第93話 〜もう振り返るんは止めや〜
『俺がお前の兄貴になる』
それから時間の許す限りあの人は俺の側に居ってくれた。歳も兄貴と同い年、勉強は得意やないっぽかったけど小学生やった間はそれでも十分助けになった。学年が進むにつれてちょっとずつ疎遠にはなってったけど、実の兄弟にかてそれぞれの世界はあるもんやからとそこは普通に受け入れられとった。
あの人はこういう時はこうするんやとかいう事を割かし細う言うとったような気がする。この人はこういう人やからええとか悪いとか、あとやたらとサキちゃんを推してきおったようにも思う。
『ええか、お前らは将来結婚するんやで』
まぁそれに関して言えば中学上がった頃にはどうでもええ事案になっとったけども。その頃になるとサキちゃんの男遍歴は物凄かったし俺にも付き合うとる女の子はおったから。
『今は色々経験しとくんもええ、けど二人は絶対一緒になる宿命なんやで』
今思えば何でそこまでくどくど言うとったんやろ? まぁでも当時は俺にしろサキちゃんにしろあの人の言うことはどこかで正しいと信じ込んどった面はあったと思う。それだけにぷつっと居らんくなった時は精神的支柱を失うた気持ちにもなった。何を信じ、頼ればええんか分からんくらいになっとったようにも思う。そのままでおったら逆にめちゃめちゃ怖い、サキちゃん見とってそう思う。せやからあの出来事があってかえって良かったんかもと思うたりもする。
「ひょっとしたらこれで良かったんかも知れん」
「えっ?」
一気に色んな事が頭を駆け巡っとった俺は金子さんを放っぽって独り言を呟いとった。
「あっ、えっと……十五年前の事、あの事があっても無うても行き着くとこは同じなんかな? って気がする」
「……」
「もちろん吹っ切れとる訳でもないしモヤモヤしたもんはまだ残っとるけど、アレがあった事で今こうして金子さんと居れるんやったらそれはそれで良かったんかなって」
「私はせめて綺麗な体で会いたかった」
金子さんはやっぱり気にしとるみたいで下を向いてまう。
「それはもう気にせんでええと思う、俺かて今更童貞違うし。きっかけは侑斗やったけど俺はあなたと『おともだち』でおりたい、嫌でなければ」
「嫌な訳ない、私かてそう思ってる」
彼女はやっと顔を上げてくれた。体がどうとか気にしてはるけど、俺の目の前におる女性はそこいらのよりも全然綺麗やと思う。
「そう思うてくれはるんなら俺と『おともだち』でおってください」
宜しくお願いします。金子さんはそう言うて頭を下げた。俺はその姿にずっとドキドキしとった、やっぱり俺この人がええ……遅ればせながら七年振りに恋心いうんを自覚した瞬間やった。




