第29話 〜あんたも大概面倒臭い〜
今日から町会議員選挙の公示が始まった。役場でももれなくそれ絡みの業務があって俺も職員としてそれなりに忙しい。そんな中今は町会議長を務めてる八杉氏が秘書数人を連れて職場にやって来た。
まぁこの人今回も当然のように立候補しはるんやろな。ある程度煙たがられてる割に選挙に出れば取り敢えず当選しとってもう何期目やねん? ってくらい長く務めてはるわ。まぁ人口一万人もおらん田舎町、選挙に出る顔ぶれも毎回同じ(変わったなぁ思ったらただの代替わり)、有権者の皆様も逆の意味で誰に入れよか悩んではるん違うかな? っと口が滑った。
「やぁ徹平君、調子はどうや?」
と今では無駄に気さくに話し掛けてきて少々鬱陶しい。十五年前の一件からしばらくはとんでもなく嫌われとったけど、かの野球部の快進撃を機にころっと態度を変えてむしろ好意的に接してくるようになってきた。
「まぁ……ぼちぼちです」
「最近煩いんが君の周りをちょろちょろしとるらしいやないか」
はぁ〜もう知れ渡っとるんか。こういう時の応対間違うとマジで面倒臭くなる。俺はまたしてもえぇまぁと曖昧な返事でお茶を濁しておく。
「ったく君の母親は何を考えとんのや、交友関係次第では息子の経歴に傷が付くいうのに」
そう言うあんたかてあの人に有りもせん傷付けたやないか。今でこそそれなりに平穏な付き合いさしてもろてますが、あん時の屈辱を忘れた訳違うからな。ん? 俺傷付いて困るほどの経歴なんか無いけど?
「ところで徹平君、昼は摂ったんか?」
「いえまだです」
一般的に会社勤めの人間はある程度時間の管理はされてます。朝十時半に昼食摂れるリーマン(俺の場合は公務員)はほぼ居らんと思うわ。
「その時間になったら連絡しなさい、番号は分かるな?」
はぁ……このおっさんの誘いに対し断るという選択肢は用意されていない。仕事がと断れば上司に根回しされ(多分今回はこのパターンに該当するやろな)、私用がと言えばその場でキャンセルされられ、方便とバレたらくどくどとお説教され(ある意味それやった自分の方が凄すぎる、『日程間違えました』で誤魔化したったけど)……どれを取っても面倒臭い事極まりないので、ほぼ拷問ではあるがこうなったら我慢して誘いを受けるんが一番マシなのである。
はぁ〜取り敢えず今日は弁当作っとかんでよかったわ、昼食に行く約束も誰ともしてへんからキャンセルの連絡もせんでええ。心の中では昼休憩が憂鬱で仕方なかったが、誰にも迷惑かからんかっただけ良しという事で途中になっとった仕事を再開させた。