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8.今 自分にできること

  自らの過去に苦しむ 主人公・シェリルが、自分なりの答えを見つけようと奮闘します。 もう少しだ、頑張れ!!

  子供たちを世話する『先生』のうちの一人、ダリアが亡くなったことで、孤児院は大騒ぎになった。

  しかも、ダリアの死の原因は、シェリルにある―――― ということが、誰の目にも明らかであり、その場にいた者のほとんどが、シェリルから後ずさっていく。


  アバママの町で起こった≪事件≫の事後処理は、虹城≪サハラ≫の上層部の指示により、極秘に行われた。 シェリルの心情や ダリアの死を 考慮したわけではなく、理由は ひどく単純明快。


  一、助けに入った 救夢士≪ロータス≫のレインは、シェリルの魔力≪ザク≫に敵わなかった。

  二、送転術者≪ヘリオン≫のトードは、素人のダリアを 送転させるという『規定違反』を犯した。

  三、後から駆けつけた ガスパーの『治癒魔法』も効果なく、結局 ダリアを死なせてしまった。


  現役の 救夢士≪ロータス≫三人が、揃って起こした≪不始末≫―――― が公表されると、虹城≪サハラ≫の評判は 地に落ちる。

  保身のため、上層部は この場にいた関係者に 口止めを徹底し、事件の現場となった孤児院も 解散・解体させた。 先生や子供たちは 他の施設へと散り散りになり、現在も 事件が世間の明るみに出ることはなかった。

  後に、『アバママ 孤児院事件』と名付けられ、虹城≪サハラ≫の歴史の闇に、葬り去られていくのだが――――― 全ての元凶といえる シェリルにとっては、絶対に 忘れられない≪過去≫である。


  一日だって、一秒だって、忘れたことはない。

  いつだって、ダリアの『死に顔』と、最後に残した『言葉』が、自分の中に生きていた。

  死ぬことも許されず、 だからといって 償うことも叶わず。

  苦しくて 苦しくて…… 弱音を吐く 権利さえ与えられない≪罪人≫―――― それでも、生きて行かなければならない、≪現実≫。



「……現実 …………」

  そう呟いた瞬間―――― 失われていた光が戻り、視界が 色付きだす。

「…… シェリル!!」

  相変わらず、無駄に大きな声が、すぐ近くで聞こえた。

  どうやら、自分は『過去』の映像を見ていたらしい。

  目の前には、青い顔をした 赤髪の男。 「あぁ、現実だ……」と、何よりも思わせてくれる、シェリルにとっては 圧倒的な存在。

  今は、ものすごく感謝したかった。 混乱しそうな 思考回路も、すべてを 吹き飛ばしてくれるから。

「…… 過去を、見ていました……」

  自分の中にある ≪闇≫の部分と、その記憶。

  こんなにも、汚い。 こんなにも、醜い。

  それこそが、唯一の≪真実≫であるかのように、サラン王子の言葉は、シェリルの奥底に 鋭く突き刺さった。


  たった一言なのに、あっけなく 揺れた心と、崩れていく 足元。 背負って生きていくことしか できないのに、それさえも満足に出来ない、不甲斐ない自分自身。

  情けなくて、泣く気にもなれないけれど…… それでは一体、どうすれば いい?

  何をすれば、正しい?  何をすれば、救われる? 

  答えは いつだって、誰も教えてはくれない。 一歩進んだ その先にしか、ない。

  わからないからこそ、留まってはいけないのだ―――― 本気で どうにかしたいと思うなら。


  『開き直ることも、時には 大事だよ』と、かつて ガスパー長官は言った。

  変えられない≪過去≫を嘆き、 ≪今≫を見過ごしてしまうのではなく。

  もう二度と、同じことを繰り返さないために。 他の誰かを 同じ目に遭わせないために。

  これから訪れる≪未来≫を、閉ざさないために―――― シェリルには、ちゃんと『やるべきこと』が、ある。

  大丈夫……と、自分に言い聞かせた。 まだ、終わりじゃない。 まだ、方法はある。

「こんな私でも…… できることは、ちゃんと残ってる」

  戦うことで、存在を許されていた。 救夢士≪ロータス≫であることだけが、せめてもの救いだった。

  夢魔だけではなく、つらい現実や、 目を背けたい過去、 不条理な世界や、 どうしようもない感情まで―――― 全てをひっくるめて。

  悩みながらでも、 苦しみながらでも、 涙を流しながらでも―――― 何度でも、立ち上がり、向かっていくこと。

  戦いに挑む『姿勢』こそ、救夢士≪ロータス≫の『真の姿』なのだから。 



  琥珀の瞳が、黄金に輝きだす。

  元より、選択肢なんて 初めから一つしかなかったのだ。 戦いを放棄した 救夢士≪ロータス≫なんて、なんの価値もない―――― 少なくとも、フレイズから そうやって学んできたのだから。

  今こそ、それを 実践すべき時。

「私が、相手になります」

  傍らで じっと見守っていた 男二人に向き直り、シェリルは きっぱりと告げた。

  この空間の主・サラン王子。

  自らの生を諦め、他者をも 飲み込もうとしている 相手に対して、今 やらなければいけないこと。

「壊します…… 何もかもを」

  自分の思い、すべてを懸けて。

  リニサールに視線を向ければ、力強く うなずいてくれた。

  「それでいい」と。 「後の事は、先輩に まかせなさい」と、言われているような気がした。

「結界を強固します―――― 決して、そこからは出ないで下さい」

  一段と大きな≪防御壁≫を作り出してから、シェリルは サラン王子の半歩前に、瞬間移動した。




  一瞬の出来事に、フレイズは 手も足も出なかった。

「……おい! まっ……待て!!」

  慌てて止めに入ろうとした フレイズの肩を、リニサールは強く掴んで 引き留める。

「何すんだよ!!」

「それは、僕のセリフだね」

  振り払おうとしたが、にっこり笑ったリニサールは びくともしなかった。

「君には、シェリルさんの 思いや覚悟が、わからないの?」

「そんなの……」

「わかっている―――― とか言ったら、問答無用で 斬っちゃうからね」

  冗談には程遠い 本気の口調で、リニサールは 親友を小突く。

「今のサラン王子を 何とかできるのは…… 多分、シェリルさんだけだよ」

  極秘扱いの≪アバママ孤児院事件≫―――― 知っているからこそ、リニサールは 言う。

「彼女だから…… いいや、彼女にしか 言えない言葉が、絶対にあるから」

  似たような 思いを抱いて、結果 ダリアを失ってしまったシェリル。

  そして、今から 同じ道を辿ろうとしている サラン王子。

「≪その道≫の 経験者の言葉は、何よりも強力だって…… 君だって 知ってるでしょ?」

「だからって……!!」

「―――― 信じなよ、自分の 元生徒のことを」

  苦しくても、辛くても、忘れることなく 全てを抱えたまま…… 必ず、光を見つけ出せるから。

「ここは―――――― 彼女に まかせよう」

  まかせて、今は じっと見守って。  それでも万が一、どうしても上手くいかなかったら。  

  その時は。

「僕が、責任を取るから」

  そう宣言をしたリニサールに、フレイズは 即答した。 『ふざけんな』、と。

「アイツは、俺の管轄だ。 この事件だって、そうだ。 責任を取るなら、お前じゃねぇ……… この、俺だ」

  嫌々ながらも、見守ることを承諾した 言葉だった。




  十八歳であるにもかかわらず、 今は 小さな小さな サラン王子。

  きっと、彼の心は、幼いときに 時間を止めてしまったのだろう。

「さみしかったんだね」

  夢魔と同調した王子は、周囲に すさまじい魔力の渦を起こしていたが、魔力なら シェリルだって負けてはいない。 攻撃に変換される前に、一つずつ消去していく。

「全てわかるよ……とは、言わないよ。 だって、私は サラン王子自身じゃないから」

  想像することは できても、本人にしかわからないことが、たくさんある。

  軽々しく 寄り添うことは、相手のためにならないと知っていたから、あえて 同情はしない。

「だけど…… 一つだけ。 誰が何と言おうと、絶対に 王子に聞いてほしいコトがあるの」


  優しい言葉なんか、言えない。  他の先輩たちのように、器用な真似も できない。

  幼稚だと 笑われようが、自分には これが精一杯のやり方だった。

「私と……勝負して、サラン王子」

  王子の 暗く淀んだ瞳を真っ直ぐ見つめて、シェリルは 宣戦布告を言い渡す。

「王子が勝ったら、好きにすればいい。 あなたが望む結末に、私は口を出さない。 でも、もし 私が勝った場合は――――その時は………」

  ―――――― 私に、あなたと話す、機会をちょうだい。



  背後で、今にも 飛び出してきそうなフレイズと、王子の従者・ステファンに気付いていたが、リニサールにまかせて、集中することにした。

  頼りになる先輩なら、少しの間くらい、きっと 何とかしてくれるだろう。

「わたしと、勝負だと……!? ……存在ごと 捻り潰してくれる!!」

  すぐさま、一斉攻撃をしかけてきた王子に対して、シェリルは 負ける気がしなかった。

「私を倒したいなら…… 全力で かかってきなさい、サラン王子!!」

  ずっと眠っていた、シェリルの『本来のチカラ』が――――― 今 目覚めようとしていた。    

  次回、いよいよ 二人の対決が待っています。

  物語も、クライマックスへ……。


  ステファンさんの活躍はあるのか…… まだ 未定です。


  

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