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古の竜と白薔薇の姫  作者: 芦屋莉雨
白い薔薇の城
6/19

 アルと連れ立って食堂に来たは良いものの、お昼のピーク時間は過ぎてちらほらと空席があるとはいえまだ食堂は賑やかな時間帯だ。ひとまずお腹を満たす為に注文口へ向かう。


 申し訳程度に数種類メニューが載ったボードがあれど、一応形式だけだ。食べたいものを好きにオーダーする方式故に悩んだ時の一例として置かれているだけ。食堂を見渡せば中華から和食、洋食、多様なものが机に並んでいる。


 どれを取っても美味しいのがここまで足を運んでくる大きな理由なのだけど。基本的に4、5人程度しかいない厨房に対してピーク時には多くて100以上のオーダーを完璧かつ迅速に捌く料理長が最早名物になっているのも理由のひとつ。


「キャシーさん、サンドイッチひとつ。」

「と、ハンバーガーにフライドポテトにフライドチキン」

「あらァ、ルイにアルじゃなァい。相変わらず一緒で仲良いわねェ」


 こんな喋り方だし、見た目もちょっと体格の良い…ぽっちゃりとした普通の女の人に見えるけど、れっきとした男、らしい。本人は性別なんてどっちでも良いのよォ、とか言うし、まさか付いてるかなんて確認するわけにもいかないし。名前も多分本名じゃないと思う…けど、まあ、気の良い人には変わりない。


「でしょぉ、オレとしてはもっと仲良くなっても良いと思ってるんだけど」

「ルイは手強いんじゃなァい?」

「そーなんすよー、まあ持久戦かなぁーって」

「あらやだ、頑張りなさい!ピクルスいっぱいサービスしちゃう!」


 アルとキャシーさんが会話してる中に入っていく気もおきなくて、ただキャシーさんの手元を眺めてたんだけど。会話しながらでも動きは素早いんだから感心する。


「ル、イ、ちゃーんっ」

「わっ、…流宇(るう)、どーしたの」


 名前を呼ばれるのと腰あたりに抱きつかれた感覚はほぼ同時。…そんなに真剣にキャシーさんの手元見てたかな…全然気が付かなかった。わしゃわしゃと両手で頭を撫でてやれば、髪の毛ぐしゃぐしゃになる、と怒る流宇。…うん、元気そうだ。


「ご飯食べ終わったの?」

「うん、ロメッタさんと食べてたんだけどね、お仕事まだ残ってるからーって行っちゃった。」

「そっか」

「で、ルイちゃん見つけたの」


 にぱ、と笑う流宇は子供らしくて可愛いなあ、と思う。こうして見るとどこにでもいる普通の子供なんだけど。白薔薇の戦闘部隊に居る以上普通ではない。


「アキラさんは?」

「おとーさんは朝ちょっと会っただけだよー。」

「ふーん…忙しいのかな」

「かもねー。」


 アキラさんは流宇の父親で、白薔薇の医療員のひとり。流宇と一緒に白薔薇に入団して、今では必要不可欠と言っても過言ではない程優秀な人材だ。


「あらん、流宇ちゃん。…あ、そうだ流宇ちゃんまだ食べれる?試作したデザートがあるんだけど、感想聞きたくて。どう?」

「まだ全然はいるよーっ。わーいっ」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ流宇。デザートひとつでここまで喜べるんだから単純だなぁ…。


「ルイもいる?たくさん試作したからおまけしとくわね。」

「わぁ、ありがとう。」

「アルーーは、甘い物あまり好きじゃないものね。」

「あは、さすがキャシーさんわかってる」

「アルが子供の頃からの付き合いだからねェ、はいお待ちどうさま」


 差し出されたお皿には少し控えめな量が盛られたサンドイッチ。アルの方はボリュームたっぷりに盛られている。あんまり食べない私と、よく食べるアルのことをよくわかってる。流宇はデザート貰ってはしゃいでるし。


「ここにしよっ」


 近場の空いている席に走っていって、手招きする流宇。テーブルを挟んだ正面に座り、隣にアルが座る。デザートを口に運んで目を輝かせる流宇を眺めながらサンドイッチを頬張る。


「流宇はいつも幸せそうに食べるなぁ…なあルイ?」

「キャシーさんの作るものは美味しいもんー幸せーっ」

「まあそれは認めるけど…あっ、勝手にポテト食べるな!」


 こっそり取ってみたけど、やっぱりバレた。でもすでに口に放り込んだあとだからお構いなし。


「ポテト一本くらい、いーじゃん、ケチ」

「違う、食べたいなら、あーんってしてやるから言えって話!」

「………ほんとアルはアルだね…」

「…ねえ、アルとルイちゃんは付き合ってないんだよね?」


 面と向かって聞かれて、一瞬言葉に詰まる。


「…付き合ってないよ。」

「そんなに仲良いのに?」

「仲良いのに。仕事のパートナーだしね。」

「ふぅん………キャシーさんに美味しかったって感想伝えてこよっ、またねっ」


 口にサンドイッチがつまってたから「ふむ、」とか適当な返事をして手を振れば、キャシーさんも元へと走っていく流宇。いつもながら忙しそうな子だ。


「仕事のパートナー、ねぇ?」

「何か不満でも?」


 サンドイッチを飲み込んで、そう返せば「いや別に」と意味有りげに笑うアル。ノーコメントな私を横目で見て、「素直じゃないなぁ」と呟いてハンバーガーを口に運ぶ。



そんなアルに何か言おうと思ったけど、やめた。アルは、わかってて言ってる。


 

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