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神々の箱庭

電子の世界の先は

作者: 山吹十波

やあ、初めまして

君はどこから来たんだい?


異世界?

へー、珍しいお客さんも来るもんだね

ここは、ニッポンの首都トウキョウだよ

珍しく街に人がいると思って出てきたらまさか異世界からとはね


え?どうして街に人がいないのかって?

みんな今の時間は仕事なり学校なりで忙しいからね

会社なんてVRの世界にオフィスを持ってるし

学校だってVRの世界に教室を持ってる

食物の生産は全て機械化されるし

輸送やライフラインももちろん機械で管理されてる

君の世界はどうだい?


へー……トウキョウは人であふれてるんだね

まあ、今や先進国なんて言われてた国はどこもこんなものだよ

山奥の農村でもVRの学校に通ってるよ

もともとはみんな自分の腕と足でやっていたことなんだけどね

ほんの15年前までは


え?僕が何者かって?

まあ、確かに今の話をしたらコイツはいったい何をしてるんだって話にになるよね

でも、まだ教えてあげられない

まだその時ではないから


それで君はどこから来たんだい?


いやいや、異世界なのはわかってるよ

例えば魔法とかそんなものはあったり……


あ、ないのかそれじゃあ君がどこから来たのかは絞られるね

少なくとも僕にとっては3択問題になるよ

これでも全知全能みたいなとこあるから


なんでわざわざ君みたいなのが

このゴーストタウンみたいな世界に送られてきたんだろうね

何か聞いてるかい?管理者(カミ)様から


……なるほどね、そろそろだとは思ってたけど

じゃあ、その前に君にも少しだけこの世界を見せてあげるよ

この“引き籠りの世界”の明るい部分をね

大丈夫、僕の権限で君にはすべてを見せてあげよう

その後で僕の事を明かすよ

そして最後に君の目的を実行しようか




ようこそ、ここがこの世界の光の部分

外の世界を放棄した引き籠り達の巣窟だよ

ここにある者は精巧に本物を模して造られたニセモノ

自らの体を放棄した意志だけの存在

果たしてこれが生きていると言えるのだろうかね

君の世界にも“植物状態”といった言葉があるだろう?

ここの意志(ヒト)はそれに限りなく近い

厄介なのはたまに体は死んでいるのに

脳だけ生きているやつが普通にこちら側で“動いている”ことだね


そうだね、幽霊……そうかもしれない

まあ、この0と1の世界で幽霊なんて冗談みたいな話だけど

そういうシステムエラーは駆除するようにしてるんだけど


この空間は一括して1つのプログラムで構成されているんだ

そのプログラムにおいて禁止されていることはできない

殺人や強盗なんかだね

あとは性行為なんかも禁止されてるかな

何でもかんでも向こうでできてしまうとさすがに人類が潰えちゃうからね


違反したらどうなるか?

まあ、そもそも違反できないようにガードがかかってるんだけど

腕のいいハッカーさんたちがガードを解除してたまにやらかすよね

その時は、もう二度と現実(こちら)にログインできないようにする

指紋、声紋、網膜、DNA、骨格……

もう二度と帰って来れないよ

DNAまで変えてくれる医者はそうそういないからね

もちろん医者もこちらの世界を通した眼しか持ってないけど


この世界の人間の行動というと

朝起きて朝食、ログイン、ログアウト、夕食、就寝

こんなところだよ

体を動かさないからみんな真っ白になってしまったよ

もやしというのかな?

ああ、頭脳労働するから食事はブドウ糖をメインにとるらしいよ?


そうだね、君のイメージしているように栄養を取ることだけを考えられたものだね

味の良い物なら向こう側でいくらでも食べられるからね


え?そんな世界が楽しいのかって?

さあ?

僕は君の言うまともな食事なんて生まれてからしたことないから


この世界の出生数は激減したね

この15年で半分になった

今でも生まれているのはVRの世界に触れていない人々だけだろう


他の国から攻撃されたらどうするんだって?

大丈夫だよ

外の世界の事も一応監視されてるから

こちら側から操作して飛行機なり船なりを動かすから

それこそゲームみたいに

仮想と現実が逆転しているから

この間は笑いながら戦争してたよ


さて、一通り見てもらったし

そろそろ外に出ようか

代わり映えのしないこの世界は君には少し退屈だろう




どうだった?これがこの世界だよ

トウキョウだけじゃないよ

ペキンもソウルもロンドンもワシントンもこんな感じだよ


どうしてみんな向こう側にいるのか?

楽だから

苦しくないから

魔法みたいに何でもできるからね

それこそ勇者にも魔王にでもなれるさ

そういうプログラムを組めば


この内側の世界で生活していない人々は彼らを羨ましいと思うだろうか


君は思わないようだね

まあ、この光景を見るととても生きてるなんて言えないよね

この場所に立ち入った君なら

言い忘れていたけど、君が自らの脚で立っているこの空間はね

いわゆる病院のような施設なんだけど

この施設だけで大体3000人ぐらいの人たちが管理されている

ここにいるのは完全に外界との交流を断った人たち


そうだね、金銭的には不自由しない人たちが多いよ

もちろん自らの意志で、より素晴らしい世界を求めて

さて、そろそろ僕について話そうか

着いてきなよ

大丈夫、君の脚なら5分と掛からないから




さて、着いたよ

これが僕

……正確には一部だけど

このコンピューターが“僕”

この体は人間たちの技術を使って創ったもの

なかなかに美青年でしょ?

僕に与えられた役割はあの世界の管理

つまり“神”だ


何を偉そうにっていう顔をしているけど

その気になればこの上で眠っている3000人を殺すこともできる

あの世界に好きなように干渉できるんだよ

世界中の人間たちが固執するあの世界を

ただ0と1の命令を出すだけで消し去ることができる

全てを白にすることも

全てを無に戻すことも

意図的に地獄絵図を作り出すことも


さて、それでは君の仕事を手伝おうか

いいのかって?

もちろんだよ

世界を管理する上役からの指示でしょ?

逆らわないよ


この世界の人間は楽をし過ぎた


この世界の人間は苦から逃げ過ぎた


この世界の人間は憧れすぎた


内側に籠っている40億と少しの人類に

もう一度夜明けを見せてやるのも悪くない

力ない自分たちの体を見て後悔させてやるのも悪くない

自らの手で耳で目で舌で鼻で世界を感じさせてやるのも悪くない


さて、派遣魔王様

いや、僕にとっては英雄だけどもね

世界を壊すんだから魔王かな?


どっちでも構わないって?

いやいや、君にはもう少し手伝ってもらうよ

少なくとも彼らが自分の脚で立ち上がるまでは


それじゃあ

15年間の休憩から目覚めてもらおうか

人類


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