第1話 あたしのお友達たんぽぽ
「ももずるい〜」
ももに新しいお友達「仔牛の夢」が出来た。あたしはパパに「あたしも欲しい」とおねだりした。パパとママは首を横に振る。
「すみちゃん、ごめんね。うちにはいないの」
「すみれ、うちには子牛はいないんだ」
ママとパパの言い訳聞きたく無い!
「ママもパパも大っ嫌い!」
あたしは窓を開け縁側に座り込んだ。絶対ママとパパのこと聞かないんだから。何度か声を掛けてきたがプイッとそっぽを向いた。暖かな陽気にうとうとしてくしゃみで目が覚めた。
「クシュン、ズズズ」
「ほら、すみちゃんもう入りなさい。風邪引くわよ」
「クシュン、クシュン、ズズズ」
あたしはそれでもガンとして縁側から離れない。見かねたパパがあたしに言った。
「明日、猟友会のパトロールがあるから一緒に行くかい」
あたしの脳裏に浮かんだのは大っきなくまさんだった。そっかぁ、くまさんだったらももに勝てるかも!
ママが入れてくれた生姜湯を飲みお布団に潜り込んだ。
うさぎさんの目覚ましがぴょんぴょん鳴った。う〜ん眠い。既に猟友会の皆んなが家に来ている。
あたしは目を擦りながら居間に行くと皆んなが挨拶してくれる。
「おはよう」
「すみちゃんおはよう」
「おはようございます」
あたしは力一杯頭を下げたら転がった。でんぐり返し。いつもはそのまま二度寝だけど今日はそうもいかない。大っきなくまさんとお友達になるんだ。小さな胸に誓っている。
「ママぁ。あたしもおにぎり食べた〜い」
猟友会の皆んなはママがこしらえたおにぎりを食べお茶を啜っている。
「すみちゃん眠く無いかい」
「無理しなくて良いんだよ」
あたしは首を横に振る。何度も振りめまいがしそう。
朝7時に出発した。あたしはパパと手を繋ぎ一番後ろを歩く。
「パパぁ、あたし皆んなと同じ鈴欲しい」
あたしのリュックの肩紐に付いている鈴は小さくチリンチリンとならない。
「パパのと交換しよう」
パパと交換した鈴、あたしには少し大きいがチリンチリンとなる。
スキップをするとチリンチリンが激しくなり、それが楽しく山道も苦でも無い。既にピクニック気分♩
「くまさん♩くまさん♩」
『森のくまさん』を歌いたくなる。
山の中腹で休憩を取っていると「ズドン!」。大きな音がした。うるさい。折角くまさんを歌っているのに。
「おい鹿だ。はよ来い」
皆んな一斉に立ち上がった。あたしはパパに抱っこされ皆んなの所に行く。目の前にお腹から血を流して倒れている親鹿。親鹿の側にトラップに掛かった仔鹿が倒れていてもがいている。
あたしはパパから滑り降り仔鹿の前で短い手をいっぱい広げて立ち塞がった。
「ダメ」
猟友会の人が猟銃を仔鹿に向けている。
「ダメ!」
「すみちゃん危ないよ」
パパがあたしに近寄ってきて抱っこしようとするが、手足をばたつかせ力一杯抵抗する。
「すみれ危ないから言う事聞きなさい!」
あたしは大きな瞳に涙を浮かべ訴えた。
「あたしのたんぽぽ誰にも上げないんだから!」
「「「たんぽぽ?」」」
あたしは倒れている仔鹿に抱きつき
「たんぽぽ上げない!」
ひたすら抵抗した。
皆んなが渋い顔をしている。
「会長、仔鹿の面倒をうちで見ますから、親鹿になったら森に放すのはどうですか?」
パパが猟友会会長に提案している。皆んなう〜とかあ〜とかうねっている。あたしは大きな瞳に涙を浮かべ顔にぐーをつけ皆んなの顔を覗き込む。
「あ〜、すみちゃんわかったよ。おじちゃん達まけちゃったよぉ」
あたしは猟友会の皆んなに頭を撫でられガッツポーズ。たんぽぽとお友達になれた。うきうきが止まらない。ふと、
「大っきなくまさんは?」
「くまさんはこの鈴が怖くて出てこないよ」
しまった。あたしがくまさんを怖がらせていたんだ。一気にテンションが下がり瞼が重くなる。瞼が重くなり始めると瞼を閉じとぼとぼと歩く。終いには手足が動かなくなった。
ちゅんちゅん
小鳥のさえずる声を聞き、もふもふした毛に抱きいているのに気がつくと。あたしの目はぱっと開いた。
たんぽぽ
あたしはたんぽぽの毛に何度もほおずりをした。
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次回は「たんぽぽの足治療」だよぉ
次回お楽しみに〜♪