入学式へ
快晴!海は穏やか!気持ちのいい潮風!……いやちょっと待った…潮風って気持ちよかったかな…まあいいや。取り敢えず今日は俺の高校の入学式!俺が行く高校は学費、食費、生活費が全てタダ!そして卒業すればその先の人生は金に困ることはないという素晴らしい高校だ。しかも国立!よくも俺みたいなのが受かったなと不思議に思う……。だがこの高校は海のど真ん中に存在する島で、大きさは東京ドーム……あれ?何個分だっけな、記憶力が悪いからなぁ覚えてねぇや。この島への行き方は一日一回出航する大型の船で十時間以上波に揺られながら行かなくてはならない。俺の他にもこの船に乗ってる入学生は多くいるだろう。ああっ…入学式が待ちどうしいぜ!俺が外でそう思っていると
「ねぇ?そこの男子?」
「ん?」
可愛らしい女性が話しかけてきた。大きな瞳に枝毛の無さそうな黒髪のショートヘア、そして白いワンピースにそれと同じくらい白いと言えそうなきめ細かな肌。そしてなんとも目を引くのが首に巻いているマフラーだ。やっっべ超可愛い!
「君も…東京都国立学問・実技総合高等学校への入学者?」
「えっ?あ、はい」
どうしよ、見とれててよく話を聞いてなかった
「まぁそうよね。この船に乗ってる私と同じ年齢に見える人って全員そうだろうな」
「あぁ…確かに」
「あっそうだ!ねぇ君偏差値幾つ?」
えっ?偏差値……ってあれか
「ええっと…確か三十五……いや三十だったけな…」
「ふぅーん、なるほど噂は本当だったんだ」
「えっ?噂?」
「君ここの入学試験の時耳にしなかった?『ここはたとえバカでも受かり、天才でも落ちることがある』って」
「あ、確かにそんなこと聞いたことあるな」
確かに俺と同じ中学だった偏差値70越えの天才が落ちたし
「実際テスト内容もわたし達をバカにするようなものだったし」
「えっ?アレがバカにするようなものだって!?」
ウソだろ……俺が頭をフル回転させて解いたやつがそんなに簡単だったのか!
「あははっ…君ホントはもっと偏差値低いんじゃないの?数学の大問一の問題なんて小一でも答えれるようなものだったじゃない」
「えっ!うそ!まじで!」
「まじよ、まじ」
彼女は笑い混じりの返答をした
「うわぁまじか…偏差値言っても笑われないと思ったらここで笑われるとは……」
「ははっ君面白いね。そうだ君の名──」
ピンポンパンポーン
突然の船内放送によって彼女の言葉は遮られた。
『乗客の皆様、そろそろ目的地に着きますので降りるための準備をお願いします。繰り返します、乗客の皆様、そろそろ目的地に──』
「あぁー、もう着いちゃうか、それじゃ!また会えるといいね!」
そう言い彼女は駆け足で船内に入っていった
「可愛かったな………あっ!やべっ!名前聞いてなかった!くそォ俺としたことが!走っていったら間に合うかな……いやでもその前に支度をしないと」
俺も船を降りるための準備をするために部屋まで小走りで行った
◇
「くっ…俺の荷物こんなに重かったけな…」
俺は荷物を全てなんとか持って船を降りたのだが港には俺と同じように荷物を持った人がたくさんいた
「へぇ…この船の中にこれだけの人がいたんだ」
俺がそのことに少し驚いていると少し離れた島側からスピーカー音が聞こえてきた
『えー、入学生の皆様。これからクラス順に並んでもらいます。右から一組二組と、一番左には十組となるように並んでもらいます。皆様は自分のいた部屋のナンバーは覚えているでしょうか?覚えていない方は後で前の方に来てください。そのナンバーが貴方の学年、クラス、クラス番号です。例えば10123だった場合一年一組二十三番となります。わかりましたらクラス順に並んでください。わからなかった方はスピーカー音が聞こえる方まで来てください。以上。』
「へぇ……あのナンバーが番号だったのか…ええっと確か……最初の文字はなんだったけな?その後は1050だったのは覚えているけど…仕方ない聞きに行くか」
聞きに行った俺はアナウンスしていた女性から、入学生は皆一年だから最初の文字は一に決まっておるだろう。と言われ頭を叩かれた。
いざ、クラス順に並んでみると俺が一番後ろなので一クラス五十人なんだろうな。ってことは入学者は十掛け五十で………ええっと、うーんと…………
「あっ!五千人か!」
と、つい口に出したら前に居た人が
「プッ…もしかして君、入学者人数計算してたの?」
「え、あ、うん」
「阿呆。十掛け五十は五百だろう」
「あっ…」
やばい……入学早々ミスを…。いやまだ入学してないか。
「十組の五十番がどんなやつかと思えば…すごいやつやな」
「へっ?それってどういう…」
「あ、知らないなら別に知らなくてもいいよ」
「何それ余計に気になる」
「まぁまぁいつか分かるから」
十組の五十番にどんな意味があるのだろうか……
俺が考えていると
後ろに先生らしき人がいつの間にか立っていた
「あ、そろそろ動かないといけないね」
前にいた彼女がそういった時
「十組の皆様。荷物を持ってください。寮まで移動しますので」
「寮…」
「ん?君寮ないと思ってたの?野宿するつもり?それとも通学でもするの?」
「ちっ、ちげぇよ!……歩くの面倒だなぁ」
俺は渋々また重い荷物を持った
「いや君、寮まで歩くわけじゃないよ。ププッ」
「へっ?」
俺が返事をすると目の前に五十人が乗れそうなバスがとまっていた
「ここが、貴方達十組の寮でございます。部屋割りは与えられた組―出席番号と同じ数字の部屋となります」
すげぇでっけぇ…まぁそりゃあそうだろうな…一人一部屋、それで部屋もなかなかの大きさって聞いたしこれぐらいの大きさになるんだろうな。隣にも同じ寮がいくつもあるから一組から九組の分なのだろう。しかし反対側にも寮があるのだが……十組の分が真ん中に来るわけではないだろうし……なんなんだろう。
「ねぇねぇ、君」
「ん?」
またさっきの女子だ。
「ここの寮はね、一番から五十番になるに連れ部屋がしょぼくなるら─」
彼女が言い切る前に先程話をしていた先生らしき人が
「因みに今のところは皆の部屋の大きさ質は同じなのでご安心を」
と言った。
「チッ」
「んー?しょぼくなるがなんてー?」
舌を鳴らしたので、少々からかってみた
「うるさい!」
可愛げのねえやつ……だけど『今のところは』って何だったんだろう。
「では皆様、お荷物を自分の部屋に置き、中学時の制服に着替えてきてください。着替えた人から再度バスに乗り今度は校舎の方に向かいます。」
「あんた制服ちゃんと持ってきとるか?」
「持ってきとるわ!」
その後、俺は荷物を持ち自分の部屋まで歩いていった。
「うわっ、広っ!」
これから俺の住む部屋は2階にあり、中に入ってみると普通のアパートと変わらないくらいの大きさだった。トイレと風呂は同じ部屋にあるかと思ったがしっかりと別れており、家電製品も揃っていた。
「へぇ……ここがこれから俺の住む家か………おっといけね荷物を早く置いてバスに乗らないと!」
俺は荷物をリビング?らしきところに置き部屋を出たのはいいのだが、鍵をもらってないことに気がついた。
「………鍵なかったら盗まれるんじゃねえの?」
そう思いながらドアを開けてみたら靴箱の上にこの部屋の鍵がちょこんと置いてあった。
「あっ…」
そして、鍵を閉めた俺はもう一つの事に気がついた。
制服に着替えていない。
俺はその後急いで着替え、なんとかバスに乗り、十組を乗せたバスは校舎のほうに向かった。
「ふぅー」
「なんや?もう疲れたのか?」
「疲れてねぇよ。」
またまた先程の彼女に話しかけられた。
「あ、何だあれ」
俺が見ていた方向に一台の少々大きめのヘリコプターが止まっており、その場に向けて十人いるかいないかの人々が歩いていた。
「あれは課外です。」
「うわっ!」
突然後ろから話しかけられた。慌てて後ろを見ると港にいたとき俺の後ろにいた人物だった。
「すみません。驚かしてしまいました」
「いいいいやいや、大丈夫です。それより課外では何をするんですか?ヘリコプターに乗ってまで」
「それは……」
「それはここじゃ学べないことを学ぶために決まってるじゃない」
「!」
「えっ?」
先程から絡んでくる彼女の発言に俺だけでなく先生も驚いていた。
「普通に考えたらわかるやろ。この島たとえどんなに大きくても島は島。わざわざヘリに乗るっていうことは島の外に出るってわけじゃないかな」
「ええ、そのとおりです。」
「この島以外って…ここじゃ学べないことってあるのかよ!」
ある筈がない、この東京ドーム何個分かはある島で出来ない事なんか…
「あんたはバカか。」
「バカです」
俺は正直に答えたら、彼女は呆れた顔をしていた
「…まあいいや、教えるよ」
「あるのかよ」
「国会の見学」
「はっ!!!」
「な?たとえこの島がどんなに大きくとも国会が二つ作れるわけないからな。まぁ、本当は別の目的やと思うんやけどな」
そう言いながら彼女は先生の方を向いた。先生は一瞬何かを見透かされたような顔をすぐに今までの表情に戻った。
「さぁ、行きましょや。入学式に」
彼女の言葉で俺たちは入学式のある体育館に足を進めた。