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『太郎国の裏路地に、最強の処刑人が住んでいる件。~昼は小料理屋、夜はBAR、深夜は悪即斬。女神と魔王が常連客ですが、何か?~』  作者: 月神世一


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EP 3

喫煙所の王たち

 タロウ国の王宮は、近代的な高層ビルとファンタジーな城壁が融合した奇妙な建造物だ。

 その裏手、一般人はおろか貴族すら立ち入れない区画に、ひっそりと佇むプレハブ小屋がある。

 看板には手書きで『喫煙所』。

 ここは、この国を背負う男たちが、紫煙と共に愚痴を吐き出す聖域だ。

「……ふぅ。今日もサリーの予算請求がエグいっすわ」

 ベンチに深く腰掛け、甘い香りのするタバコ『キャスター』を吹かしているのは、この国の王――サトウ・タロウだ。

 Tシャツにハーフパンツというラフな格好だが、その瞳には一国の主としての疲労と知性が同居している。

「科学省の研究費だろ? 必要経費だ。諦めろ」

 タロウの隣で、無骨に『マールボロ・レッド』の煙を吐き出したのは、T-SWAT隊長の鮫島勇護だ。

 愛銃『Korth』をショルダーホルスターに吊るし、パーカーのフードを目深に被っている。

「隊長はいいっすよね、独身で。……あ、飴ちゃん食います?」

「……もらう。コーヒー味はあるか」

「ありますよ。はい、どうぞ」

 国王と治安部隊長が、駄菓子屋の軒先のような会話をしていると、プレハブの扉が静かに開いた。

 カツ、カツ。

 現れたのは、黒と赤のジャケットを羽織った男――鬼神龍魔呂だ。

 彼は無言で二人に軽く顎をしゃくると、空いているドラム缶(灰皿代わり)の前に立ち、ポケットから『マールボロ・レッド』を取り出した。

「……また、血の匂いがするな」

 鮫島が、鼻をヒクつかせて呟く。

 龍魔呂はジッポで火をつけ、深く吸い込んでから答えた。

「魚を捌いただけだ。……ランチのな」

「ほう。人間サイズの魚か?」

「さあな。だが、骨まで砕いて処分したから、生ゴミは出てないはずだぞ」

 龍魔呂はポケットから角砂糖を取り出し、ガリリと齧る。

 その言葉の意味を理解した鮫島は、フッと口元を緩めた。

「……助かる。昨夜、第三倉庫の人身売買組織が『蒸発』した件で、報告書を書く手間が省けた」

「俺は知らん。ただの害虫駆除だ」

 龍魔呂のそっけない態度に、タロウが苦笑する。

 タロウは自身のユニークスキル『100円ショップ』で出した缶コーヒー(微糖)を龍魔呂に投げ渡した。

「龍魔呂さん、ナイスっす。あいつら、俺の国で子供に手を出そうなんて、いい度胸してますからね」

「礼には及ばん。……で、王様。わざわざ俺を呼び出したのは、ただのタバコ休憩じゃないだろ?」

 龍魔呂が鋭い視線を向けると、タロウは表情を引き締めた。

 吸い殻を携帯灰皿にしまい、声を潜める。

「……最近、妙な連中の噂を聞きませんか? 『ナンバーズ』って言うんですけど」

 その名が出た瞬間、場の空気が凍りついたように重くなった。

「ナンバーズ……。ユニークスキル至上主義を掲げる、イカれた犯罪者集団か」

 鮫島が低い声で補足する。

「ああ。最近、ウチの諜報部リベラやキュララからの情報じゃ、このタロウ国に入り込んでるらしいんすよ。……ゼロからファイブまで、数字を持つ幹部がいるとか」

 タロウはため息をつき、頭を抱えた。

「俺の国、変な奴ばっかり集まるんすよねぇ。女神とか魔王とか、ハゲたぬき踊りする王女とか」

「類は友を呼ぶ、だろ」

 龍魔呂が即座に突っ込む。

「で、そのナンバーズが何をしようとしてる?」

「『選別』だそうです。スキルを持たない人間を排除し、世界を書き換える……なんて厨二病みたいなことを本気で考えてる。特に、強力なスキル持ちや、目立つ存在を狙ってるそうで」

 タロウは二人を交互に見た。

「俺たち、全員ターゲットっすよ」

「……フン」

 龍魔呂は鼻で笑い、短くなったタバコをドラム缶に押し付けた。

「俺は世界がどうなろうと知ったことじゃない。だが――」

 彼の脳裏に、店に来る客たちの笑顔が浮かぶ。

 人参を頬張るキャルル。廃棄野菜をねだるリーザ。そして、孤児院の子供たち。

「俺の店の客と、この街のガキ共に手を出そうってんなら、数字ナンバーごと消し去るだけだ」

 その殺気は、王宮の裏庭を一瞬で極寒の地に変えるほど濃密だった。

 鮫島もニヤリと笑い、愛銃のグリップに手を添える。

「同感だな。法で裁けないゴミは、俺の管轄外だ。……頼んだぞ、処刑人」

「ああ」

 龍魔呂は踵を返した。

 その背中には、王や警察隊長とは違う、闇を生きる者特有の孤独と覚悟が張り付いている。

「さて、夜の仕込みがある。……タロウ、鮫島。今夜のオススメは『牛すじの煮込み』だ。寄ってけよ」

「了解っす! あ、ツケでお願いします!」

「……俺はキャッシュで払う」

 龍魔呂が去った後、タロウと鮫島は顔を見合わせた。

「……一番怒らせちゃいけない人を、敵に回しましたね、ナンバーズ」

「ああ。あの男は、加減を知らんからな」

 紫煙が空に溶けていく。

 タロウ国の平和は、この喫煙所に集う三人の男たちによって、かろうじて守られているのだった。

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