表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

12話 回生

 ギルドにダンジョン攻略の報告が終わった。

 俺たちは近くの席に着いた。


 一杯やりたいところだが、それは金勘定が終わってからだ。


 俺とイフェルがこなした依頼、ダンジョン攻略。

 その報酬は金貨三十枚、銀貨二十枚。

 価値はわからないが、割り切れる数字で助かった。


 ひとまず報酬を半分に分ける。

 お互いの取り分は金貨十五枚、銀貨十枚ずつ。


 そこから部屋代を銀貨二枚。

 ご飯代と傷薬などを含めて金貨一枚。


 俺は金貨十四枚、銀貨八枚。

 イフェルが金貨十六枚、銀貨十二枚となった。


 「よし。こんなもんでいいか?」

 「金貨一枚は高いわ。銀貨だけでよかったのに」

 「いいのいいの。

 それと、恩があるからここの飯代は俺が出すよ」


 いろいろと世話になったからな。

 恩の分も含めて、ここは俺が出す。


 だというのにイフェルは安いメニューを頼んだ。

 俺は一番高いものを適当に頼んで料理を待つ。


 「……なあ、イフェル。さっきの話だけど」

 「ダッカーの話?」

 「ああ」


 イフェルは少しため息を吐いた。


 「言っておきますけど、私と彼はダッカーのいう関係なんかじゃありません。

 向こうは私のこと、気に入ってくれてたみたいだけど。

 あの子は弟みたいなものだしね」


 いたって冷静にそう話すイフェル。

 たしかに彼女から悲しみの感情はあまり感じない。

 だが、寂しそうには見えた。

 

 「冒険者になるってことは、覚悟しなきゃいけない。いろいろね」

 「そうだな。

 ちなみに、これからどうするんだ?」

 

 冒険者パーティは解散。

 イフェルの実力なら一人でもやっていけるだろう。

 

 だが、仇であった迷宮を攻略した今、彼女は何を目的にするのだろうか。


 「……さあね。何も考えてない。

 もうじき私も適齢だし、実家に帰って後継を考えなきゃかもね」 

 「ほうほう。

 じゃあ俺を家まで連れて行ってくれよ。

 カデノコウジさんにも会いたいし」

 「そうね。そうしましょうか」

 

 俺たちは、イフェルの実家へ向かうことになった。

 というのも。

 俺が会ってみたい人物がいるからだが。


 出発は明日ということになり、ひとまず運ばれてきた料理を食べる。


 イフェルの手はあまり進んでいなかった。


 ◆ ◆ ◆


 視界が開けた時、すでに周囲は真っ暗だった。


 「ここは……どこなんだ……」


 全身の傷が痛む中、必死に這って進む。


 地面についた手に、何か固いものが触れた。


 《システム起動。所有者の死亡を確認》

 

 ちがう。僕はまだ死んじゃいない!


 《マスター情報を抹消。

 所有者様、マスター登録を完了してください》


 それをできれば、僕は生きられるのか?


 《否。しかし生存確率は上昇します》


 生きられる確率が、僅かにでも高まるなら……!


 《承認しました。

 これより当武装はマスターの所有者となります。

 マスター、アウス・ノーザクス》


 体が軽くなる。

 痛みはそのままだけど、これで、動ける!


 痛みに耐えて立ちあがろうと体に力を込める。

 ズキズキと全身が痛む。


 足を立て、力を込める。

 しかし、よろめいてしまう。


 何かに捕まろうとする僕の手を、誰かが掴んだ。


 「大丈夫かい?」

 「君……は……?」

 

 暗闇の中、確かに僕の手は握られた。


 その直後、暗闇を照らす白い光が生じた。


 光に照らされた顔は、見たことのない人。


 手には高級な回復薬が握られていた。


 「アンタがアウス、で間違いないか?」

 「う、うぐ……」

 「おっと、先に回復薬だな」


 口をなんとか開く。

 薬の瓶の飲み口が押し当たる。

 ゆっくりと注がれる薬を飲み込む。


 すると、たちまちに体の痛みが引いていく。

 傷だらけだった体はすぐに全回復した。


 「ありがとう!」


 すぐに頭を下げてお礼を言う。

 

 「お礼はいらないよ。

 それより、アンタがアウスだな?」

 「うん。そうだよ。

 迷宮(ダンジョン)攻略の依頼を受けて攻略していたんだけど、罠に掛かって出られなくなってさ。

 もうダメかと思ったよ……」

 「そりゃ災難だったな。

 イフェルが心配していたぞ」

 「か、彼女と知り合いなのかい!?」

 「ちょうど三日前にここで会ったぞ。

 てか、落ち着いた場所で話そうぜ。

 流石に魔物が怖い」

 「そうだね。でも、落ち着けるとこなんて」


 と、僕が言い終わる前に彼は僕の手を引いて歩き出す。

 目の前に奇妙な渦から浮かび上がり、そこを通ると真っ白な空間だった。

 

 「ここは……?」

 「説明はまた今度だ。

 まだ自己紹介してなかったな。

 俺はレイジ。カモト・レイジだ」

 

 レイジ。それが僕の命の恩人の名前だった。

 決して忘れないように心に刻んでおこう。


 「レイジくん。

 助けてくれて本当にありがとう!」

 「オレとしても生きていてくれてよかった」

 「どういうこと?」

 

 彼と僕は初対面のはずだ。

 そんな事情があるようにには思えなかった。


 「イフェルと……ダッカー。

 あの二人はお前が死んだと思ってる」

 「……!! そうだね、早く知らせないと」

 「とりあえず休め。

 明日の朝には起こしてやるから」


 目の前には大量の食べ物。

 そして暖かそうな布団。


 僕は差し出されるままに食べ、そして眠った。


 この時、僕にはまさかレイジが一生の相棒になるなんて、思ってもいなかったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ