オカンの歯がない
ここ十数年、母と食事に行っていない私は、母が何に困っているのか想像出来ていなかった。
食べたい物を聞けば、『寿司』と言う答えが返ってくる。一にも二にも寿司なのだ。母の大好物だからそう答えるのは分かるけど、そこにもヒントがあった。
「オカン海苔巻食べ辛いって、握りの方が好きみたい」
そう弟が言っていた時、噛みきれないからと聞いて、何か心に違和感が残った。ただ、本人に直接聞いても、言葉を濁していて状況を把握出来なかった。
だから、昔からの歯医者恐怖症から、歯が残り少ない程になっていたなんて、気付きもしなかった。
そして、私の周りにいた母ぐらいの年代の女性は、自分に起きている大変な事を、子供に伝えない人が結構多い。
理由は、心配させたくないからとか、怒られちゃうからとか、子供に迷惑をかけたくないからとか、干渉されたくないからとか、自分の身体の事だからとか、実に様々な理由で据え置きにしてしまう。
大変な事になる前に相談して欲しい。
これは切実な願いである。誰でも大事になる前に未然に防ぎたいし、言わない事で長く苦しむなんて事をして欲しくない。
ただ、今回の件は私の認識の甘さも原因の1つだ。
歯の大切さは老後にやって来ると、中年になった私はやっと知ったくらいなのだ。だから、オカンが知らなくても仕方が無い。
思えば、歯の少ない、いや、ほぼ前歯だけのような状態で、良く物が咀嚼できたり飲み込めたなと思える。今にしてみれば、それは土台無理な話だった。
だから、ご飯がスープだけとか、食べやすい物だけとか食生活がおかしい状態になっていた事にも気が付かなかった。
もちろん、オトンや弟がその状態を異常だと認識出来るかと問われれば、無理だろうと思う。オカンがそう言った自分への手抜きをしてしまうのは、朝ごはんだからだ。
オカンの性格上、体のあちこちが痛い状態で自分のお粥を作るとは思えない。
私はここで声を上げて言いたい。
「人は歯が無くなると身体が弱くなる」と、誰かが言っていた。自分の経験上で言うならば、「咀嚼をしないと意欲も気力も元気も出ない」と思っている。
それだけ、咀嚼という動作は切実なもので、歯はとても大切なのだ。
しかし、その歯が無いという。
私は1つの決心をした。
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