6月7日
僕はメーコと前回の戦闘で使い切ったカラーアクション用のインクを補充しに防衛拠点で戦闘備蓄店に来ていた。実に2ヶ月ぶりの2人きりである。正確に言えば実戦演習などから帰還して自室で休憩などで2人きりになることはあるのだが休憩と言って睡眠を取る為話をする事はほとんどない。それに休憩時間にしっかりと眠らなければ他の人達は眠る必要がない為、不自然な休憩が必要になってしまう。
「あと何色が必要だっけ?」
「リリサの通信拡大用オフホワイト!アオトのカラーアクションはこういう時便利だな冷却水にも使っているから常に循環している。使い切ってしまう事が無いな」
「使い過ぎると戦場でオーバーヒートしちゃうし使い勝手は良いとは言えないけどね」
実際血液を使用している為使用限界は思ったより早いしもちろん痛覚もある。毎回発動に激痛を伴うだなんて口が裂けても言えないが。
「メーコは勝てる自信ある?」
「ある!」
「あはは……何に?とか聞かないんだ」
「自信過剰は悪い事では無いさ。まだ戦った事も無いしね」
たまにこういう無邪気な笑顔に救われる。小さな悩みがバカバカしくなるのだ。恐れや不安など考え無しの前進に劣る。例えゴールの方向と違っていても進む先が違っていてもその前進はどんな行いよりも尊い。そんな彼女だから惹かれるのかもしれない。
「メーコはこの後どこの所属になるの?」
「確か市街地で負傷兵の補給役らしいよ。確かカガト教諭の」
「父さんの?」
父さんは教諭資格も持っているがその前は後方で負傷した装甲の修復や骨格の予備転換作業など衛生兵のような事をしていたらしい。僕と似たような力を持っていたようだ。
「会った時に伝えたい事とかある?」
「特に無いかな……元気だったらそれだけでいいよ」
「それもそうだね」
2人して顔を見合わせてくすくすと笑う。誰であろうと彼女の前向きさには誰もが救われる。これだけは誰もが敵わない彼女の力だと思う。
6月10日
改装桃姫のピーチ〈PEACH〉さんに呼ばれて彼女の研究室に来ていた。どの薬品棚も所狭しと薬品が並べられており一目で内容物がわかるようバーコードが貼られている。とは言ってもボクは肉眼では分からないのでここで周りを眺めてヒマを潰すしか無いのだが(仮に名前が読めても内容物は理解出来ない)
「面白いモノでも見つけたかイ?好きに持って行って構わんよ。所詮加工前の市販品だよ。そこらを探せば見つかるものさ」
ガチャリと研究室の奥からズルズルと椅子のような下半身のようなクラゲを引きずるように現れる。多分研究室の奥は私室が併設されているのだろう。しかし特に区切っている訳では無さそうであくまでもここが客間のような扱いのようだ。チラリと見えたドアの向こうはここより乱雑に薬品の瓶が転がっていた。
「オススメは液体金属と撹乱用のジャミング金属片を6:4の割合で混ぜた装甲板だね。キミの全身はわりと小さい方だろウ?なんなら寮室へ送り付けておくが」
「遠慮しておきます。装甲がカラーアクションの発動の邪魔になりそうなので」
嘘は言っていない。そもそもボクの体に装甲は付けられないのだが。前回の会議から一ヶ月、敵の攻勢は無く戦闘訓練しかしていない。それでも奪われた一、ニ、三、五、そして市街区域前線中間拠点、全てを取り返せては居ない。それも居座った希少種に原因がある。倒せ無い事はないが前回の敵の攻勢が計画的だっただけにこちらの攻め手にも欠けている状況だ。下手に攻勢に出て本拠地に攻めて来られたら目も当てられない。
「なぁ、キミは本当はー」
ピーチさんがそう切り出すがプラグから火花が飛び散ると不意に沈黙する。バチバチと断続的に音が鳴り何か言っているのは分かるが聞き取れない。しばらくすると椅子型のクラゲの上でガクリと項垂れる。
「すまないね。ちょっと通信障害だ。この研究室は電波干渉が激しくてねぇ。まぁこれも進歩と引き換えの犠牲の一つだね。……キキ、キミに頼みがあるんダ」
ピーチさんはそう言うとボクを見据える。その瞳には強い意志があった。
「ボクは研究所から動く事は出来ない。だからボクの代わりに、キミの仲間を守って欲しい」
「……えぇ。言われずともそのつもりですよ」
『本当は』その続きに何を言おうとしたのか。何となく分かる気がした。だから何も言わずに聞こえなかったことにした。
6月13日
森林区域第三中間拠点は森林を伐採し木材を加工する目的で作られた工場が並ぶ場所だった。しかし希少種〈レア〉の一斉攻勢により施設のほとんどが被害にあってしまった為、今ではさらに数キロ奥地に移動しそこで防衛陣地を構築している最中だ。
僕は今、ナゴと一緒に仮設森林区域第三中間拠点に来ている。というのも次は紫電響報のパープル〈PURPLE〉さんに呼ばれたからだ。今現在幹部組織が根こそぎ現場指揮を取っている為、パープルさんのような戦力的には兵士長にすら劣る人ですら前線まで引っ張り出されている。
「ジジッ何か失礼な事考えてない?」
「「いえ!何も!」」
「キミ達は元気だねぇ……はぁ鬱陶しい」
パープルさんが前線に駆り出されているということは次の戦場は確実にここになる。前線構築の後パープルさんは後退して後方支援を完成させて戦闘を始めるのが最強の戦術となっている。
「さてと、キミ達に頼みたいのは他でも無い。この中間拠点に防衛陣地を構築する手伝いをして欲しい」
「それは構いませんが……前線構築の方は良いのですか?」
「まぁね。ボクも一応幹部だし?前線指揮くらいは出来るよ」
パープルさんはそう言うと仮設森林区域第三中間拠点から少し離れた所にある山を指す。その山は切り開かれた森とは違い木々が生い茂っている。しかし木の種類が違うのか葉の大きさや形、色まで違う。
「あの山ですか?」
「そうさ!ここは木材加工場だったからね。ブルーの悔しがる顔が目に浮かぶよ。アイツはここの開拓を心底やりたがっていたからね。土地の開拓に興奮を覚えるタイプの変態だよアイツは」
「パープルさん珍しくよく喋りますね。アオトとオレだけだからですか?」
ザラリと流した足元までのケーブルのせいで表情までは読み取れないが舐めるような視線がナゴからこちらへ移る。時折隙間から覗くカメラアイがニヤリと歪んだ気がした。
「ジジッキミ達は通信を介さなくて済むからね。それともなにかい?キミ達も『そのノイズは聞き取りづらいからケーブルを繋いで音声通信に切り替えてくれ』とでも言うかい?その場合はケーブルを繋いだ直後に有りったけのウイルスを流し込ませてもらうがね」
確か海洋区域防衛中にブルーさんが計器不調とソフトクリーニングでやむを得ず一週間ほど作戦が延期したことがあった。確かその前日にパープルさんが電子戦構築予定だったハズだ。何となくブルーさんの苦労が分かった気がした。
「ジジッあとはキミ達に任せるよ。必要な物は用意する。経費明細として請求してくれそれだけキミ達を評価していると言う事さ」
そのままボク達をしっしっと追い払う。行けば現地担当が説明してくれるのだろう。ナゴと二人きりになるのは珍しい事ではない。特に話が合うということはないが無言の時間が心地いい相手だ。
「なぁアオト。そろそろどっちが上か決めねぇか?オレは強いヤツに付きたいんだ」
「またそれか……僕はナゴより弱いよ。それに、今はそんな事してる場合じゃあ無いだろ?」
「まぁな。でもオレ達であの『人間』って敵を倒せば良いんだろ?なら問題ねぇじゃん」
「……そうだな。それもそうだ。僕達が勝てばいいだけだ。でも決めただろリリサが指揮、メーコとナゴ、そして僕。4人は平等。あくまでも作戦立案と救命が僕なだけで単純な戦力としてはカラーアクションは武器にならないってば」
現地で簡単な指示を聞き、2人して同じ加工内容を受ける。運ばれて来た材木の枝を落として運搬しやすいようにする作業だ。
そう言えば、だ。どうしてこれだけたくさんの環境があるのだろう。砂漠山岳森林海洋氷雪、そして市街。自然環境がありながら生命体として存在するのは僕だけ。食べ物はどうしているのか?という疑問はもっともだが僕以外のみんなは瞬間的な馬力の高い液体燃料、継続的な馬力を引き出せる固体燃料、どこでも安定供給出来る電力。この三つを標準装備している。
そしてこの内固体燃料と液体燃料は食べても問題無いのだ。しかもかなり味にバリエーションがある。味覚機能はあるらしく、娯楽の一種として進化を続けたらしい。こちらとしてはありがたい限りだ。
「なぁアオト、お前さ出世してどうすんだ?」
「……出世?」
やばい。ボーっと考え過ぎて話の前後がわからない。不自然では無かっただろうか?
「だってそうだろ?働いて何がしたいとか聞いたことねぇしよ」
「そんな話したこと無かったな。お前は?」
「オレは簡単だよ。装甲とか処理速度とか上げたいから稼いで強くなりてぇんだ」
一般的にはそれが一番多い理由だ。他に多いのは働く事自体に意味を見いだす事。これは働く理由は特に無く働きたいだけで働いている。稼働理由としてプログラムされているのでは無いかと思っている。
「そうだな。誰にも言った事無いんだが……僕はさ、知りたいんだ」
「……?何を?」
言葉が続くと思って黙っていたナゴが少し考えて分からないと言うように首を振ると答えを聞く。
「『この世界には秘密がある』」
6月20日
防衛陣地構築は順調に進んでいるように見える。しかしそれはあくまで見えるだけであって実際にはかなり厳しい状況だ。前線からの情報によれば敵もこちらと同じように中間拠点を建設。当然こちらも防衛陣地を構築していた訳で戦況は一進一退を繰り返しているらしい。にしても敵に拠点構築する知性があったなんて聞いた事がない。
今度はリリサと唯一前回敵の襲撃の無かった氷雪区域第四中間拠点に来ていた。敵の襲撃が無かった理由が気になるし何より資源や開拓資材など無傷の物を使い回そうという魂胆だ。そして今回ナゴが居ない代わりに
「ジジッだいぶ旗色が悪いようだねぇ」
「パープル。今は非常時だから少し……」
「あぁ済まないねゴールド。ここはキミの管轄か……前線の状況は?」
パープルさんが同行することになった。安全性を考慮すれば専属の防衛機を使うのが妥当な所だがどうも贅沢は言えないらしい。どこも戦力が足りないらしく実質的な情報戦のトップですら護衛に人員を割けない状態だ。
「どうもこうも厳しい状況だよねぇ。ところで何と言ったか……モスグリーンの彼」
「ナゴくんだろ?彼は開拓人員としてとても有能らしい。現場が泣いて欲しがるから置いて来たよ」
実際にはナゴが突然機械擬獣〈アーマード〉の雑種〈モブ〉を独特のセンサー系で発見し狩落として来たので作業中の護衛役に選ばれたのだ。自分がセンサーを狂わせるチャフを使うからナゴのセンサー系は特殊だ。背中にかなりの重量のアンテナを増設してるし前線戦闘系では珍しいタイプだ。
「彼のカラーアクションを調整したのは私だからね。ピーチのセンサージャミングジェルを参考にしているだけあって珍しい戦力になっていると自負しているよ」
「ジジッバカ言え。アレは本来単騎突撃暗殺用に作ったハズだろ。四人稼働のチームで動かすとなると器用貧乏が関の山だよ」
「それこそ論外だ。貴重なサンプルを使い捨てるなんてセンスに欠けるよ」
パープルさんが勝手に出歩きゴールドさんの作業場までやってくると近くにいた作業員がチラチラとこちらを伺う。いくら幹部とは言えブラック企業の現場で作業中に揉め事は避けて欲しい。しかしそんな周囲の人間の視線など気にも止めずに話始める二人
「ブルーはどうしてる?戦線維持に全力か?一度取られた戦地を取り返すのに必死過ぎるだろアイツ」
「ブルーさんは少し働きすぎです!私達に任せてゆっくりさせてあげてください!」
たまらずというようにリリサが食ってかかる。リリサはいつも自分が戦場に立てない事を気にしていた。パープルさんが前線に出ず戦況を動かす事に自分を重ねているのかもしれない。何度も後方支援の重要性を伝えているのだが実際に危険な所に行けない不安は理解出来ない。
「……お前達は何もせずうろちょろしてただけだろうに……まぁいい、それで正確な戦況は?」
「前線の防衛陣地は形だけは整っているが突破されるのも時間の問題だね。でもいつも通りならそろそろ敵の攻勢が止んで優勢になるはずだよ」
「ジジッそこまでしなくても良いさ。ただ、被害を最小限にする為にも早めに片付けて欲しいね。そうだ、一つ提案がある。そこまで心配なら行ってくるといい。ブルーと同じ戦場に立てるなんて経験はあまりある事じゃあないよ」
パープルさんのその言葉に僕とリリサは頷くとすぐに行動を開始する。
「さて、リリサはどうする?最前線まで行くかい?」
「そうね……でも直接戦闘も出来ないのに行ってどうするって話よね」
「そこは気にしなくていいよ。見ればわかる。兵器蒼天のブルー〈B1-UE〉さん、彼女の戦場に『敗北』の二文字はない。安心して近くで見てると良い」
教えられたブルーさんが居る位置まで徒歩で三十分ほど。正確には先程パープルさんとゴールドさんが居た場所も前線と言っても差し支え無いのだ
目前に四機の雑種狼型機械擬獣〈モブウルフタイプアーマード〉に囲まれたブルーさんを見つける。しかし腰に増設した4本の腕に装備されたフリントロックのライフルで的確に弱点のコアに狙いを付け一撃ずつ放つとものの数秒で片付けてしまう。本来ウルフタイプは特殊な攻撃方法を持たない為、初任務や訓練にうってつけだがそれでも基本的に一対一以上は避けるべきだと習う。特に複数で発見した時は絶対に近寄らず即時撤退が正しい。
「どうしたお前ら、確かアオトと……通信兵?」
「リリサ通信兵です。パープルさんからこちらで前線を支えているとお聞きして見学に来ました」
ブルーさんは意外そうにこちらの顔を伺う。今は防護服を脱いで動きやすい軍服に着替えている。中にインナースーツ、そして下半身には軍靴とまるで軍服のズボンを履いていないように見えるが、これはこれで機能的だそうだ。因みに装甲を定期的にオーバーホールするより洗うだけで済む服を着るのは理に適っている。だからと言って装甲表面を素肌と判断するのは一言物申したい。
「もうそろそろ攻勢も止むだろう。敵の補給物資が尽きた頃だ。少し様子を見て来るよ」
「お供します」
そう言うと彼女はそのまま走り去って行く。前線を押し返すつもりなのだろう。となるとリリサは後方に戻して僕だけでも戦闘に加勢するべきかもしれない。
「リリサ、僕はブルーさんについて行く。もう戦闘は終わるはずだけど出来れば後退して支援して欲しい」
「そう?なら私は……大人しく退がるわ。気を付けて行ってらっしゃい」
「……いつも助かる。後ろがいるから安心して戦える」
リリサを安全圏まで送るとそのまま来た道を戻り前線まで駆ける。パープルさんの予想が正しければそろそろ敵の動きも止まる頃だ。しかしそれは同時に敵の攻勢が終わった事でもあるので防衛陣地の構築を急がなければならなくなるだろう。
前線に着くとパープルさんの予測は正しかったが、ある意味間違っていた。
「……は?」
全身から血の気が引く。もしも自分以外は恐怖を感じないとすれば羨ましい。恐怖というプログラムは存在しないのだろうか
建物の地上階が駐車場のような暗がり。左右10mはある広がり。その上下に並ぶ膝丈ほどの三角コーンのような鋸歯。間違いない。報告にあった森林区域に出現したフクロウナギタイプだ。ただし大きさが3倍近く大きい。何を捕食して大きくなったのかは言うまでもない
「後退するかい?今なら敵前逃亡は無しにしとくよ?」
「ご冗談を。『敗北』の無い兵器蒼天のブルーさんの実力見せてもらいます」
口の端でニヤリと笑うと驚いたようにカメラレンズを、いや目を丸くする。この人達にもきっと感情はプログラムされているのだ。恐怖で震えそうになる身体を笑いで誤魔化す。今にも逃げ出しそうな足を気合いで地面にに縫い付ける
「上官が部下より後ろで負けるのはカッコ悪いんでね!頑張らせてもらいましょ!」
『ジジッまったくキミは……いくら素材が違うからと言って自分の装甲を撃ち抜けると思っているのかい?』
唐突に不機嫌そうな通信が来る。確かにパープルさんの言う事は正しい。リミッターを解除した主砲で破壊できる相手ではない。だから敵は絶対的に射程外。ならば遮蔽物の少ない場所まで引き摺り出し一網打尽にする!
「B1-UE!カラーアクション!」
ブルーさんが叫ぶと周囲に4本の腕が展開しそれぞれを違う方向に向けて射撃する。実弾ではないが着弾すると爆発を起こす特殊弾だ。しかし、その威力は今までの比では無い
そうとも知らずフクロウナギは大口で前方を瓦礫と弾丸、全て飲み込む。景色を削るような一撃に状況を見ながら敵の視界の外に位置取る。遮蔽物すら飲み込んだフクロウナギは身体の中で4度の爆発を起こす。
頭を切り替える儀式のように眉間を一度、拳を作った左手で叩く。僕のカラーアクションは回復「ということになっている」。実際は自分の肉体にも使える謎の力だ。本来カラーアクションとは「パレット」と呼ばれる白色のパーツにインクを叩き付けて発動する。この行程を挟まない為カラーアクションでは無いのだ。しかし体内に常に治癒の力が循環しているというのはリミッターを常に外しながら戦えるのだ。今ならブルーさんとの戦闘で完全に伸び切った身体も機動力に欠けているはずだ。つまり
「A-0t0カラーアクション!」
形だけだが全力で叫ぶと、爆発で怯んでいる所を敵の眉間を目掛けて全身のバネを捻り右拳を叩き込む。反動で身体が無造作に宙を舞う。
「良くやった!あとは任せろ」
宙を舞って3秒。先程まで後方に居たハズのブルーさんが真上を通り過ぎ、空中で激突する。その一瞬の後。4本の腕には銃ではなくブレードが握られている事に気づいた。しかし目の前で起きた事象が速すぎて何が起きたかは視認できなかった。無防備な僕を飲み込もうとしたフクロウナギの口の中に飛び込むとフクロウナギを頭から尻尾まで真っ二つに切り裂き、さらに時間差で手榴弾6発分にも匹敵する爆発が起こるとバラバラになった身体と共に落下する。墜落しかけるのを身体を丸めてなんとか着地する。その動作の中でも全て見ていたつもりだったが、ブルーさんは全力を出していなかったように見える。
「やるじゃないか。中間拠点を襲った一匹を仕留めた事になる。これはかなり有効な一手だと言える」
「ありがとうございます」
地面にへたり込んで立ち上がれなかった僕に手を貸してくれる。そこへ僕とブルーさんの耳へ通信が入る
『ジジッ……2人共、落ち着いて聞いて欲しい』
嫌な予感がした。
『先程、仮設市街地中間拠点を建設中だった者から通信が入った』
先程よりも恐怖が大きい。見えない恐怖が通信機を通して冷たい指先が首筋を撫でる。
『現場で多くの負傷兵の修復を行っていた予備校のカガト教諭……アオトくんの父親が殺害。同地区にて補給作業をしていたメーコくんが味方の殿を務めて、全員の撤退を成功させた後投降。捕虜として消息不明』
何だ。何を言っている?誰か止めてくれ。目の前にはメーコの笑顔しか浮かんでいない。他の全てが熱を無くしたように冷え切っていく。
『死者1名、戦闘中行方不明者1名……この戦闘は、『敗北』だ!』