第6話 〜使えん女〜
結局サキちゃんに言い負かされた俺は渋々パン生地作りをさせられる羽目になった。
「あんぱん食べたい、あんこ無いん?」
「無いです、欲しけりゃ自分で買うてきてください」
「面倒臭い、ルミに買いに行かそ」
サキちゃんはスウェットのポケットからケータイを取り出して通話を始める。
「……あぁルミ、あんこ買うてきて」
「そんなん自分でやりぃな、あたし今からてっペちゃんに勉強教えてもらおかと……何やお姉ちゃんここに居ったんか」
どおりで通話の声が生々しいと思ったわ……多分ルミちゃんは二階のベランダから入ってきたんやな。
彼女はサキちゃんの妹で現在高校二年生、俺の母校である高校に通っとって俺に懐いてくれとる。それもあって時々高架を渡ってきて勉強を教えてくれとせがんでくる。姉のサキちゃんと違うて言葉遣いも態度も可愛げがあり実際顔もかなり可愛い、頼むから歳食うて姉のようにはならんでくれな。
「パン作ってるんやね、どおりでいい匂いがしてたんかぁ」
「ルミ、あんこ」
サキちゃんは妹を顎でこき使おうとするがイヤやと軽く一蹴されとる。
「台所にさらがあるんやからそれ持って行ったらええやんか。てっぺちゃん、何か手伝えることない?」
「ほなあんこ包むん手伝ってくれるか? 今一次発酵中やからもうちょい先の話やけど」
「うん、喉乾いたから冷蔵庫開けてもいい?」
「ええよ、お茶しか無いけど」
構へんよ。ルミちゃんは冷蔵庫からペットボトルの緑茶を取り出した。俺がグラスを渡すとうちのは無いんか? と不機嫌そうに言うてくるサキちゃん。
「同じのでいいですか?」
「ロイヤルミルクティーがええなぁ」
「却下します」
一応牛乳もティーバッグもあるけど態度が悪いから作る気にならん。
「ルミ、あんこ」
「自分でやって」
さすがは妹、もう軽くあしろうてしもとる。
「てっペ、あんこ」
「それおかしいでしょ」
「コダマ、あんこ」
それもっとおかしい、こんな得体の知れん奴家に上げてええのんか?
「対価は自身で支払うべし」
コダマはすっかり温くなった麦茶を優雅にすすっとる。その辺はやっぱり金持ちの子やなと思う、ご両親は品のある物腰柔らかい方々やからな。
「お前は人のこと言えんやろ」
「俺は金を出している」
その一言に俺は呆れる。一体何の悟りを開いたんやお前?
「チッ、どいつもこいつも使えんなぁ」
サキちゃんは舌打ちをしながら立ち上がって一旦家を出て行った。敢えて口には出さんけど一番使えんのはあんたやからな。