高校球児の学園なろう系無双
俺は高校球児だ。今は怪我をして部活は休んでいる。
そのせいで最近はなろう系小説というものを読むようになった。チートに憧れるのは男子高校生としては当然と言っていいだろう。
今日は野球の練習試合があって野球部は登校しない。同級生は最後の甲子園に向けてかなり気合が入っている。
それなのに俺は怪我の療養に専念しろと部活は休むように言われているので一人登校した。
「はあ、部活もないのに登校するなんてめんどくせーな。野球だけが楽しみで高校に通ってるのによ」
通学路を歩きながら一人ボヤく。チートさえあればこんな退屈はしなくていいのに。
高校に着いて教室のドアを開ける。野球部がいないせいで女子の数が多く感じた。
俺の高校は部活動が盛んだ。チームスポーツに力を入れていて、野球、サッカー、バスケ、バレーボール、男女関係なくどちらもかなり強い強豪校だ。
だけど女子野球はない。そのせいか学校では野球部はあまりモテない。
なろう系だったら高校はハーレムなんだけどなあ、なんて考える。
サッカーもバスケもバレーボールも手や足でボールを扱うだけなのだから、道具を駆使する野球の方がテクニカルだと思う。
女子たちもそんな知性のない男子の相手をするのは嫌だろう。
肩にかけているバットケースを振り返る。バットでボールを打つほうが他のスポーツよりよっぽど知的なはずだ。
そんなことを考えていると、いつの間にか学校に着いていた。
教室に入るとバスケ部の山内が声を掛けてくる。
「よう、田中! お前怪我したんだってなー、今日練習試合なんだろ? 学校サボれなくて残念だったな」
やっぱりバスケ部は頭が悪い。道具も使えない野蛮なスポーツだからかもしれない。
「ああ、そうだな」と適当に返して席に着く。学校をサボれないことよりも野球ができないことの方が問題だというのに。
山内は練習試合や公式戦で授業を免除されるからバスケをやっているのだろうか。
ため息しか出ない。
周りを見渡すと、ニヤニヤと俺を見ている奴が何人かいた。
スポーツ強豪校のうちの高校において怪我をすれば負け組だ。被害妄想かもしれないが、見下されているように感じる。
女子たちはかわいそうなものを見る目で俺を見ていた。
くそ、なんでこんなことになったんだ。俺は悪くなかったはずだ。
ヘッドスライディングをした時に一塁手にスパイクで手を踏まれたのだ。思い出しただけで腹が立つ。
「田中〜、怪我したんだってな。左手か? ちょっと見せてみろよ」
サッカー部の高藤がそんなことをいう。
仕方なく左手を見せるが、手は包帯でぐるぐる巻きだ。
「ちょっと包帯取って傷をみせろって、サッカーのスパイクと違って野球のスパイクはやべーだろ。かなりグロそうだよなあ」
そんなことを言う高藤の周りにサッカー部の連中が集まってきた。かなり面倒臭い。
「嫌だよ、普通に痛いし包帯巻き直すのもめんどくさいだろ」
「良いじゃん、ケチケチすんなって」
段々とイライラしてきた。こいつらは馬鹿なだけじゃなくて本当に無神経だ。
「というかお前なんで部活休んでんのにバットなんて持ってきてんの? 荷物増えるだけじゃん」
そう言いながら高藤の隣にいた水野がバットケースに手を伸ばす。
「触んなよ!」イライラしすぎてつい強い口調になった。
「怒んなって、ちょっと見せてもらおうとしただけだろ。キレすぎだろ。というか野球も出来ないのにバットを持ってくるとかヤンキーかっての」
そんなことを言って笑い出す。他のサッカー部の連中も同調しだした。
確信した。見下されているのは被害妄想なんかじゃない。
俺はバットケースから金属バットを取り出す。
「なんで野球もできないのにバットなんて持ってきてるのかって? そんなの簡単だろ、ヤンキーと一緒だよ」
そう言って俺は水野の頭頂部めがけてバットを振り下ろした。
カーンと甲高い音が響き渡る。教室中から注目が集まる。
水野は鼻血を流しながら後ろに倒れた。
「キャー!」と女子たちが悲鳴をあげる。
水野の隣にいた高藤は呆然と倒れた水野を眺めている。
「てめえ! なにやってんだ!」
状況を理解したのか高藤が怒声をあげる。道具も使えないサッカー部なんて怖くなかった。
チートが欲しいと思っていたけれど、そんな必要なんてなかった。
手や足でボールを扱うことしかできない原始人相手なら、金属バットがチートだったのだ。
俺は金属バットを振りかぶって高藤の側頭部に向かってスイングした。
高藤はその勢いのまま隣の席の石田くんの机を巻き込んで吹っ飛んだ。
側頭部は金属バットの形に綺麗に陥没している。
「誰か! 先生を読んで!」
バレー部の滝川さんがそんなことを叫んだ。学校いちの美少女と評判な女の子だ。
「大丈夫だよ、女子には手をあげたりしないから」
俺はできるだけ爽やかな笑顔を作った。
それなのに滝川さんは泣きそうな顔をしていた。どうしてだろう。
なろう系だったら強い男に美少女はすぐに惚れるものなのに。
「落ち着けって、田中。俺たちが悪かったよ」
高藤の周りに集まっていたサッカー部の連中が口々にそんなことをいう。
周りを見るとかなりの人数が教室から逃げたみたいだった。
「何が悪かったんだよ。別にお前は悪くないだろ。それに水野だって俺はただチートを手に入れたから殺しただけだよ」
そう言って名前も思い出せないサッカー部員たちの頭に次々と金属バットを叩き込んだ。
バタバタと倒れていくサッカー部員を眺めて俺は確信した。俺は最強だ。
そのあとは消化試合だった。教室に来た教師を殴り殺し、野次馬の頭も陥没させた。
順番に教室を回っていく。野球部のいない学校に敵はいなかった。
道具の使えない原始人なんて相手にならない。
そこで思いついた。先に職員室に行ったほうがいいかもしれない。
うちの学校はスマホは禁止されていて持ち込めないが、職員室には電話がある。
職員室のドアを開けると、教頭がちょうど電話をかけようとしているところだった。
隣には同じクラスの藤田さんがいた。
「ちょっと待て田中! 悩みがあるなら相談にのるから、その手に持っているバットを捨てるんだ!」
何を言っているんだこいつは。チートを捨てる馬鹿がどこにいる。
俺は教頭の禿げ上がった頭に金属バットを叩きつけた。
ツルツルな頭のおかげか、今までで一番いい音だった。キーンという澄んだ音についつい笑ってしまう。
ついでに藤田さんにも最高のスマイルを送っておいた。
藤田さんは「ひっ!」と悲鳴みたいな声をあげた。少し格好良すぎたのかもしれない。
他にも何人か教師はいたが、道具を使えない原始人なのは変わりがなかった。
適当に頭を殴ったら簡単に死んだ。
ついでに電話も全部叩き壊す。
金属バットは凹んで歪な形になっていた。
それでも壊れる気配はない。正真正銘のチートアイテムだ。
その後も教室を回って男子を殺しまくった。
1年C組が最後だった。片っ端から男子の頭を叩いて回る。モグラ叩きと変わらない。
最後の一人は野球部の置きバットを持ち出したのか金属バットを持っていた。
ボス戦か。後輩のくせに生意気だ。
けれど全く相手にならなかった。
腰が引けている。なろう系にはよくいるキャラだ。
ボス戦どころか噛ませ犬ってところか。
思い知りスイングして金属バットを弾き飛ばす。
手が痺れたのか、後輩は手と飛ばされたバットを交互に見ている。
「ざまあ」
俺は横を見ている隙に後頭部に金属バットを叩き込んだ。
落ちていた金属バットを拾い上げる。左手がズキりと痛むが能力には代償が付き物だ。
二刀流なんてますますチートで格好いい。
女子たちはなぜか涙を流したり目を背けたりしている。
何人か失神している子もいるようだ。まだ子供なんだろう。後輩はやっぱり可愛い。
達成感に満たされて自分の教室に戻る。この学校にもう男子はいない。
俺のハーレムは完成した。女子たちが俺の帰りを待っているはずだ。
教室のドアを開けようとしたら返り血で手が滑った。
ズボンで血を拭き取ってから教室のドアを開ける。
「ただいま! 待たせたね!」
俺はアニメのようにイケボを意識して声を作った。
それなのに女子たちは顔を引き攣らせている。
滝川さんがなぜか窓を開けた。
そして窓によじ登る。何をしているのだろうか。
「どうしたの? 滝川さん。ヒーローが戻ってきたよ」
俺がそういうと滝川さんは飛び降りた。
ここは4階だ、そんなことをしたら怪我をしてしまう。下手をしたら死んでしまうかもしれない。
俺は滝川さんが心配で窓に駆け寄る。滝川さんは地面にシミを作っていた。
唖然として俺は教室を見渡す。
何故か俺のハーレムには、誰も残っていなかった。




