EP 6
DEATH 4 覚醒 ~蹂躙される魔獣たち~
ドォォォン!!
孤児院の庭に、重い衝撃音が残響していた。
S級指定の魔獣『ポイズン・スパイダー』。その巨体が、龍魔呂のたった一撃の裏拳で、跡形もなく弾け飛んだのだ。
飛び散ったのは血肉ではない。召喚獣を構成していた魔力が、黒い霧となって虚空へ霧散していく。
「な……なにが起きた……?」
ナンバーズの下部組織、違法召喚士たちのリーダー格が、呆然と呟いた。
彼らの足元には、まだ十体以上の魔獣が控えている。オーク、ガーゴイル、キメラ……どれも一個小隊を壊滅させる力を持つ化け物たちだ。
だが、その化け物たちが、一人の人間を前にして震え上がり、後ずさりしている。
「おい、どうした! 行け! 食い殺せ!!」
リーダーが杖を振り回し、魔獣たちを叱咤する。
命令に抗えず、身の丈三メートルはある『オーク・ジェネラル』が咆哮を上げた。鋼鉄の棍棒を振り上げ、龍魔呂へ突進する。
「グォォォォオオ!!」
地面を揺らす突進。戦車すらひしゃげる棍棒の一撃。
龍魔呂は避けようともしなかった。
ただ、ポケットから出した右手で、ハエでも払うかのように、横薙ぎに腕を振るった。
パァンッ。
乾いた破裂音。
オーク・ジェネラルが棍棒ごと、胴体から上が消失した。
上半身が弾け飛び、魔力の粒子となってキラキラと舞い散る。残された下半身が、数歩よろめいてから黒い霧となって消えた。
「……は?」
「つ、次だ! 空からやれ! ガーゴイル部隊!!」
上空から数体の石像魔獣が急降下する。鋭利な爪が龍魔呂の頭上へ迫る。
龍魔呂は空を見上げることなく、足元に落ちていた小石を拾い上げた。
「――『指弾』」
親指と中指で弾かれた小石。
ただそれだけの動作。
だが、放たれたのは物理法則を無視した『対空砲火』だった。
ズドォォォォン!!
空気が裂ける轟音と共に、一直線に赤い閃光が走る。
先頭のガーゴイルだけでなく、その背後にいた二体、三体までもが、小石の衝撃波に巻き込まれて粉々に砕け散った。
石礫となった魔獣の残骸が、パラパラと雨のように降り注ぐ。
「ヒッ……ヒィィッ!?」
召喚士たちの顔から血の気が引いた。
強いとか、速いとか、そういう次元ではない。
これは『災害』だ。
形あるものが、触れた瞬間に原子レベルで分解されるような、理不尽な暴力の嵐。
「……次」
龍魔呂が、一歩踏み出す。
その足音は死神の足音のように重く、そして静かだった。
赤と黒のジャケットが風にはためく。その背後から立ち上る闘気は、夕暮れの空を赤黒く染め上げるほどに膨れ上がっていた。
「く、来るな! やれ! 全部行け! キメラも、ヘルハウンドも、全部ぶつけろぉぉ!!」
半狂乱になったリーダーが、残る全ての魔獣を特攻させる。
獅子と蛇の合成獣、地獄の番犬、触手を持つ異形の植物。
数の暴力が龍魔呂を飲み込もうと殺到する。
だが、龍魔呂は歩みを止めない。
「……邪魔だ」
ボソリと呟き、両手を無造作に振るう。
右掌底がキメラの頭を破裂させる。
左肘打ちがヘルハウンドの背骨を魔力の霧に変える。
回し蹴りが植物魔獣を根こそぎ消し飛ばす。
パンッ、パンッ、ドォン!
リズミカルな破裂音が続くたびに、S級魔獣たちがシャボン玉のように弾けて消えていく。
防御力も、再生能力も、数も関係ない。
龍魔呂の闘気に触れた瞬間、あらゆる魔獣は「存在」を維持できなくなるのだ。
「あ……あぁ……」
一分も経たずに、庭には静寂が戻った。
残ったのは、腰を抜かした召喚士たちと、呆然と立ち尽くすシスター、そして子供たちだけ。
龍魔呂は、ゆっくりとリーダーの男の前まで歩み寄る。
男は見上げた。
逆光に照らされた龍魔呂の顔は、仮面などつけていなくても、まさに『鬼神』そのものだった。
「ひっ、助け……俺たちは雇われただけだ! ナンバーズの指示で……!」
「……子供が泣いていただろう」
龍魔呂は低い声で遮った。
胸ポケットから赤マルを取り出し、震えることなく火をつける。
「テメェらが笑いながらけしかけたバケモノを見て、ガキ共が泣いていただろうが」
「そ、それは……」
「俺は、子供の泣き声が大嫌いなんだ。……吐き気がするほどな」
龍魔呂が紫煙を吐き出し、リーダーの眉間に指を突きつける。
デコピンの構え。
先ほど、小石一つで空の軍勢を消滅させた、あの構えだ。
「ヒィィィィッ!! ま、待て! まだだ! まだ俺には『切り札』がある!!」
リーダーは泡を食って懐から黒い水晶を取り出した。
それは、ナンバーズの幹部『ゼロ』から渡された、禁断の召喚媒体。
「出ろぉぉ! 物理無効の最強守護者! 『アダマンタイト・ゴーレム』!!」
ズズズズズ……!
地面が割れ、巨大な影がせり上がってくる。
全身が黒光りする最強金属アダマンタイトで構成された、高さ五メートルの巨兵。
魔法も、剣も、大砲すらも跳ね返す、絶対無敵の盾。
「ハハハ! 見たか! こいつは硬度が違う! 貴様の拳など通じな……」
勝ち誇るリーダーの声は、龍魔呂の冷ややかな視線によって遮られた。
龍魔呂は、見上げるような巨兵を前にしても、眉一つ動かさない。
「……硬い? それがどうした」
龍魔呂は右拳を握りしめた。
赤黒い闘気が渦を巻き、拳に収束していく。周囲の風景から「色」が失われていくような錯覚。
「豆腐だろうが金剛石だろうが、俺の前じゃ等しく『塵』だ」
鬼神流の構え。
次なる一撃は、魔獣だけでなく、彼らの絶望すらも粉砕するだろう。




