『あばれ拳銃児』#3
男は気を失って、その隙に警察に捕まった。
あの男の名前は柴柳というらしい。
清水一家の──つまり、やくざの掃除係だとか。ダンナさんにその話を聞いて、俺は怖い事に巻き込まれたと思った。ダンナさんは警察から情報を受け取る際にその柴柳から俺への言伝を預かっていたらしく、「弾に困ったら尾崎のところへいけ」と言った。
ダンナさん曰く、その尾崎というのは昔ここで闇銃屋をしていた男で、葛城家が台頭し始めた頃合いに取り締まりが行われ解体となったはずだが、どうやら闇の世界で生きていたらしい。
「これは暗にキミに警告しているんだ。君のその拳銃が弾を切らせることがあるっていう警告だ」
「…………俺は清水の一家に狙われると?」
「清水の掃除係を警察に出したのがキミだとバレたらそうなるだろうが……どうする、警察に保護してもらったほうが良いんじゃないか?」
「保護を受けるとしたら優先は俺ではなく、母です。母は腹に赤子もいるから、死ぬわけにはいかないと必死になっています。ただしバレないように守っていただきたいな。ストレスをかけて俺のようなガキが生まれたんじゃ母の苦労も絶えないだろうし」
ダンナさんは警察に俺の要望を最大限叶えるようにと命じた。彼が権力者であるのは、人を守る為だと言った。
今年市長になる彼の長男は、恐るべき卓越した知能で悪を打ちのめそうと必死になっていた。
おそらく彼も政治家であるのならばその長男と同じような事をしていたに違いないな!
「あの子は平気?」
「生の銃撃戦を見たんだ。少し混乱している」
「いけないことをしたな」
「あの場では君の行動は正しかった」
そうだろうか? そうかな? そうなのかなぁ?
などと、悩んでいたって過ぎたるは及ばざるが如し。
これ使い方あってる? たぶん間違ってる。
なにはともあれ、やっちまったもんは仕方がない。
彼の心の黒い傷あとは俺ではどうしょうもない気がする。
俺は心に決めたことがある。俺の眼窩前頭皮質と前頭葉は「清水一家を無殺で解体する」という方向を決めていた。
そして、清水一家が静かになったら、俺はあの小学生の前から姿を消すぜ!
硝煙のニオイがついている俺が近くにいたら、あの子にニオイがうつってしまうかもしれない。すると、「かわいいネ」と本当に心を込めて言ってやれるような物わかりの良い男が寄り付かなくなってしまうかもしれないからねっ!
「ただ……志村くん。志村くん。無茶な事はしないと約束しろ。頭で物事を考えるんだ。自分から危地に飛び込むな。自分から危険なところに飛び込んで、わざわざしなくてもいい出血をするな。いいか、わかったか。キミは優しいから、いま正に気の違ったことを考えているんだろうけれどそれは正しく頭のおかしいやつだけが考えることだ。キミは違う」
ダンナさんが言う。
「キミには両親がいる。こんど弟か妹が生まれるんだろう? すると、キミを失ったりしたら家族が悲しむ。キミの下に生まれるきょうだいは最悪の場合キミの顔も知らずに生きる事になる。もしそうならいけない!」
「俺がハンサムすぎて勿体ないって話?」
「茶化すな!」
「はい」
俺は帰宅すると、いくつかの地図を用意して、清水一家の事務所を地図で調べると、これまたいくつかのルートを赤線で引いた。俺は生まれついて判断力のある人間。
それに目もいいしね。銃を持つのに優れているんだよね。
それにあの眉間に弾をぶち込まれたような感覚。
ありゃあ……殺しの感覚だ。俺にはそれが宿ってた。
なんというか、自分で認めるのは嫌なものだけれど、そういう人間なんだろうねって思うぜ!
そんで、清水一家の鉄火場を調べた。
偉そうに手本引きなんかに興じちゃってな。
ちなみにこの際、わざと俺の事がわかるように派手に調べことをしたので、一週間後にはバレたぜ!
こわいぜ! 通学途中にヤクザの連中に襲われたならば、俺は警察の目がないのをいいことにヤクザたちを返り討ち。
やっぱり俺ってマジ裏社会の適性があるぜ。
俺の将来の夢は実はパティシエさんだぜ!
俺はチンピラの一人から清水一家への直接的な連絡手段を手に入れると、すぐに電話をかけた。
「アア、もしもし。俺の名前は『志村鉄太郎』です。ガキ一人に五人潰された間抜けどもの親元が天下の清水一家ってマジ? 本当に気と血悪いから全員殺しに行くね。今晩八時」
アポは取れたので学校に。
放課後、俺は清水一家の鉄火場を襲撃。
客はみんなヤクザとかっていう人の心の腐った間抜けどもだったので拳銃を使うまでもなく始末。
全員死なないようにした。
こんなやつらにも家族は居るはずだからね。
俺は誰も泣かせないんだ。
もしかしたらこのヤクザたちの奥さんが子供を持っているかもしれない。お母さん方から父親を奪うのは忍びない。
世間は父親のいない母親に厳しいからね。
「電話借りるね」
清水一家に。
「鉄火場ひとつ壊したよ。次は別のを襲うね。八時まであと二時間だね。救急車を見に来てもいいよ」