序章 昔話-トモシビ-
和風ファンタジーリベンジ作です。今度は頑張ります。
昔々ある霊媒師の夫婦の間に玉のような赤子が生まれました。
灯と名付けられたその赤子は、両親の愛を一身に受けすくすくと健やかに育ち、16の頃になると両親を上回るような立派な力を持つ心優しい少女へとなりました。
少女はその力で妖怪や悪霊を払うことを生業としていました。彼らは普通の人間からでは触ることもできない代物ですので、唯一彼らと渡り合える少女ら霊媒師はそこらの地主さまより偉いとされ、沢山の供物を受け取っていました。
それらを手に欲に溺れる者もおりましたが、少女は違いました。
少女は人が好きでした。彼らが笑ってくれるのであればと、何日も何日も一睡もせずに妖怪を払い続けました。
少女は家族が好きでした。よくやったと頭をなでる父親たちのためを思えばと、たとえその身を幾千の矢が襲おうとも弱音を吐くことをしませんでした。
そして少女は18になった時、好きだった者たちの手によって殺されました。
年を追うごとに強く強くなっていく少女を、周りが危険だとみなしたのです。ある者は少女への嫉妬で、ある者は少女への恐怖で、ある者は少女への憎悪で、床に就いていた少女に思い思いの暴力を浴びせました。その中には、少女に村を救ってもらった村人やさらには少女の両親もいました。
彼らは皆一様に涙を流しながら、それでも手を止めることはしませんでした。
すべてが終わった後、血まみれになった少女の部屋に、一つの影がありました。
「ああ、だから言ったのに。」
地に濡れた畳に顔をしかめることもせず、確かな足取りで部屋の中央にある少女、だった肉塊に近寄ります。
暴虐の限りが尽くされた少女はそのまま放置されていて、大人でさえも吐き気を催してしまうような状態でした。
影はそっと白く長い指を伸ばし、一言。
「馬鹿な子、馬鹿な灯。君はどうしようもなく馬鹿で愚鈍で脆弱だ。家族の情なんて持たなくてもよかったのに。同族の情なんて掻き切ってしまえばよかったのに。そんな君だから、君のせいでこれから死ぬ奴らに涙を流すのだろうね。奴らの手で自分が死んだっていうのに。―――ああ、胸糞が悪い。」
次は、もっとちゃんと、人を憎める子になるんだよ?僕らの愛しい子。
影、その土地一帯の主ともいわれた白鬼は、泣きながら嗤いました。
その後、肉塊の始末をと部屋に入った人間は、そこに少女を見つけられなかったそうな。
彼らの行方も彼らの末路も、知る者はいない。
そして、少女を殺した人々がどうなったのかも。
―――そして時は流れ現在、ある神社の夫婦の間に玉のような赤子が生まれました。
それを見て笑う影一つ。
「さあ、始めよう。君が僕らを愛するまで。君が人間に失望するまで。コチラ側に来るその日まで。何度だって。」