって調理実習室借りとる日にお邪魔してサンドイッチとかおにぎりとか……言わんかったっけ?


「あぁ、誰も知らないと思うぞ」


 せやったっけ? そう言えば俺自分で直接差し入れんと家庭科部の子に……思い出した! その中の一人が野球部の誰かが好きとかで、どうにか接点が欲しいいう交換条件で厨房間借りしとったんやった。誰やったっけ? 今はどうでもええ事案やな。

 しばらく俺は黙って弁当に集中する。松田もそれに付き合うかのようにちまちまとコーヒーを飲んどる。そう言やコイツとはようこんなんしたな、キャプテンと副キャプテンで話題は野球の話題ばっかりやった。高校を卒業してそう会う機会も無うなったけど、年数が経っても隣におって気を置かんでええ存在のまんまでおってくれる。高校時代にコイツと一緒に野球出来て良かったわ……挫けそうになった俺を励まし野球を続けさせてくれた周りの人たちに本気で感謝した。

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