第32話 〜唯一の清涼剤〜
「有岡君?」
金子さんはさっきからずっと頭を下げてたから今初めて俺が居る事に気付いたらしい。当時の身長は百六十五センチほどやったし顔立ちもかなり変わった言われる方やから、気付かれんやろなと思とっただけに名前まで憶えてくれてたんはかなり意外やった。
「あっ、えっと。ご無沙汰してます」
あかん、俺年頃の女性に対して免疫が無さ過ぎる。そら俺かて交際人数四人居ましたからもちろん童貞ではございませんよ。けど社会人になってからはとんとご無沙汰で蕾のまんま枯れる勢い……って自分で言うて悲しなってった。
「良かった、『どちらさん?』とか言われたらどないしよう思ってたからちょっとホッとしたわ」
金子さんは可愛らしい笑顔を向けてくれる。ちょっとやつれてるんが気になるけど基本的には綺麗な人やと思う。少なくともこれが親とは思えんくらいには確実に似てへん。
「ホンマすんません有岡さん。あんた仕事中にナンパなんかしなや」
女将は一見窘めてるようでかなり的外れな事を言うとる。別にそんな下品な感じやないし普通に挨拶の範疇は超えてない思うけど。
「源泉高校のヒーローがお前みたいな子持ちのあばずれ相手にする訳無いやろが。申し訳無い、どうしようもない娘で」
どうしようもないんはあんたや、公然と娘を貶すな。俺それに対しての返答スキルは持ち合わせてないからもう黙るしかない。
「有岡さん、どうか堪忍したってくださいね」
「いえ別に怒ってませんよ」
敢えて言えばお前には若干怒りを覚えてるわおっさん。けどこれ以上相手にすると金子さんがまた貶されそうやから会釈で会話を打ち切って座敷に逃げ込んだった。
「案外モテるんやな、それなら独身の方が気楽なんか?」
八杉氏は八杉氏でろくなこと言わんな、人の事手練れや言うてるようなもんやないか。まぁ独身は気楽やから結婚は慌ててするもんでもないと思う。ってか挨拶程度の言葉交わしただけやないか。
「やとしてもあのお嬢さんはあかん、結構なあばずれなんは事実やし行きずりの男との間に子供も一人おる」
そんなもんどうでもええわ、子供さえちゃんと育ててはるんなら俺は別に何とも思わん。
「それとお隣の女優崩れもあかん、あれは顔以外クズや。下の子はまだちゃんとしてそうやけど年齢的に合わんやろ」
まぁ俺もサキちゃんは無しやけどクズはちょっと言い過ぎや。ルミちゃんは妹みたいなもんです、何でも無理矢理結婚フラグ立てんのやめてくれ。
「それに比べて今度の見合いの子は最高や、何せ同い年やし首都圏の有名私立大学卒の才媛やからな」
逆の意味であかん思うでそれ。




