14話 圧倒
ダッカーは、アウスをダンジョンで殺すつもりだったのだ。
ダッカーはオレを睨み付ける。
「レイジ。お前さえいなければ。
イフェルは今頃、どっかの豪商の慰み者だっただろうによぉ……」
「何を、言って……」
「まだガキだが、大人なれば良い性奴隷になっただろうな。上玉を売り飛ばして、俺は大金を手にするはずだった」
イフェルの顔が嫌悪、恐怖で染まる。
アウスの表情は怒りで満ちる。
「それで、どうするつもりだ?」
「こんなところで二人も殺しちまったら、俺は大犯罪者だな。
……まぁ、俺を捕らえられるやつなんて居ないがな!!!」
ダッカーは大剣に手を掛け引き抜いた。
だよな。そう来るよな……。
オレとしても、そう来て欲しかった!
「お前とは楽しめそうだぜ、ダッカー!」
「ぶっ殺してやるよ!レイジ!」
これまでは魔物としか戦ってこなかった。
人間との戦いは初めてだ!
とはいえ、初の対人戦闘。
オレは、ダッカーとの戦いで基本を学ぶことになるだろう。
ダッカーは大剣と体に魔力を纏わせる。
オレの知る限りでは、魔力を纏う行為に耐久性、防御力の強化以外の意味はない。
だが、この世界を生きてきたダッカーは、それ以外の魔力を活用する方法を知っているかもしれない。
《お知らせします。
マスターのおっしゃる通り、魔力をただ纏うだけでは耐久性と防御力強化にしかなりません。
ですが、纏った魔力を操作することで、攻撃力、運動能力の強化が可能です。
攻撃を強化する技術を"魔纏戦技"と呼びます。
武器と肉体に纏った魔力を操作して、攻撃動作を強化する技術です》
やはりな。
ダッカーはこの世界で生きてきた実力が備わっているが、オレにはリティがいる。
何も恐れることはない。
俺はライトセイバーのスイッチをオンし、高出力の光の刀身を発振した。
「さて、いくぞ」
「奇妙な剣だが、俺には通じんぞ!」
ダッカーは土煙をあげるほどの膂力で地を蹴り間合いを詰める。
オレも強化力場の通常アシストで距離を詰める。
「死にやがれ!!!」
ダッカーは大剣を上段から振り下ろす。
オレは大剣目掛けライトセイバーのブレードをぶち当てる。
魔力を纏う大剣はライトセイバーの威力を散らし、しかし高出力の刃は、大剣を弾く。
互いの威力が相殺し合い、お互い弾かれる。
「やるじゃねぇか」
「お前もな」
やはり、スタイルを使わない一撃の威力は低い。
だが、攻撃重視型は外した時の隙が大きい。
ここは乱撃重視型を使おう。
手数で押し、隙を見て攻撃重視型を叩き込んでやる!
オレはスタイルを起動する。
刀身が白色から緑色に変わり、手に来る反動が推力へと変換される。
「色が変わった…?」
「あれは、たしか……」
イフェルは見たことがあるからな。
アウスにもあとで教えてやろう。
その代わり、アウスの盾の機能も教えてもらうがな!
「……っ!」
加速される刀身から高速の斬撃を繰り出す。
ダッカーは大剣で防ぐが、即座に間合いを取る。
高威力の分鈍重な動きとなる大剣。
高速乱撃とでは、相性が致命的に悪いからだ。
だが、逃しはしない。
オレは間合いを詰め続け、ひたすら追い込む。
「クソッ……どうなってやがる!」
回避や防御によってライトセイバーの刃がまだ一度も肉体に触れていないのは、ひとえにダッカーの実力だ。
だが、今オレが選択しているスタイルは、
乱撃重視型。
《手数重視の動作を検出。『乱撃時身体能力向上』が起動します。》
その効果で、攻撃が続けば続く程に、その速度は上昇していく。
「はっ、速すぎるだろ!?」
大剣を構える暇も無いダッカー。
《連続攻撃の動作を検出。『連続攻撃時加速』
が起動します》
ついには回避もままならず、絶え間ない乱撃を防ぐために大剣の影に隠れるダッカー。
「なんなんだよテメェはよ!!」
相性の悪い相手に、不利な状況。
そう追い込まれた相手が次にする行動。
それは、打開すること。
現状から脱し、仕切り直したいはずだ。
「邪魔だボケ!!」
大剣ごと突進をかますダッカー。
今、ヤツは俺の姿が見えていない。
大剣で身を守り、即座に斬撃や刺突は行えない。
ただただ盲目に、突進するしかない。
いわば的。射ってくれと言っているようなもの。
その隙を、待っていた!
《乱撃重視型から攻撃重視型へ変更します。》
攻撃タイミングを合わせてくれたリティが、スタイルを攻撃重視型へ変えてくれた。
力を溜め、そして踏み出した。
《攻撃動作を検出。
攻撃重視型の強化アシストを開始します》
体がとても軽くなった。羽が生えたようだった。
そして、構えた動きを補助する力を感じる。
「うおおぉぉぉーっ!」
地面とほぼ垂直に飛び、力場による加速が俺に推力の翼を与えた。
左腰だめに構えたライトセイバーから、頼もしい手応えと共に、力ある獣の唸り声のような重低音が響く。
猛獣唸る剣を、振るう。
ヴゥゥゥゥゥン!!!
荒れ狂う高出力の刃が、凄まじい肉体強化により発生した破壊力を伴い、ダッカーを捉えた。
そして、
《防御作用の構造、解析済み。
ブレードの構造を変化させています。》
嵐の如く暴れるエネルギーの奔流が、ダッカーの魔力防御を削り、剥がし、破壊して。
大剣を切り飛ばす。
「んなぁっ!?」
だが、ライトセイバーの威力と速度は衰えない。
それどころかさらに増す。
大剣を容易く断つ光の刃は。
ダッカーを、両断した。
「ぎゃああぁぁぁぁぁっ!!!」
体を真っ二つにされたダッカーは痛みで発狂。
痛いと何度も連呼し、最終的には動かなくなった。
死んだ。殺した。
倒したのだ。
「ふぅ……」
オレ達を殺そうとしたのだ。
殺されても文句は言えないだろう。
にしても、振り返って見ればそこまで強い相手ではなかったなと思う。
ラッシュで押して圧力を掛け、耐えきれなくなったところをバスターで倒す。
これはなかなか強いのではないだろうか。
「うそ、でしょ…」
後になって聞いた話だが、ダッカーは熟練の冒険者だったらしい。
それが奴隷商人に闇堕ちとは、恐ろしい話もあるもんだ。
多分、イフェル以外にも狙われていたヤツは居たのだろう。
駆け出しの夢見る冒険者の依頼に参加し、仲良くなって油断させる。
その後は罠に嵌めて孤立させ、片割れを捕らえて奴隷にする。
ダッカー、恐ろしい奴だった。
だが、期待していたほど強くはなかった。