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第13話 〜女は強し〜

 おかんの言葉に金子さんの肩がビクンと震える。

 

『……』


『舞花、ガツン言うたれ! 犯人は桐山陣きりやまじんやってな!』


 その名前ここで聞きたなかった。あの人を勝手に犯人扱いされた俺の心は掻き乱され、怒りがこみ上げてくる。


『オッサンは黙っとれ!』

 

 おかんは机をぶっ叩いて喚くオッサンを制す。この親父一体何やねんな?俺は金子さんとは似ても似つかぬクソ親父に嫌悪感を覚える。


『家族間の事に口挟むなババァ!』


『お前に言われたないわ! それやったら余所の学校で醜態晒すな見苦しい!』


 オッサンの罵声におかんも負けてない。決して大人しい性格ではないがたまに見せる破壊力は息子の俺でも怖い思う時がある。大人の怒号飛び交う中金子さんは小さな体を更に縮こませ、先生は呆れ返って長いため息を吐いている。


『まぁまぁ落ち着いて有岡さん』


『落ち着くのは有岡さんだけでしょうか?』


 八杉氏の苛つく仲裁気取りに先生は眉を顰める。議員先生様は気に入らなさげに睨みつけているが、嫌われ慣れてるだけあってそんなものはどこ吹く風といった感じやな。先生、もうじき卒業ですが今俺はあなたを尊敬しております。


『金子さん』


 先生は体を縮ませ俯いている金子さんに声を掛ける。


『気持ちが落ち着いてからで構いません。あなたのタイミングで、あなたの言葉を使って本当の事を話してください』

 

 先生の言葉に金子さんは少し落ち着きを取り戻したようだった。丸くなった背筋を伸ばし、顔をすっと上げておかんをじっと見つめてる。

 ‎俺は彼女を綺麗やと思った。ときめきやとか恋心とは違うもんやけど、さっきまでの弱々しさを払拭させて覚悟を決めた瞳には芯の強さが全面に出ていたように思う。十五年経った今でもその美しさはハッキリと覚えている。


『あの日私は一人で源泉町の繁華街に行ってました。少し派手な格好でお化粧もして、高校生やとバレないよう歳もごまかしていました。その日遊ぶお金が欲しくて出会い系サイトで知り合った男性に会う予定でした。ところが学校の先生とニアミスをして、結果その人とは会わずに先生から逃げ回ってゲームセンター脇の路地裏に隠れていたんです。そしたら頭一つくらい身長の高い男性が現れていきなり突き飛ばしてきたんです。顔は暗がりで見えませんでしたが、薄めの青地に派手なピンクの花柄の半袖シャツを着ていたので……』


『それで桐山陣やと思ったんやな』


 と勝手に話を繋げてくる八杉氏、つい今しがた『顔は見えませんでした』言うたとこやん、大事なとこ揉み消すなやおっさん。


『待ってください、顔ははっきり……』


『話を拗らすな! 三月にそんな服着てる奴他に誰がおるんや!?』


『そんな事言われても桐山陣いう方のこと……』


『ええ加減にせえ!』


 金子さんの言葉はクソ親父によってことごとく遮られ、彼女は遂に口を噤んでしまった。

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