第9話 〜俺の知らんとこで〜
コダマ用(とは言うておくが納得出来ん)の食パンが焼き上がり、半分はそのまま、もう半分は適当な具材を挟んでサンドイッチにしてから二階のベランダからサキちゃんの部屋を経由してルミちゃんの部屋に向かう。中から漏れ聞こえてくる声からして確実に四〜五人は居る、俺は一人でもこのおかしな宗教から目を覚ましてほしいと思いながら部屋のドアをノックする。
『はぁ〜い』
「パン焼けたから開けてくれる?」
はいは〜い。ルミちゃんは嬉しそうな声で返事してからドアを開けてくれる。
「うわぁ♪ 美味しそうやねてっぺちゃん。それよりこのまんまのやつ誰が食べんの?」
それはな、君が崇拝しとるアホ教祖が食うんやで。しかも丸かじりでな。
「それは私のだ、男は黙って丸かじりすべし」
「「「ダマ様カッコイイ〜!」」」
見た事無いJK共(ルミちゃんの友達にこの言い様は悪いな思うけど)がコダマのアホ丸出しの発言を賞賛しとる。うん、君ら結構重症やな。
「あれ? 私この人見たことあるよ」
初見のはずのJK一号(取り敢えずそういう事で)が俺の顔をじっと見つめてくる。そういうの慣れてへんから勘弁して。
「そらそうやろ、学校の先輩なんやから」
ルミちゃんの言葉に首を振るJK一号。
「ちゃうちゃう、今朝ダマ様の呟きで見たんやって」
ほら。JK一号はケータイの画面をルミちゃんに見せとる。幸いと言うべきかそれは俺の位置からも十分に見え、瞬間開いた口が塞がらんかった。
「……」
「へぇ、良う撮れてるね」
いや問題はそこやない。何で俺の仕事風景が奴の呟きにアップされとんのや?着とる服から察するに昨日やな、お前いつの間に役場来てたんや?
「おい何のつもりや?」
「ん? 何がだ?」
コダマは俺を見てニヤッと笑う。
「こんなんされたら迷惑や、消せあほんだらが」
「心配無用、日付が変われば自ずと消える」
そういう問題やない、勝手に俺のプライバシーを全世界に晒すな。ホンマならぶん殴りたいとこやけど何の罪もないJKを巻き込む訳にもいかん。
「俺は一般人や、無断で顔晒される言われはない」
「まぁそう言うな、こうすれば“あの人”がこの町に戻ってくるかと思ってさ」
こんなとこで“あの人”を引き合いに出すな。
「こんなんで戻ってくる訳無いやろ」
「いや、彼はフォロワーだから必ず見るはずだ。そして一目散にお前に会いに来るだろう」
コダマは変に勘が働くところがあり、時々予言ちっくな事を言うてはよく現実に起こっていた。それを何度か目の当たりにしてきた俺の心臓はバクバクと脈打ち始める。
俺には“あの人”と対峙する心の準備はまだ出来てない、正直に言えば会いたくない訳やないけど今更会うんは怖い。いや、合わせる顔が無いと言った方が正しいんかも知れん。