19話 剣と銃と盾と槍
なんとか謎空間から逃げ出したオレとアウス。
「レイジくん……っ、怪我は!?」
「オレは大丈夫。守ってくれてありがとな!」
「ど、どうしたの?」
「いかがなさいましたか、マスター・レイジ様」
オレはイフェルとフォーゼに事情を説明した。
オレとアウス以外のビーム系武器を持っているヤツがいること、その二人が二年前にこの世界に来て、実戦経験を積んだ強者であること。
イフェルとフォーゼは驚いていた。
フォーゼは精神の声でオレに語りかけてくる。
(ツルハラヤ……まさかお前と同じ世界から来たヤツだったのか)
(知らなかったのか?)
(仕方ないだろ。手紙でしかやりとりしたことねぇんだ)
(たしかにな。
ちなみに、指輪を震わしたのはお前か?)
(ああ。指輪からヤツの名前が聞こえたからな。 知らせてやらないとと思ったのさ)
そうだったのか。今度からはちゃんと話を聞いてやろう。
「にしても、まさかアウスの盾を破壊する程の破壊力を持つ武器があるとはな」
だが、多分あれはライトセイバーのスタイルや、ビームシールドのシールドバッシュと同様に、なんらかの拡張機能だろう。
アーマーピアスとか言ってたな。
装甲を貫く徹甲弾という意味だろう。
攻撃重視型の『防御貫通効果付与』に近い性質を持っていたはずだ。
であれば、アウスとツルハラヤでは相性最悪だ。
「それに、ヤツらは二年近くこの世界で生きてきた。
オレとアウスよりビーム武器の扱いに長けているだろう。
そして、オレたちよりも武器の機能を開放しているはずだ」
戦闘経験、武器の機能。
共にオレたちを上回る相手というわけだ。
「どうしようか、レイジくん」
「オレとアウスの武器の機能を活かせば勝てない相手じゃない。
策はある……が、一つ問題がある」
「それは何だい?」
「あと一つ、開放しておきたい型がある」
「つまり、魔物を倒して経験値を稼ぎたいってことだね?」
「ああ。あいつらにバレないよう魔物を狩るぞ!」
その後は作戦会議を行い、話し合いを終了。
オレはゲートをリオルの街の外へと繋げ、異空間から出た。
そして、すぐに近くの森へ向かった。
そこで魔物を狩り続けること一時間。
ようやく経験値が溜まったので型を開放。
そして街へと戻った。
その道中。
どこからかビーム弾が飛んできた。
「うおっ!?」
飛んできた方向を見ると。
「よぉ。待ってたぜ?」
「もう見つかったのかよ……」
ツルハラヤは、突撃銃じみた形状のビームブラスターを構えながら言った。
ブラスターについている照準器越しに目が合う。
「よく逃げてくれたな………まあいい」
「というかなんでオレたちをねらうんだ?」
「ああ? 俺がお前の武器を欲しいからに決まってんだろ。
槍は銃と一緒に使いにくいから要らないが、ライトセイバーなら即座に切り替えられるからな」
「寝ぼけてんじゃねーぞ!
だったら二人で行動する方が役割分担できて楽じゃねーか!」
「あいにくと俺は、他人に背中を預けないんでな。
そこの女はあくまで俺の奴隷。仲間なんかじゃない」
「聞いてもね―ことをペラペラとよぉ、耳障りボイス発生源の舌と喉、切り裂いてやるよ!!」
オレは即座にライトセイバーを構える。
「行け。リナ」
「はい」
リナはビームランスを起動。
そのリナの前に立塞がるようにアウスは盾を構えた。
密度の高いビームシールドを展開した。
「レイジくん!」
「おう!」
事前に打ち合わせた作戦通り、オレはアウスの盾の後ろへ身を隠す。
「行くぞ、アウス!」
「ああ!」
アウスは大型の盾を構える。
「喰らいな! 徹甲弾!!」
「盾加速攻撃!!!!」
ツルハラヤのビームブラスターから放たれるビーム弾の数々。
それは加速するビームシールドに弾かれていく。
というか、なんつー速度だよ! 盾加速攻撃。
強化力場で全力疾走してぎりぎり追走できるほどだぞ!
そのままツルハラヤとの間合いを詰めるオレたちは、しかしリナが追いかけてきているのを見た。
「アウス!」
オレは合図を出し、盾の前へ出る。
そして、アウスの盾に足を乗せた。
アウスは盾をブレード状に形状変化させ、オレを盾加速攻撃の加速で吹っ飛ばす!!
これが協力技! 加速投射だっ!
アウスはブレード状に変えたビームシールドで、そのまま回転。
背後へ接近するリナを盾加速攻撃で吹き飛ばす。
「きゃあっ!?」
そして、加速投射で吹き飛ばされているオレは、瞬く間にツルハラヤとの間合いを詰める。
ツルハラヤはブラスターの銃口でこちらを狙い定める。
「撃ち落としてやるぜ! レイジッ!!」
「斬り落としてやるよ! ツルハラヤーッ!!!!」
高速で飛翔するビーム弾。
通常なら視認できても反応できない速度。
オレは、解放した新たな型を起動した。
「防御重視型ッ!! 起動!!!」
《了解しました、マスターッ!!》
ライトセイバーのブレードがオレンジ色へと変わり、そして。
防御重視型の効果。その一つが発揮される。
ちなみに、防御重視型の効果は以下のものだった。
【特徴】
攻撃への防御動作を強く補助する型。
・『ブレードの防御出力向上』
【効果】
┣攻撃防御時の出力向上。
┗防御範囲拡張
・『防御時身体能力向上』
【効果】
┗攻撃防御時の身体能力アシスト出力が上昇。
・『攻撃不通効果付与』
【効果】
┗対象の攻撃の慣性を解析し、効果的にダメージを防ぐ。
というものだった。
《防御動作検出!『防御時動作補正』起動します!!》
オレに命中しそうになるビーム弾は、すべてオレのライトセイバーに叩き落されていく。
「は!?!? ふざけんなよおい!!」
「ハッハァーッ!? ふざけて欲しかったかぁ? おい!」
一発、一発とオレ目掛けて放たれるをすべて、精確に防ぐ。
4mほどまで縮めた間合いを、オレは加速するままビーム弾を墜としながら詰める。
「くそくそくそッ!! 来るな!!」
「いいや? 近づくぜぇ?? それも恋人が肩を組む距離くらいになぁッ!!」
ブレードの射程内に入った、その時。
「なんてな」
にやり、と悪趣味な笑みを浮かべたツルハラヤ。
オレも獰猛な笑みを浮かべる。
「今だ! アウス!!」
「死ねや! 爆発榴弾!!」
ツルハラヤのビームブラスター。
そのバレル下部から現れた二つ目の大口径の銃口が光り、そして………。
オレの目の前で爆ぜる。
だが、俺は無傷だった。
オレの目の前に、防御力場が形成されていたからだった。
これが、アウスのビームシールドの新機能。
『力場展開位置変更』だった。
これは、自身の認識可能な範囲全て、どこにでも防御力場を展開できるという機能だった。
アウスはオレの目の前に、ビームシールドの防御力場を展開していたのだ。
そして、その盾はブレード状に変化し、盾加速攻撃で加速する!
加速したシールドに弾かれたブラスターの銃口。
今が、最大のチャンス!
「チィッ!」
「残念でした!! お前の小手先の技術なんて通用しねーよ!!!」
「何をしているリナ!!」
「ざぁんねん!! 彼女はもうオレら側だよバーカ!!」
リナが可愛らしいピンク色の舌をちろっと出して、ツルハラヤを挑発した。
そして、オレは型を変更した。
「やめろ、やめろやめろやめろ!!」
「あぁ~?? てめぇが奴隷にした奴らだって、おまえにそう言っただろうがよ!!」
悪いが、オレはこいつのような弱者を搾り取るような野郎は許せない。
最大限の痛みで、あの世へ送ってやろう。
「リティ。例のアレ、行けるか?」
《かしこまりました、マスター!》
リティがかつて言っていた。
型には二種類がある、と。
一つはすでに存在している基本の型。
もう一つは、既にある型同士を掛け合わせた型だ。
今回、ツルハラヤに使うのは後者の方だ。
その名も、特化型。
「攻撃重視+乱撃重視で行く!」
《かしこまりました。
攻撃重視+乱撃重視=猛攻特化型起動します!
型単体での使用とは違い、特化型は二つの型を多重起動するため、多大な魔力を消費します。ご留意ください!》
「オーケーリティ! 行くぞ!」
猛攻特化型。
その効果は元になった攻撃重視と乱撃重視を掛け合わせた効果を持つ。
・『ブレードの出力と取り回し向上』
・『連続攻撃時、攻撃動作のパワーと攻撃回数速度を加速』
・『攻撃が連続するほど、攻撃動作のパワーと攻撃回数速度が向上』
・『防御破壊効果』
攻撃を行えば行うほど、パワーと速度が際限なく上昇し、防御したとしてもその上から叩き潰す。
そして、その動きを強く補助するこの型。
まさに、バーサーカーの名に相応しい攻撃が可能というワケだ。
オレは、脳天からつま先すべてを迸る力のままに、叫びながらルビー色に輝くブレードを振るった。
「おらああああッッッ!!!!」
「や、やめてくれえええ!!」
強化力場に守られた肉体。
しかし、その強化力場は『防御破壊効果』によって、ガラス細工よりも簡単に破壊された。
「いやだああああああ!!!!」
ブレードが肌に命中する。
凄まじい破壊の刃が、ツルハラヤの肉体を箸で切り分けた豆腐みたいに容易く切り裂いていく。
「痛い痛い痛い痛いやめてください!!!」
「これで仕舞いだおらああ!!」
オレは首を切断し切り上げる一撃で、頭部を真っ二つにしてゲートに放り込んだのだった。
「噓……でしょ」
リナは口元を抑えながら、レイジの動きの異次元さをただただ見つめていた。
流星の如く勢いで刃を振るい、ビームブラスターに肉薄するレイジ。
そして、圧倒的な強者であるツルハラヤに、勝利して見せた。
その姿に、心を震わされたのだった。