第27話 〜思わぬ助け舟〜
「てっぺ、今のうちに会計済まそ」
一旦奥に引っ込んどったユイさんが伝票を持って店に出てきた。俺は彼女に付いて行きたいけどあの人が腕を離してくれん、引き剥がそうとするがかなり力がこもっててすんなりと外れん。
「てっぺはまだ帰らん」
「あなたいつからてっぺにならはったん?」
ユイさんの目付きが変わり、あの人を睨みつけてる。けど昔に比べたらかなり冷静に対応しとる。
「あんたたまには面白いこと言うな」
「ホンマやな、普段はチリチリしたしょうもない女のくせに」
二人してユイさんを小馬鹿にしたような言い方をして笑い合ってる。俺こういう会話めっちゃ嫌いや、ユイさんはもちろん恋人の陽ちゃんに対しても失礼や。そういうのって思うんは勝手やけど口に出すんはマナーが悪いと思う。
「ワシはアンタの方がしょうもない女やと思うわ」
と言ってきた知らん男性。茶色の帽子に茶色のコート、茶色のフレーム眼鏡を掛けた初老のおっちゃんで、俺の一つ開けた隣の椅子に座っとった。彼の前には食べさしの刺身と日本酒が置いてあったので一人で居った時点でいらしてたんやろけど全く気付かんかった。
「それと兄さん、時間が無いにしたって嫌がる相手を強引に引き止めるんは野暮言うもんやで」
「……」
あの人の手の力がちょっと緩む。俺はその隙にその手を引き剥がし、男性に会釈だけしてユイさんに付いて行く。
「お騒がせしてすみません、ノグチさん」
陽ちゃんが男性に向けて頭を下げている。あぁ俺一秒でも早く逃げたいがためにあの人に謝罪せんかった、ゴメン尻拭いさしてもた。
「今日に懲りんとまた来てや、当面てっぺ料金にするさかい。それとお母ちゃんから伝言、今度来る時は自宅玄関からおいでって」
ユイさんはそう言って優しく笑いかけてくれた。
「何か迷惑かけてすみません」
「そんなん気にせんでええ、皆好きでやってんねんから」
ホンマ俺は周囲の人らに恵まれてると思う。せやからこそ迷惑かけるような真似したないねんけど、結局こうなる事が多くてありがたいやら申し訳無いやら何とも言えん気持ちになってしまうわ。
「そんな顔するんなら思いっきり甘えてほしいわ」
もう完全に見透かされとるな。単純で分かり易い自分自身に思わず苦笑いしてしまう。
「ありがとう、そうさしてもらいます」
俺はちょっと温かい気持ちになって店を出た。