表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『太郎国の裏路地に、最強の処刑人が住んでいる件。~昼は小料理屋、夜はBAR、深夜は悪即斬。女神と魔王が常連客ですが、何か?~』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

EP 8

事後処理と掃除屋

 黒煙と砂塵が晴れかけた頃、ひだまり孤児院の前に一台の黒塗りのバンが猛スピードで滑り込んできた。

 車体にはダンボールに手書きで書かれたような『T-SWAT』の文字はなく、偽装された配送業者のロゴが入っている。

 キキーッ!

 タイヤが軋む音と共に停車し、スライドドアが開く。

 降りてきたのは、フル装備のタクティカルギアに身を包み、愛銃『Korth』を構えた鮫島勇護だった。

「T-SWATだ! 全員動くな! ……と言いたいところだが」

 鮫島はゴーグル越しに現場を見渡し、銃口を下ろした。

 彼の視線の先には、壁にめり込んで白目を剥いている召喚士たちと、黒い砂山と化したゴーレムの残骸。そして、優雅にタバコを吹かす赤いジャケットの男。

「……終わってるな」

「遅いぞ、公務員。残業代は出るのか?」

 龍魔呂は鮫島を見ても驚きもせず、短くなった吸い殻を携帯灰皿にしまった。

「通報を受けてから3分で来たんだがな。……相変わらず、デタラメな制圧速度だ」

 鮫島は呆れたように肩をすくめると、懐から赤マルのボックスを取り出し、一本くわえた。

 龍魔呂が黙ってジッポを投げる。

 カキン。オイルライターの音が、戦場の終わりを告げるゴングのように響いた。

「おい、リアン。出番だぞ。……と言っても、仕事があるかは怪しいがな」

 鮫島がバンの後部座席に声をかけると、ランドセルを背負った少年がひょっこりと顔を出した。

 リアン・クライン。リリスのクラスメイトであり、裏では『ベンチの賢者』と呼ばれる少年だ。

 彼は「ボランティア活動」という名目で、鮫島の現場検証(という名の死体処理)を手伝わされることがあった。

「もう、鮫島さん。僕をこんな危険な現場に呼ばないでよ……僕はただの善良な生徒なんだから」

 リアンはブツブツと文句を言いながら、現場に足を踏み入れる。

 その目は、獲物を探すハイエナのように鋭く地面をスキャンしていた。

 彼の目的は、証拠隠滅用の召喚獣『喰丸くいまる』のエサ(死体や魔獣の残骸)を確保することだ。

(さてと……派手にやったみたいだし、魔獣の死骸くらいはあるかな? 喰丸もお腹空かせてるし――)

 だが。

 リアンの足が止まった。

「……え?」

 ない。

 どこにもない。

 魔獣の死体どころか、血痕一つ、肉片一つ落ちていない。

 あるのは、サラサラとした黒い砂(魔力の燃えカス)だけ。

「こ、これ……全部、魔獣の成れの果て?」

 リアンは震える手で、足元の砂を救い上げた。

 元はアダマンタイト・ゴーレムだった物質だ。

 それが、砂時計の砂よりも細かく粉砕されている。

(嘘だろ……!? 魔獣の『コア』まで完全に粉砕されてる……! これじゃ魔石として売ることもできないし、喰丸のエサにもならないじゃん!)

 リアンは戦慄した。

 通常、魔獣を倒せば死体が残る。魔法で焼いても骨は残る。

 だが、この男――鬼神龍魔呂は、物理攻撃のみで対象を『原子レベル』まで分解し、自然界の魔素に還してしまったのだ。

(ヤバい……この人、ヤバすぎる。もし僕の『ネット通販』がバレて、この人に狙われたら……マグナギア(弓丸)なんて、一瞬でスクラップだ!)

 リアンは顔面蒼白になり、龍魔呂から距離を取った。

 龍魔呂がふと視線を向けると、リアンは「ヒィッ!」と小さく悲鳴を上げ、鮫島の背後に隠れる。

「……なんだそのガキは。見学か?」

「ああ、優秀な『清掃員』だ。……まあ、今回はお前が綺麗にしすぎたせいで、出番はなさそうだが」

 鮫島は苦笑し、壁際で気絶している召喚士たちを手錠で拘束し始めた。

「こいつらは俺が引き取る。リベラに引き渡せば、法的に骨の髄まで絞り上げてくれるだろう」

「好きにしろ。……俺は店に戻る」

 龍魔呂はジャケットを翻し、孤児院の子供たちの方へ歩き出した。

 子供たちは、まだ呆然としていたが、龍魔呂が近づくと、シスターがおずおずと頭を下げた。

「あの……本当に、ありがとうございました。貴方はいったい……」

「……ただの料理人だ」

 龍魔呂はぶっきらぼうに答えると、子供たちの頭をポンポンと撫でる……ことはせず、少し離れた場所で立ち止まった。

「腹が減ったら店に来い。唐揚げくらい、いくらでも食わせてやる」

 それだけ言い残し、彼は夕闇の路地へと消えていった。

「……かっけぇ」

 鮫島がポツリと漏らす。

 リアンは、龍魔呂の背中が見えなくなるまで、心臓のバクバクが止まらなかった。

(絶対に……絶対にあの人の前で、正体だけはバラさないようにしよう。通販カタログを見られても、『ただのチラシです』って言い張ろう……!)

 新たなトラウマを刻まれた少年暗殺者と、ハードボイルドな警察隊長。

 彼らが去った後の孤児院には、魔獣の脅威が去った安堵と、かすかな唐揚げの香りが残されていた。

 だが、この一件は単なる序章に過ぎない。

 龍魔呂が「掃除」した下部組織の全滅は、すぐに『ナンバーズ』の中枢へと伝わることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ