スワップについての解説
2012年8月19日現在。
このぼんやり解説は詳しくではなく、ぼんやりさわりだけをお伝えする程度のものです。
そしてどういう見方があるのかの解説をしているため双方の立場も想定しています。
それ故にどちらサイドにも不愉快な表現があることがありますが、これはあくまで「スワップ」という言葉の解説であり、特定政治思想に肩入れしているものではございません。
勿論個人思想はございますが、それについてはノーコメントです。
ここ数日ですがテレビや新聞で「スワップ」という言葉が流れました。おかんは言いました。「スワップってなんやねん」と。政治的思想やらは置いといてですね、たまに報道で「皆知ってて当たり前だろ!」という専門用語チックなカタカナやローマ字が出てきて置いてけぼりにされることが非常に多いですよね。記憶にあるところだとワンセグとか説明できる人あんまりいませんでした。そんなかゆいところにぼんやりと耳かき程度の手を伸ばす企画「ぼんやり解説」、今回のテーマは「スワップ」です。
●事実確認
今回(2012年8月19日現在)の報道、始まりはとてもデリケートな話なのでそっと置いておくことにして、日本政府は「スワップ白紙を検討する」と発表しました。スワップというのは「通貨スワップ協定」と言いまして、協定の種類をさす言葉です。そしてこれは沢山の国ではなく一つの国に向けたものでした。ですから正確にこの政府発表を捉えようとすると「日本政府は(経済制裁として)、日韓通貨スワップ協定を止める話し合いをしようと思う」となります。検討なので思っただけです。まだ実行していませんが可能性が高まっているというアピール、意思表示です。検討するだけでも不安定感がでますから、この検討する程度の発言であっても外交カードとして一応効果は発動しています。「君の誕生日が近いからバイトがんばろうと思う」なんて言われたらはっきりプレゼント打診はされていないのにちょっと期待してしまう程度の心理効果です。そして今回は相手国が今まで持っていたメリットを失くすかもしれないものを検討するというので、海外の投資家たちは「日本が経済制裁を考えてるらしいぞ」と月曜日からの政府の動きへ注目が動くのです。これが「現状報告」として報道されている意味です。
さて、日本政府が外交カードを切り始めたというのが前述の発言の意味であったわけですが、この外交カード、どういったものなのかという肝心の話に入りましょう。日韓通貨スワップ協定は外国為替相場で日本円と韓国ウォンが通貨危機に陥ってもお互い一定の通貨レートを使って取引ができるようにしようというもの。円高円安などで海外旅行に行くのにがお得になったけれど逆に来てもらうのは大変になったり、逆転がおきたり。仕入れと販売額の差が開いて輸入と輸出のバランスが崩れるとか。それが酷くなったときにこの協定の間では馬鹿げた数字ではなく常識的なレートでできるようにすることで影響をあまりうけないようにしようというものです。これだけみればお互いにいいように見えますね。そして無くなっても現状使用していないので状態がそんなに変わらないようにも見える(スワップを切っても変わらないぞと韓国側は言いましたね)。ですがこの協定、他にも効果はありますし、現に経済制裁として効果があると日本政府が判断したのは何故なのかというところが欠ける説明であります。風が吹けば桶屋が儲かるではないですが、経済とはたった一つの物事で帰結するものではないのです。
●日本のメリットデメリット
単に締結した事実だけ述べますと通貨危機のとき助け合えるように聞こえますが多くの投資家たちはこれに日本のメリットがないと考えています。何人という括りではなく「投資家」とします。投資家たちは国際的な取引市場において流通量が多く、容易に他国通貨との交換が可能な通貨のことをハードカレンシーと呼び他の通貨と信用度の線引きをしているからです。たとえば米ドル、ユーロ。外為に普段関わらない人でも知っているメジャーな通貨ですよね。なぜメジャーなのか。それは国際取引で使われるから。何故国際取引で使われるのか。メジャーだから紙くずにならない信頼があるから。という信頼ループが存在しています。日本円はこのハードカレンシーに分類されています。つまり日本円は外国から自国でコントロールできる信頼ある通貨であると認識されているのです(実際米ドル以外は比較的とつけるほうが良いでしょう)。
ではその日本円とスワップを結んだ韓国ウォンは対等であるのか。答えは否です。ウォンはローカルカレンシーであり、日本円より信頼度が低いと金融市場では見られております。この低いとは見下しているわけでもなんでもなく、発行国においてその通貨で多様な財と交換できること、国際的な銀行での取引ができること、換金が容易であることなどが条件とされているハードカレンシーの条件を満たしていないため信頼度が低いという意味です。対等でないということはどういうことなのか。金融危機が来ると受ける影響が違います。破綻して潰れそうな国の通貨で取引をするのはリスクが高いのでより信頼度の高い通貨へ人気が集中します。そして日本円はリーマンショック時かなりの円高になりました。きっと自国ではなく、他国で何か金融危機がおきると日本円は円高になる、みんなそう思っているのです。そして対極であるローカルカレンシーは逆効果を出すことでしょう。じゃあ高いものと低いものが間の額で取引できるスワップでいいじゃないか、なんてことはありません。かなり高額のように感じる数字が資料に踊るでしょうが、比べ物にならない額が他の国とも取引があるのですよ。市場規模がそもそも違うのですから。通貨が弱い国は限度額いっぱい使えばでかい効果があるでしょう。強い国からしたら付け焼刃です。付け焼刃でもあるだけいいじゃない、と思う人はこの協定をポジティブに見れます。役に立たないのに何してんだと思う人はネガティブに見れます。今回のように経済制裁すべきだという気運が回ってきていますと「自国のメリットはないのにあんな相手にメリットやるなんてけしからん」とやっぱりネガティブにみられます。掲示板で盛り上がる理由もコレがかなり大きいでしょう。他にメリットになりそうなものとして「アジア経済を破綻させたくないだろうからしないだろう」的なことを向こうの高官は言っていました。逆説的にアジア経済を破綻させないというメリット……一つ救ったところでどうよという気もしますのでやっぱりそんなにめぼしいメリットは見つけられない気もします。そもそも日本も韓国も物を作る国ですから守るべきはライバルよりも資源を売ってくれる国じゃないの? なんて声も在りますね。
●韓国のメリットデメリット
ではこちらのメリットデメリットも見てみましょうか。向こうでは「使ったことがない」と言われている通り、実際スワップは締結されているだけで発動してはいません。でもこれ、すごい経済効果があるのですよ。日本のメリットデメリットの時に話があったハードカレンシー・ローカルカレンシー。ローカルカレンシーである韓国ウォンは本来国際取引でそう使えるものではありませんでした。なので何処かからものを買うためには日本円や米ドルの外為を使った取引をしなければなりませんでした。しかし、スワップを日本と結んだことによって、韓国ウォンが外国為替相場でかなり大変なことになってもそれを日本円で補填できるという保証人がついたような通貨に変わったのです。ローカルカレンシーであるけれどもハードカレンシーがついている、だから破綻したことのある韓国ウォンでも取引してくれる相手ができたのです。手持ちの外国通貨が少ない国ですから自国の通貨で経済コントロールができなければ今頃どうなっていたのか。二度目の破綻は免れられなかったのではないかという見方ができます。ですから現状スワップのメリットはあの国では出ていると思います。
デメリットは何なのか。これはもう単純に日本に引っ張られているのでたとえ韓国経済が原因でなくとも日本が破綻したら共倒れです。ですが現状日本よりあちらの方が倒れそうな状態が続いていましたのであまり計算に入れる必要のないリスクではあります。
●スワップを切るとどうなるのか
単純にメリットが消失します。韓国側が言っているようにスワップのメリットなんかなかったのであれば何も起きません。外交的に結びつきが一つ解けたと言ったところでしょう。しかしメリットが存在するのであれば今の状態より悪くなるということです。日本政府は先ほど述べたスワップによって韓国ウォンの保証人をしていると思っています。つまり保証人やめるかもという発言をしたので、日本が保証人だと思っていたウォン取引の相手はウォンの信用を無くして停止するだろうということです。日本政府の方針は検討で終わらせるのか、スワップを停止までやるのかわかりませんが、実際に彼らの思惑通りで尚且つ停止をした場合、韓国経済は打撃を受けます。彼らは外国通貨をあまり持っていません。これはググれば幾つかソースが出てくるでしょう。ヨーロッパ経済危機のとき話あたりがいいと思います。物がウォンで買えなくなると買えるようにするためにハードカレンシーを手に入れなければならなくなります。
韓国も資源がある国ではないですからまず石油を買わねばなりません。節電ではなく電力不足で停電が未だにあるそうなのでエネルギー資源も必要です。もっともっとこの不況の中物を売らねば外国通貨が手に入りません。外国通貨で資源を買うたびにウォンの信頼も落ちます(使わない使えない通貨なんてお金ではありません)。
ついでに現状スワップの話とは別に釜山にある信金(のような物)が昨日だったか今日だったか自己資本率マイナス50パーセント越えというすごい数字で潰れました。客のお金を食いつぶしているだけであるということです。これ、韓国最大の信金です。破産の処理待ちの信金はあと幾つかもありました。イラン中央銀行が韓国ウォンでの決済取引を中止しました。検討する発言の後、韓国債の金利が急騰しました(国債は国がお金を借金するためのもの。紙くずになるかもしれないものはそのハイリスクさに合わせてハイリターンをつけなければ売れないため金利が上る。急騰=売れていない)。国で看板企業である電機メーカーの株価が下落しました(こちらは逆に投資されていないということ。下がりすぎると切り売りされる危険度が増す。これは別の裁判の影響もあると見れる)。ちょっとどうみても経済危機が深刻に迫っている空気がしている中でスワップが停止されたら加速しそうな感じです。そして日本が持っている外交カードもたった一枚というわけでもありません。そういう意味でこれは一つの国の経済に対して経済戦争を仕掛けるかもしれないというお話なのです。
●これからの「スワップ」報道の見所
やるやるといってやらないのがいつもの日本政府方針です。しかし「制裁」という言葉がでるわけですからどこかしら政治的にそれを行いたいと言わせる理由があるわけです。これは語りだすと止まりませんし炎上キャンプファイヤなので省きますが、「スワップ検討を止める・現状維持」と発表した場合、スワップ停止を求めている人はいつも以上に怒り狂うでしょうね。人が集まる場所ではデモや事件が起きる可能性が高まります。経済的に見ると日本は弱腰外交と低評価に流されるでしょう。ちょっとした変化でも政府のせいで更に経済悪化と騒ぎになることも考えられます。今までの経過からしても与野党の入れ代わりなどが想定以上より白熱します。
逆に「停止します」と断言した場合、在韓日本人の強制帰国宣言が出される可能性があります。はっきりとした経済制裁を行うつもりであるということ=敵意を向けます宣言になりますから、収拾がつかなくならないよう普通なら相手側も飛行機をだすものです。ですが韓国側は強硬姿勢ですので場合によっては中国経由で帰らなければならなくなるかもしれません。それについて興味がないのでしたら、「始まりから観測できる不況」という報道が始まります。スワップ停止検討の原因の報道も加熱するかもしれませんが、経済的にはどこまで制裁するのか、あちらとの取引で損失を出したものにどこまでの補償を国がするのかという問題につながります。
そして何も言わない場合。一番良くないパターンですが通常報道ではなく、討論や解説番組などで槍玉になるだけで、相手は程よいウォン安で国際競争力が伸びて、日本は国民がくすぶりつつ馬鹿にされゆるゆると真綿で絞められるやもしれません。
どのパターンでも大きな流れが生まれる可能性が非常に高いのがこの「スワップ」報道であるとご理解いただけたでしょうか。既に検討発言がなされたので止まらず動いていくのです。私が想像できたのはこれだけでしたが、ネット上では国内だけでなく多くの国から注目を浴びている様子が伺えます。軍事力は使っていませんが、日本が単独でこのような姿勢をいつ見せたでしょうか。いつも通り「知らない言葉だなぁ」で流してしまうと何も対策はとれません。このスワップ報道、今後どうなるのか、どうなったときにどうすればいいのか、少し想像していただけたらと思います。
なるべく政治の話はしても政治「思想」は挟まないように心がけました。その分通じなかったり不愉快な表現があったであろうことお詫び申し上げます。