第70話 〜俺無関係やん〜
「「「は?」」」
剛さんの説明に開いた口が塞がらんおかん、コダマ、そして俺。
「せやから陣がてっぺと話させろ言うて聞かんのや」
えっ? 何それ? 全く意味が分からん。
えっとぉ、ざくっと言うたら片平さんのことで説明を求めてきたお仲間さんにマトモな釈明もせんと俺を呼び付けようとし、啓さんに先に責任果たせ言われてやったんが解散宣言ってなったらしい。んで解決したから言うこと聞けって流れなんやろけど俺何一つ関係ないやないか!
「勿論俺に拒否権はありますよね?」
俺は鍋を食うんに忙しい。
「あるけど陣にそれが通用するとは思えん」
まぁそこが何よりも厄介やねん。子供の頃はホンマのお兄ちゃんやくらいの気持ちでおったからあの人の言う言葉は何でも信じとった、絶対信仰レベルに何の疑いも無かったけど、あの日を境に疑問を持つように……そんな生ぬるいもんやない。何と言うか裏切られた気分になった、これまで信じてきたもんは一体何やったんや? 大袈裟に言うたら指針を失うて彷徨うような感覚があった。
あの人は今でも何でも言う事を聞くと思っとんのやろな、けどあれから十五年が経って俺も三十になる。いくら何でも精神的な変化はしとる、成長しとるかどうかは別の話やけど経験値も変わるし見てきたもんも十五年分違うから溝が大きくなるんは当然や。
「俺はあの人に会いとうない」
こうなったら本音を話すしかなさそうやな。剛さんは俺がこんな事言うなんて思ってなかったんやろな、表情筋はガッチガチに固まっとって俺を見る目も瞳孔がギューッと狭まっとるような気がする。目の前に居る幼馴染を板挟みにさせるんは申し訳無いなぁ思うけど、それすらも我慢出来んくらいの拒否反応が全身を駆け巡っとる……無理や。
「いずれは向き合わなアカンと思いますけど今は顔も見とうない、視界に入るだけでイライラするんです」
「そうか、分かった」
剛さんはそれ以上の催促はしてこんかった。そしてポケットからケータイを取り出しちゃちゃっと操作するとどっかに通話を始めよる。
「陽平に電話しとく、僕も仕事途中やからそのまま帰るわ……あぁ陽平? てっぺまだ帰ってきてへんねん、陣にそう言うといて……へっ? 連絡取れ? 取ったに決まっとるやろ、どこぞで遊んどるんちゃうか、繋がらんわ……おぅ、僕も仕事放棄しとるからそのまま帰る、後は任せた」
剛さんは通話を終えるとお邪魔しましたと言うて立ち上がり、長窓から出て自宅である民宿へと戻っていった。