第49話 〜火消しさしてもらいます〜
「あんた乾電池さえあればええんやろ? どのサイズが欲しいんや?」
「単四電池が二つ、テレビのリモコン用」
あっそう。おかんは踵を返し居間に入っていく。少しして再びサキちゃんの前に立ち、右手をすっと差し出した。
「これで解決やな」
おかんの手の中には単四の乾電池が二つ。サキちゃんはおかんの手元をじっと見つめてる。ここはおかんに任せるか、ちょうど湯が沸いたんで俺は二階に居る皆のお茶の支度を再開する。
「さっさと電池換えてき、客人二人待たせとんねん」
「お母ちゃんは客ちゃうやろ?」
「今は客や、あんたこそ余計な口出ししなさんな」
おかんはサキちゃんに単四電池を受け取らせ、お待たせしましたとリビングに居る二人と合流した。サキちゃんはおかんに渡された単四電池をじっと見つめとるが俺はなるべく視界に入れんようにする。
「てっぺちゃん、手伝うわ」
とルミちゃんが気を利かせて二階から降りてきた。サキちゃんはしめたとばかり乾電池をダイニングテーブルに置き、にこやかな表情で妹に近寄っていく。
「ルミ、小遣いやるから単四電池買うてきて」
「さっき渡したん使えばええでしょ?」
俺は手放されて寂しく置かれとる電池を指す。
「さすがに他人さんとこのもんはよう使わんわ」
「なら電池ごときで騷ぎ起さんでください」
ルミちゃんは俺らのやり取りを尻目にお茶を淹れてくれてたんやけど。
「テレビ台ん中のカゴに入ってるやろ? 昨夜お父ちゃんが買うてきてたん見たもん。先上がっとくねてっぺちゃん」
彼女は俺ににっこり笑いかけてお茶を持って上がってくれた、サキちゃんには一切目もくれずに。
「……」
サキちゃんはそんな妹の残像を寂しそうに見送っとる。俺からしたら家戻ってさっさと電池換ええな思うんやけど、彼女の思うところは多分そこやないやろからこっちからは声を掛けん。
「おかん、お茶冷めてしもとるんちがうんか?」
「あぁせやな、おかわり頼んでもええか?」
「うん。先に湯呑み片付けさせてもらいます」
さすがに湯呑み茶碗のストックが無いので、リビングに入って三つの湯呑みを片付けさせてもらう。俺がそのままサキちゃんを無視しておかん三人組のお茶の準備をしとる間に居らんくなっとったけど、この日を境に彼女の俺に対する接し方がちょっとずつ変わっていくけどそれはまだもうちょい先の話。
「結局電池置いていきよったな」
俺はテーブルに置かれたまんまの電池を元の場所に戻しておいた。