プロローグ
初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。烏峰 鴉です。
現実での生活が忙しく、全く更新出来ていないのにプロットだけ厚くなってしまった執筆作品の資料を紛失してしまった腹いせに、両親の怒声を無視し一日で書き上げてしまいました。
楽しんで頂ければ幸いです。
※誤字脱字等があるかもしれません。もし見つけてしまった、という場合、よろしければ作者に教えて下さい。
『End or Start Onlain』、通称『ESO』。
科学技術により、電子世界上に自身に分身を創り出し、その創り出した分身をまるで操作しているかのような状態を利用したゲームジャンル、『VRゲーム』の中盤に、大手ゲーム会社、『アルトラ』により生み出されたこのゲームは、ゲーム業界に新たな可能性を投じた。
このゲームが出る直前、VRゲームは使用者の飽き等により、伸び悩みしていた。
何故なら、自分自身がまるで空想上の英雄になったかのような気分を味わうことは可能であったが、多人数と関わる『MMORPG』がなかったからだ。
製作者側もそのこと事態は理解していたが、専用の機器はともかく、その膨大な量のデータ量を支えることの出来るサーバーを用意出来なかったことが大きな原因だった。
そんな中、アルトラが発表した世界初の『VRMMORPG』は画期的であり、数多のゲーマーを魅了し得るものだった。
その世界初のゲームこそ、『ESO』であった。
瞬く間にゲームは売れ、店には発売の一週間前には既に行列が出来る程の熱狂を呼び起こしたゲームは、莫大な支持を得て、10年もの間、VRMMORPGの先頭を走り続けていた。
普通ならば廃れていくのだろうが、ESOは普通ではなかった
他のゲームの追従を許さない美麗なグラフィック、多岐に及ぶキャラクタークリエイトの可能性。
細部まで造り込まれたストーリーに、人が操っているのではないか、と思わせる程に感情豊かなNPC。
全てが全て一級品であり、世代を越えて愛された。
そんな『ESO』にも、終わりの時期が来ていた。
運営である、アルトラの社長の代替わりと共に、サービス終了が決まったのだ。
社長に就任したものが、先代の社長が残した大きな実績を潰したかったのが大きな理由だ。
サービス終了が決まったゲームにわざわざ残ろうと思うものは余り多くなく、終了が近づくにつれ、長年続けていた古参プレイヤーも離れ、ゲーム内の街の人通りが少なくなっていったのも道理であった。
その中、サービス終了の直前まで残り続け、最後を見届けようとする物好きもいた。
親しかった者と集まり、ゲーム内で宴をする者、思い入れのある場所で静かに終わりを待つ者。
そんな中、他の者と同様に自身の思い入れが最も強い場所で待つ者がいた。
荒れた荒野に堂々とたつ、巨大な石造りの城。
その城の中心にして心臓部、玉座の間で腰かける1人の少女の姿をしたプレイヤーがいた。
アバターである少女の名は、リーゼロッテ・フロイレン・ナハト。
プレイヤーの名は、観敷 悠一。
悠一の使う彼女、リーゼロッテの名をESOを少しでも齧ったものの中で知らぬ者はいない。
ESO世界での生きる伝説。
圧倒的なプレイヤースキルと、際立つ美の結晶のようなキャラクターの容姿。プレイヤーながらにして、公式チートとまで呼ばれた最古参の1人。
強過ぎたが故に、二柱のラスボスの一柱として運営の依頼を受け、ラスボスとして公式と化したもの。
全プレイヤーを巻き込んだラスボス同士のイベントバトルは未だに色褪せることなく語り継がれていた。
哄笑を上げながら突き進み、一切のダメージなくプレイヤーを殲滅したなど、誰が忘れられようか。
だが、そんな伝説も結局は電子上の存在。デリートには抗えない。
玉座の間にて悠一は思い返していた。自身がリーゼロッテとして歩んだ時間を、歴史を。
おもむろに開いたステータスウィンドウに映る黒と白を貴重とした、可愛らしいゴスロリ服を身に纏う美しい美少女を眺めながら思い返すのは始まり。
最初は悠一もただのプレイヤーに過ぎなかった。
この世界はあくまでゲームだ。いかに現実に近くても。
その中で、悠一だけはゲームとは思っていなかった。
ESOは悠一が初めてログインした時から、悠一を魅了した。もう1つの生きるべき世界として。
それから悠一は、自身の持てる全てをESOに注ぎ込んだ。
金、時間、取れる有給は全て取ったし、金は課金アイテムに全て注ぎ込んだ。
そんな悠一は、もともとの才能もあってか、ただ一人突出した。
どんな高難易度のクエストであろうが、イベントであろうが、レア中のレア種族の、真龍姫の高ステータスとスキル、圧倒的なプレイヤースキルで、ソロで、クリアし続けた。
そんな彼に、運営が目を付けたのはある意味当然だったのかもしれない。
ある日、ログアウトした彼のもとに一通のメッセージが届いていた。
そこには、運営からの『観敷 悠一様、このESOでラスボスになりませんか?』というメッセージだった。
悠一は1つ返事で了承した。悠一からすれば、断る理由は皆無に等しかった。
このメッセージは、この世界の自身の努力が認められた様に感じた上に、自分の愛する世界の重要な歯車の1つとなるということなのだから。
それから、綿密な打ち合わせの上に、公式発表となった。
自身が今現在いる、バングラッシュ城の玉座の間からプレイヤーに対して告げた言葉は今でも鮮明に思い出せる。
『我は真龍姫。龍種の頂点にして、この世界の始まりと終わりを告げるNO.0。臆病なものよ、そこで震え怯え、貴様らが尊敬するNo.10に祈るがいい。我に挑む勇敢な者よ、我はここから動くことはしない。存分に挑むがいい』
今思い返せばかなり恥ずかしいことをしたと思うが、あれはあれで楽しかった。
この直後のプレイヤーの反応は凄く、掲示板は乱立し、入城するものは後を絶たなかった。
結局、運営によりラスボスに相応しい程に強化された、悠一の操るリーゼロッテを倒すことの出来た者は現れなかった。
まぁ、リーゼロッテとはいえ、悠一が操作していない時までは無敗とはいかなかったが。
昔のことを思い返す内に、デリートの5分前を告げるアラートが鳴り響いた。
遂にこの時が来たか、と悠一はウィンドウを消す。
意識を切り替えた悠一の脳内に浮かぶのは明日の仕事のことだった。社会人として生活していく上で身に染み付いた癖がこんな場面で出るとは、と苦笑した瞬間に、雫の落ちる音が玉座の間に響いた。
悠一は思わず頬に手を当てていた。
VR技術により再現された五感。悠一の操作するリーゼロッテの細い指に少し暖かい水の様な感触を与えた。
無意識に流れ落ちていた涙の感触だった。
結局切り替えられてはいなかった。
心の奥底から湧き出す、叶うはずもない願望が滲み出し、リーゼロッテの喉から漏れ出た。
「…まだ…まだ続けたかった…もう一度見たかった…道を埋め尽くすプレイヤーを…俺に…我に挑むプレイヤーを…」
ふと視界に入った時計には、23:59:50と表示されていた。
もう既に10秒もなかった。
カウントに合わせるように悠一もカウントを始める。
9
8
7
この世界が、長い夢だとしたら…
5
4
3
2
1
永遠に…覚めて欲しくはないな…
00:00:00
ESOと呼ばれるゲームは電子世界から消えた。
観敷 悠一と呼ばれる男も消えた。
まるで夢のように世間の人々の中から消えるように……