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4月8日+9日

ジジジジジジ…


バチンッ!


この世界には


7:10


ごぉーーーーー…


チチチッ、チッ…バサササッ


秘密がある


7:12


「……そろそろ行かなきゃ」


あれから七年。変わらずにいられる時間としては長すぎた。誰でも無かったままでは居られなくなっただけだ。…良かった。制服に袖を通したのは一度だけだったがサイズは変わっていない。明日から何度となく着替えるのだから間違えないようにボタンをかける。


「あれ? アオト君、これどうしたの?」

と、後ろから声がした。

「ああ。明日残していく服そのまま置いとけないと思って」

「そうじゃなくてこの制服の袖のボタン。取れたんなら言ってよ、付け直すから」


「いやいいよこれくらい。面倒だろ?」

「ダーメ。それくらい手間にもならないし……と、ちょっと動かないでねー……」


そんな他愛無い会話すら愛おしい。

母は手際よく慣れた手つきでこちらが少し考え事をしている間に直し終わって気付けばもう下に行ったようだ。


「少し大きいかな…まぁ小さいよりは?」


どうせこの作業にも今後慣れる事になるんだろう。頭を切り替える儀式のように眉間を一度、拳を作った左手で叩く。そして一息つく。忘れ物は無いハズだけど…そんな事を考えながら階段を降る。明日から二年の戦闘訓練が始まる。ボクは理由があって一日早く寮に入る。普段から考え事をしながら生活するのに慣れているので流れるように朝食の置かれた席につく。


「おはよう父さん。今日は出るの遅いんだ?」


ニュースを見ていた父に声をかける。教職に就いている父は普段この時間には出ているハズだ。学生の頃気になって早めに学校に向かい、覗いた事がある。職員室の会議にはだいぶ余裕があるが自分のデスクでニュースを横目に今日の授業内容を確認していたのを見た覚えがある。


「今日くらいはな…」

「父さんったら起きてくるまでずっとソワソワしてたのよ」


クスクスと母さんが笑いながら少し冷めたコーヒーを出してくれる。ボクが猫舌だと知っているからだ。朝食のパンをひとかじりし、一息で口に頬張ると出されたコーヒーで流し込む。うん、悪くない。


「すぐに出るよ、母さん。いつもありがとう。朝ごはんごちそうさま」

「今から『嫌だ』って言ってもいいのよ」


もう食卓を立とうとした時、後ろから強く抱き止められる。だからすぐ出てしまおうと思っていたのだ。何度言われても意見は変わらない。ボクは兵士になるのだ。それが手に入れた力の一番の使い道だ。足手まといにはなりたく無いし、他人と違う事がこんなに誇らしい事は無かった。


「いいじゃない。ここに居れば。戦争なんて行かなくて。確かにアナタの力は素晴らしいものだわ。でも他の仕事でいいじゃない」

「この力が活かせるのは戦場だよ。誰かが傷ついてからしか役に立たないんだ。戦場が一番役に立つ。それにこの歳で兵士になるのが一番疑われないよ、このままここに居たらバレちゃうのも時間の問題だ」


ゆっくりと立ち上がり離してもらえるように母さんの正面に振り返る。しかし、さらに強く抱きしめられてしまう。


「七年よ、七年バレなかったの!もう大丈夫よ!誰もアナタを疑ったりしないわ!」

「母さん、今のボクは役立たずだ…この力でようやく一人前になれる」

「母さん、もう良いだろう。それに兵士として立派に職務を全うすればすぐに昇進して安全な後方指揮を任されるさ」


父さんも母さんもボクのこの力の事は知っている。となれば例え昇進したとしても後方にまわされるなど無いという事はわかっているのだ。


「そうね。もうわがままよね…さ、行ってらっしゃい。次に会うのは二年後の卒業式が終わった時かしらね!」

「別に上官のしごきに耐えられなくて帰ってきても笑ってやるからな」


これ以上いると出発出来なくなってしまいそうだ。いつまでも話込んでしまう。幸せな時間は終わらせてしまわなければ。玄関まで進み戸に手をかける。最後に忘れてしまわないように二人に振り返る。


「じゃ、行ってきます」

「これだけは…いや、卒業式の後だな。ちゃんと帰ってこい」


頑張るよ。俺はもう、あの頃の俺じゃない。


「それじゃ、行ってきます!」


ガチャリと戸を開きそのまま一歩を踏み出す。もう振り返る事は無い。後はもう進み続けるしか無いのだ。


下見がてら一度、歩いた道を行く。明日から、いや正確には今日から二年ほど世話になる寮までの道だ。しかし家からの道は覚える必要は無い。荷物は昨日のうちに全て送ってある。手荷物だけ持って二時間近い道を歩く。歩く。歩く。歩く……

「……はっ……はっ……」


そういえば、ここを歩ききれば後は下り坂だ。すっかり忘れていた。途中で曲がるんだ。確かあの交差点を左に……そうだ、ここで右に曲がって、後は少し歩けば……あった!

「着いた……!」

今日から俺が暮らす場所、学生寮『しろとり寮』だ。そう書いてあるんだから間違い無いハズだ。今日から俺はここに住むんだから……!


9:47


「…でっけぇなぁ」


何度見ても大きい。周りを一瞥し、電子ロックの付いた門にそっとカードをかざす。ガシャンと大仰な音と共にロックが外れガタガタと軋みながら自動で開いていく。


「そろそろ買い替えた方がいいのでは?」

しかしそんな機能も、自分にとってはただ大きいという記号になってしまう。もう何度も見たのに。

「なんだか、初めてきたって感じがしないな……」

そういえば、昨日は最低限の荷物しか持ってこなかったからほとんど部屋を見てないんだっけ。ちょっと早く着きすぎたから荷物でも置いてくるか……と思ったけどこんなデカい寮に入るのに手ぶらじゃマヌケか? いやそもそも俺の部屋ってどこなんだ?


「おはよう」


と、後ろから声をかけられたので振り向く。


「お、来たね新入生!キミの部屋に荷物は運び込んであるよ。と言っても運送の仕事だから一切私は手を出していないがねー」


溌剌そうな見た目の寮長が門の先の寮長部屋から顔を覗かせる。玄関の隣なので誰か出入りすればすぐ気がつく位置だ。普段は奥の部屋に居るのだろうか?小窓から見える家具は小物入れとディスプレイ、映像作品の記憶媒体が並んだ棚。暇つぶしだけで十年は過ごせそうな小部屋だ。


「ありがとうございます。あの、まだ鍵が」


カードキーが無いと開けられないタイプの電子ロックだ。それに解錠音がしなかったような。


「うん? 大丈夫だろー鍵なら開いてるよー?」

「……は?」


何を言ってるんだこの人は? もしかしてそういう仕組みか?そんな疑問に答えるかのように寮長は右手を差し出したかと思うとその手をキュッとひねった。瞬間、ピーという音と共に電子ロック用のカギを渡される。


「さ、名前を記帳してくれ。確認してあるから形式だけのものになるがね。それともIDを全て登録していくかい?悪用されるのは主に私が眺めて情報漏洩の心配があるくらいだがね」

「去年の一人の兵士が卒業までおもちゃになったって聞いてますよ。まぁ首席卒業して官僚コース一直線と聞いたのでそそられない事も無いですが」


「はは、事前に去年の事まで調べてるとは手厳しいね。A-0t0…個人名アオトくん、ね。ハイこれで確認完了。あとは同室の子が来る前に荷解きして家具の配置を決めたらゆっくりしたまえ」


アオト…それが父から聞いたボクの名前だ。七年前、十歳だった記憶喪失のボクを拾ってそれだけが教えられた事だ。今となってはあまり気にしていない。そんなモノより両親と過ごした七年の方が重く感じている。


「キミの部屋は二階に上がって一番奥の部屋だ。角部屋だから多少は騒音を出しても迷惑にはならないようになっている。ハメを外し過ぎない分には干渉しないさ。まぁ、たった二年だがここでしか味わえないものもあるハズだ。出来れば長生きしてくれ」


ふりふりと手を振られ映像を見る作業に戻っていった。それを横目にしながら自室へと向かう。同室の相方は気が会うヤツだと良いなと考えながら先程寮長さんと話ながら貰った電子ロック用のカギをかざす。パシッと小気味良い音と共に軽く開く。


「…こっちの方は最新設備なんだ」


……騒がしいな?しかも寮長室からではなく今日から自室となる部屋からだ。誰か来たのか? でも入り口のロックが開くまで誰も入れないはずじゃ……?


「あ! 来た来た!おーい!」


と、ドアの向こうから俺を呼ぶ声がする。どこかで聞いたような声だが……誰だ?


「あれ!? なんで無視すんのよ!私だよ私!?知らないとはモグリね!キミも前日入寮?明日から二年同室となるメーコだヨロシク頼む」


そこにはストレッチを終えた所だろうか、半裸の女性がベッドに腰掛けて居た。こういう時非常に困る。何しろ生理現象だし。むしろ反応しないのは失礼に当たるのでは無いか?


「は、はじめまして……」


しかしこの格好を目の前にして平静で居ろというのは無茶だ。


「あーもしかしてキミ緊張してる?」

「うぇ!? あ、はい……!」


まずい、緊張していたのがバレてしまったか? それともいきなりジロジロ見すぎたか……?!


「フフッ!なんだちゃんと可愛いトコもあるんじゃないか!」


ああ良かった。怒ってはいない。いやでも待て今後2年共に居るのだ。こんな事でいちいち反応していては後々の活動に支障が出るのでは?などと支離滅裂な考えを五里霧中で雲散霧消させながらついでに思考停止していると


「じゃあ後でね、えーっと……」

「……アオトです」


そうだ。まだ名前すら名乗っていないのだった。この人は初対面なのにこっちだけ知ってるのは不公平だ。……もっとも寮長が俺より先に言っていた可能性もあるけど。


「アオト君か!私はメーコだMe-Ek0型、専門は近距離格闘!ヨロシク!」


しゅ!しゅ!と拳を振りながらわかりやすく説明してくれる。それにしてもメーコ…?どこかで聞いたような?

しかし俺がそんな事を気にしていると


「なるほどキミが予備校教諭の秘蔵っ子という訳か。それで前日入寮と…確かに当日では質問責めにされただろうな。そういう意味では私はラッキーだったという事になるかな?」


そう言いながらメーコ先輩は俺を値踏みするように見る。こんな美人と同じ部屋だなんて、どうやら俺はラッキーだったみたいだ。しかし自分にそんな二つ名が付いていたのか?聞いた事無いぞ?いや、それより……


「……俺の事をご存知なんですか?」

「キミは有名人だぞぉ?自覚が無いかもしれないがね。まぁ事情が事情だからな、無理もない」


そんな大層な話になったのだろうか? 確かにこの学園には全国からトップクラスの学生が集まってはいるが……でもそれは俺だけじゃ無いハズだ。


「何にせよ明日の為に建設的な話をしましょう。確かこの兵士訓練校では初日は班分けでそのまま訓練戦ですよね?」

「敬語、いらない。ここは座学はほとんど自己学習任せで戦闘形式が一番多い。しかも成績優秀者はホンモノの実戦に投入される。ここほど出世の最短コースを取れる場所は無いわね。その分踏み外せば地獄にも直通だけどね」


確かにそうだ。この学園では兵士になる為のありとあらゆる基礎知識やスキル、戦術を学べる。実際俺も実家を継ぐ事しか考えていなかったからここに来る事に決めたのだ。自分の望みは叶っている……のか? いや違う!


「すみません、メーコ先輩。俺は……俺は自分の為にここに来た!」

「どうしたいきなり?先輩もいらない」


そう、これは俺の夢だ。誰にも否定させない。その為にここに居るんだ……!


10:00


その後、メーコ先輩は──まぁ少し早く寮に来てただけだしありがたくメーコと呼ばせていただいて──寮に早く来た用事を済ませるらしく別行動とあいなった。行き先、聞いておけば良かったな……そして現在は自分の割り当てられた部屋に戻ったのだが……


「お、遅かったではないか……」


中から聞き覚えのある声が聞こえた。嫌な予感がする。今ここで開けたらきっと良くない事が起こる。本能が警鐘を鳴らしている……!


「……何故躊躇う」


いや待て、まずは状況確認だ。声のトーンからしてまだ一番マズい状況では無いハズだ。冷静になれ……落ち着いてドアを開こう……そう、ゆっくり静かに開けるのだ。いきなり勢い良く開けて驚かせたら可哀想だからな……そっと開いた。そのまま急いで中に入りドアを閉める!


「よぉ」

「……姉さん?」


そこに居たのは紛れもない俺の姉だった。一体何故こんな所に? いやそもそもいつから居たんだ? 俺より先に来てたハズなのに全然気が付かなかった……でもなんでだ? なんでベッドに腰かけてるんだ?


「えっと、久しぶりですね。どうしてここに……?」


とっさの事とはいえ少し他人行儀に聞いてしまった気がする。しかしそれどころでは無いのが実情だろう。何せこうして直接会うのはニ年ぶりだ。今となってはボクの秘密を知りながらこの学校に在籍するただ一人の協力者だ。


「寮長に聞いたらこの部屋だと教えてくれたんだ。今や私の立場はこの兵士大部隊の中でもかなりの位置だ。現場主義の実戦形式で本物の戦争、これほど説得力のある人財はそう無いからな」


……寮長、あの人個人情報とか知らないのか?全く、何やってるんだあの人は……!


「はぁ……まぁいいや。とりあえず座ってください」

「……ベッドはダメなのか?」


多少躊躇った後自分が机に用意された席に座る。仕方がないので姉はそのままベッドに座っていてもらう。話の内容は気になるけど今は荷解きをしよう……とその前に姉さんに聞いておきたい事があるな。


「そういえば姉さん、なんで兵士になろうと思ったの? なんかもうすごそうな役職に就いてるみたいだけど」

「……む。なんだ突然?」

「いや気になったから……」


こうやって落ち着いて話す機会なんて滅多に無いからな……とっかかりとしてはこんな所だろうか?姉は何か隠し事をする時に目つきが鋭くなるんだ。これは昔から変わらない姉のクセだ。ほら今だって……あ、いつもの目に戻ったな。


「簡単な話だ。ここじゃ17を越えたら確実に軍に入る。そこで3年の従軍は護国の義務だ。戦果をあげれば給金も出るし体調による辞退も認められているがな。さらに15で訓練校に入れば2年キャリアを積めるというのは誰でも知っている。私は親の仕事を継ぐつもりは無かったしな」


結局何で兵士になろうと思ったか、は親の仕事より軍務の方が楽しそう。あたりなんじゃなかろうか


「じゃ、次は……なんでここに?」

「……それは言えない私はもう兵士だ……ましてやアオトも兵士だ…ただ久しぶりに弟の顔が見たかっただけで立場を利用して上司権限まで使ってこんな所まで来た訳あるまい?」

「姉さん……どうして早口になって細かく説明して逃げ道を塞ぐのさ」

「う、うるさい!とにかくだ私はアオトの力になりたい!」


あぁもうこの人は……不器用なんだから。でもそうか。俺と同じなんだなぁこの人も。


「……ありがと姉さん」

「!……ハッ……口先だけで礼を言われてもな……」

「ははは」


まずい少し笑ってしまった。なんでだろう?嬉しかったからかな?


「それで、何か手伝える事はあるか?」

「いや特には……ああ、じゃあボクの荷物の配置とか決めてもらっていいかな?」

「もう少し家具に色気を出したらどうだ?安物ばかり使いおって……誰に似たんだ」


余計なお世話だしそれを言ったら姉さんも同じ趣味のハズだ。少なくとも両親と過ごした時間は俺より長いハズだし。姉さんは俺と一緒に運ばれていた荷物を手早く取り出してちょこちょこと配置を決めてしまう。この辺りの効率の良さは母さん譲りだ


「明日からの実戦に不安は無いか?生活は?仲間との連携はうまくいきそうか?」

「明日になってみないとわからないさ。強いて言えば姉さんといつ肩を並べられるか楽しみって所かな」

「言ってくれる……私はな、一つ夢が叶ったよ。ずいぶん小さな幸せだが夢なんてこんなもんさ。さて、2年ぶりの再会にしてはこんなモノでいいだろう。あまり長居してもな」


そういうと箱詰めされていた中から最後の小物を取り出す。それは両手に収まる10cm程度の木馬だ。幼い頃、手先の器用だった姉さんは俺が家族になった日にくれた物だ。当時もう貴重品だった木材を切り出して加工された物だ。


「まだこんなモノを……わざわざ手入れまでしているのか。まったく、また贈り物が増えて迷惑かもしれんがな」


言いながら姉さんは懐から取り出した物をベッドの枕元ライトスペースに置く


「フォトフレーム?」

「写真立てとも言う。メモリに入って居る画像を自動で切り替える仕組みだ。何とメモリに収録されている私の画像が365種類日替わりで楽しめるぞ」

「えぇ……あり、がとう?」

「冗談だ。まぁ見てのお楽しみだが家族写真ばかりだよ。明日から頑張りたまえ」


さっと立ち上がると振り返る事もなく部屋を出て帰ってしまった。本当に忙しい人だ。そんな中、心配で会いに来たんだろう。あれで階級的には上部中隊長、少佐みたいな扱いで砦を任されて後方戦略指揮とかしていてもおかしくない。それが前線遊撃で戦果をバリバリあげてくるのだ


「味方で良かったなぁ」


14:28


そして今後の活動方針とも言える明日の実戦用情報収集の一環として俺は今、教官室の前に居る。理由は単純で今日入寮した学生の名簿と認識票がここにあるからだ。


「失礼します、一年のアオトです」


扉をノックすると中から間延びしたような声が聞こえた。


「はぁいどうぞぉ。あれ明日からじゃないっけ?」


扉を開けて中へ入るとそこにはやる気なさげな男性がこちらに背を向けて机に向かっていた。椅子をくるりと回転させてこちらに向くとまたも気の抜けたような挨拶をした。この人が教官?そう思わせるほどに覇気のない男だ。もっとも教本のプロフィールでは昇進試験に一度落ちており、再三のチャンスも蹴ったとあった。実力は確からしいが……


「あ、ごめんねちょっと待っててね」


そう言うと男は机から書類を一枚取り出し何かを書き込む。そしてそれをこちらに渡してきた。


「はいこれ、アオト君の個別認識票ね。明日以降はこの認識票で自分の情報を確認する事。無くしたら始末書だからね」

「ありがとうございます」

「それとこれは僕個人から質問なんだけど……君、僕の事知ってる?」

「いえ……すみません、教本に載っているプロフィールしか……」

「あーやっぱり。いやいいんだ気にしないで。僕はね、毎年問題児ばかり預かる迷教官と呼ばれるんだけどねぇ。キミみたいな有望株が僕の担当になるなんてご指名でも入ったのかと思ってさぁ」


なるほど……俺の情報どこまで出回ってるんだろうか頭が痛くなってきたぞ


「まぁ教官って言っても現場の殿をやったりするくらいだし僕が出張って来たらほぼほぼ負けたようなものだし出番なんて無い方が良いんだけどねぇ」

「縁起でもない事言わないでくださいよ……とりあえず明日からの実戦チームのメンバー情報を頂けないかと」

「あ、そうそう。そこが本題だよね」


男は立ち上がるとそのまま椅子をくるりと回転させて向き直る。この人こんな動きが多いな。考えをまとめるルーティンなのかな


「まぁみんないい意味で個性的だよ。まず一人目は……メーコちゃん。キミの相部屋の子だね。近接格闘の天才だ。個人主義が過ぎるから単独行動を咎めるように動かすと良い」


それから教官は一人一人のメンバー情報を事細かに説明してくれた。その情報量の多さから本当にこの学園では有名なのだろうというのがわかる。しかし……


「本題はもう一つあるんですけど明日の標的はどのタイプになりますかね?」

「それは明日のお楽しみ……って言いたいんだけど知りたい理由何かあるのかい?」

「初戦で華々しい戦果をあげてスピード出世の足がかりにするんですよ。俺としては搦め手が少ないウルフタイプか固いだけのタートルタイプだとありがたいんですけど」


これは本当だ。もっと言えばこの情報をメーコと共有して事前に作戦を立てる事で更に他チームより優位に、そして安全に勝利して戦果をあげたい。さらっと近接よりの2種類をあげたのはメーコがやりやすいタイプだから作戦構築が容易だからだ。


「うーんアオト君は今年の首席候補の一人だからねぇ……厳しいけどキミがそうしたいならそれでいいよ。なるほどね……君結構ずるい子なんだね、まぁいいやちょっと待ってね……」


男は手元の書類を漁り始める。確かプロフィールによればこの人は実戦指揮官として単独でも十二分に動ける兵士だと聞いたが……少し間をおいて教官は口を開く


「んーっとね、みんなアオト君の望むタイプだよ。さすがに編成までは言えないけど運いいね!」


事故が起こりづらいタイプならそれに越したことは無い。戦果は上々、後は今日出来る事はもう無さそうだ。なら早めに寝て明日に備えよう。


「あ、そうそう言い忘れてた。今日から、正確には明日から君の教官のr10-Tライオットだよ。よろしくね」

「よろしくお願いします。教官、ところでその書類はなんでしょうか?」


そう言いながら俺は教官室の奥の方にあるホワイトボードを指す。そこには誰かのプロフィールが記されているようだ


「ああ、これは退学者のリストさ。毎年数人は居るよ?初戦を嫌がる臆病者と呼んでも良いがね。死ぬのが怖くて前線任せるほど人材不足でもないしね」


俺もこの人の下で教わるのかと思うと先が思いやられるな……と内心思いながら退室する。とりあえず敵情報、地形情報は手に入れた。


15:58


初日に出来る事は全て済んだハズ。あとは当日に何が出来るかだ。


4月9日

9:00


「アオト」と呼び声がかかる。見ればメーコがわざわざドア前で待っていた。まさかカギを忘れて締め出された訳じゃないだろう


「メーコ、どうかしたか?」

「うむ。共に戦場を駆けるのだからな少しでも長く居ようと思ってな!」

「どしたのその言葉使い。緊張してる?」


……なんだろう、この緊張感は?いや別に何もやましい事はしていないハズだ!落ち着け俺……!とゆうか今後は同室なんだから早めに慣れなくては!初日の訓練は挨拶もそこそこにすぐ実戦だったハズ。集合場所はそもそも前線の直前だ。そこまで2人で他愛もない話をする。益体もない話を、とめどなく。


9:10


「ようし、準備はいいな。私はこの部隊で指揮官を務めるライオット少佐だ。階級があるからと言って特別扱いは期待するな? ここでは一兵士として扱わせてもらう」


ライオット教官。確か教本のプロフィールでは大尉だったはずだ。しかし少佐とはスピード出世するにはやはり前線が一番らしい


僕は━━


僕は生きて行けるだろうか━━


この━━




僕以外に生物を、見た事が無い世界で

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