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古の竜と白薔薇の姫  作者: 芦屋莉雨
白い薔薇の城
7/19

「ルイ、アル、こんなところに居たのか。」

「あ、ロメッタさん」


 不意に声を掛けられて振り向く。そこに立っていたのはアルの母親であるロメッタさん。


「ご飯食べ終わってからでいい、あとで研究室に来てほしい。待ってる。」


 それだけ言って、身を翻して来た道を戻っていく。忙しいんだろうな…。


「任務かなぁ、さっさと食って行くか。」

「ん、そーだね」


 半分くらい残っているサンドイッチを急いで口に詰め込む。アルは食べるのも早いから、もうほとんど食べ終わっている。


「…喉詰まらせるなよ。」

「うん」


 …と、まあ、デザートまでキチンと全部食べて、キャシーさんにちゃんと感想を伝えてから、研究室に向かう。


 廊下の奥まった所に位置する研究室。いかにも怪しい雰囲気だからか、研究班以外はあまり近付かない。中身は科学オタクと機械オタクばっかりっていうのもあるんだろうけど。…色々使える道具を作ってくれるから口出しはしない。


 研究室に着き、数回ノックをして返事を待つ。けど、返事より先に聞こえたのは爆発音。


「またなんか爆発したな…」

「そーだね…仕方ない、勝手に入っちゃおう。」


 返事は期待出来ないと判断して、ドアを開ければ案の定煙まみれ。爆発の原因の元に居たらしい研究員が数名咳き込んでいる姿に、苦笑いをして、目的であるロメッタさんの元へ向かう。


「ああ、来たか」

「オレとルイ指名ってことは任務?」

「そうだ、場所はハーディア。」


 言いながら、後ろのホワイトボードに貼られた地図を指す。そして、資料として数枚の纏められた紙を手渡される。ハーディア、今居るセイルーンより北に位置する、栄えた港町。


「探索部隊の話によると、ここ最近ハーディアに魔族が現れるようになった、それとほぼ同時期に魔族に対抗する力を持った歌姫が現れた。宝石(ジュエル)の力かどうかはまだ確認出来てないらしい。」


 魔族とは、屍人(アンデッド)が作られた最下級魔族であるのに対し、破壊衝動が本能の厄介な種族。姿形は人間に近いものから、異形なものまで様々な姿が存在する。魔族も屍人と同じく宝石の力か、宝石竜(ジュエルドラゴン)の力でしか対抗出来ない。


 魔族に対抗してる時点で宝石持ちなのはほぼ確定だろうけど、と呟いて、纏められた紙を捲るロメッタさん。…歌姫、ねえ。


「ルイはどう思う?」

「ロメッタさんの読み通りだと思う…けど、まあ確認してみないとなんとも」


 言いながら肩を竦めてみれば、それもそうだな、と笑う。


「というわけで、ハーディアには明日向かってもらう。朝出れば夕方には着くだろうから、本格的に探るのは明後日から、といったところか。今日はしっかり休むといい。特にルイ。」


 名指しされて、少しギクリとしたあと小さくため息を吐いて口を開く。


「…よくわかったね、体調悪いのアル以外の誰にも気付かれなかったのに」

「何十年一緒に過ごしてると思ってるんだ、わかったらさっさと休む!」

「はぁーい」


 それだけ返事をして、研究室をあとにする。少し歩いたところでまた爆発音が聞こえたけど、研究室の日常の一部だから気にしないことにした。


「うーん、歌姫かぁ。」


 アルと二人で並んで歩きながら、資料にザッと目を通して呟く。


「歌姫がどうかしたのか?」

「いや、別にどうにかってわけじゃないんだけど。…会ってみないと始まらないしね。」

「まー今悩んでもわかんねーしなぁ。」


 それもそうだ。だから現地に向かうわけであって、離れた場所で悩んでたって答えは出ない。でも気になるものは気になる。


「で、アルは何で平然と私の部屋の前に一緒に居るの?アルの部屋はまだ先なんだけど?」

「暇だから。」

「ああそう…」


 多分これ以上何を言っても無駄なだけだから、そのままアルと部屋に入る。


「いつ来ても生活感ないよなぁ」

「あんまり物ないからじゃない?」

「あー…そうか、そのせいだなぁ。」


 ぐるりと部屋を見渡して納得するアルを横目に見ながら、ベッドに腰掛ける。…アルが居ると、考え込まなくていいからそこは楽だ。そう思っていたらアルが隣に座るのかと思えば、部屋の主である私よりも先にベッドで横になるし。


「……このベッドで二人が寝転がるには狭いって何回言ったら覚えてくれる?」

「まー、オレはちょっと横になるだけだし、良いんじゃね?」

「何がいいのか全くわからない」

「ルイが寝たの確認したら出てくって、どうせ放っておいたら寝ないじゃん」


 全部見透かされてる。ひとりになるとどうしても考え込むから、よっぽど疲れてないと寝れないのもバレてた。そんなことを思ってる私を見かねてか、ん、と言って手を広げるアル。


 私は、この手を受け入れちゃいけないことくらいわかってる。もう手遅れなこともわかってる。それでも、本気で突き放せないから、拒めないから。


 アルの腕に頭を乗せて、目を閉じる。ゆっくりと背中に腕を回されて、アルに抱きしめられてる形になるけど、自分の腕をアルの背中に回すようなことはしない。


 そして、ゆっくりと眠りに落ちていく。



************************



「寝たな…」


 あれからどれだけ経ったか、ぽつりと呟いても反応がないルイの頭の下からそっと自分の腕を引き抜く。


 ルイの立場を知ってる上で、こういう風にルイに接するのは間違ってるかもしれない。だけど、時間が限られているなら、例えルイがオレの手を取ることがないとしても、一方的でも触れていたいし一緒にいたいと思う。


 それがどれだけルイにとって残酷かも知らずにいるオレは、ただのエゴイストだ。


 ルイに気付かれないよう、一束髪を掬って口付ける。軽率にキスしたりしようとするけど、寝てる無防備なルイの隙をついて自分の好きにしようとするには、大切過ぎるから。


 そっと部屋を出て、とりあえず自室に戻ろうと廊下を歩いてたけど、途中で方向転換をして、街に向かう。


 適当な女引っ掛けて遊んで来よう。自分で言うのもなんだけど、それなりに目立つ容姿をしてるから、頭悪そうな女なら簡単に引っかかる。一日だけなら後腐れ無くて良いし。…名前も知らないどっかの誰かの方が楽だ。



 ルイの代わりにしてるってバレても遊びだし良いじゃん、で終わるくらい淡白なやつが良い。




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