11話 迷宮、攻略!
ゲートガーディアンが守っていた扉の奥に進むと。
そこにあったのは、謎の光に包まれふわふわと浮遊している、指輪。
なんだこれは。
俺は疑問のままに触れようとしたのだが。
「流石に怒るわよ」と、刺突属性の一言が俺の足を地面に縫い付けた。
彼女が解析魔術を使うと、それがすごい逸品であることが判明した。
その指輪は、この迷宮の核のようだった。
効果はいろいろあるみたいだが、何ができるかを纏めてみると、
・【異空間創造】
効果:異空間を生成する。
・【入出自在】
効果:生成した異空間に物体やエネルギーを取り出し、収納できるゲートを作り出す。
最大半径50m。一度訪れた場所なら自由に設置できる。
・【異空間保存】
効果:異空間内部に存在する物体やエネルギーの劣化を防ぐ。
・【存在創造】
効果:様々な存在を作り出し、使役する。
と、使いどころがいろいろありそうだ。
「よし。それじゃ帰るか」
指輪を手に大扉から出ると。
視界が一瞬で真っ白に覆われ。
そして、再び視界が戻ると、洞穴の外にいた。
振り返ると、洞穴は内部が崩れ埋まってしまった。
「これはまあ、なんというか。
すぐに出れて助かったというべきかな」
ぶっちゃけいちいち戻るとか面倒だったしな。
隣を見ると、イフェルは体を震わせていた。
その表情には達成感が如実に表れていた。
「迷宮攻略、手伝ってくれてありがとう!」
「いやいや、色々と奢ってもらったし。
これくらいはさせてもらう」
「でも気を抜いちゃだめ、だからね?
ギルドに報告するまでが依頼だもの」
帰宅するまでが遠足みたいな言い回し。
オレは不覚にも吹き出してしまった。
だが、彼女の言っていることは間違っていない。
依頼達成の喜びに足を掬われるのは避けたいしな。
というわけで。
オレたちはさっさと帰ることにした。
帰り道がかなり長い上、外はもう夜だ。
かなり危険な帰り道になる……。
気を引き締めなければ。
と、思った矢先。
先ほどの指輪の効果が脳裏をチラつく。
たしか【入出自在】の効果は……。
"一度訪れたことのある場所には出入り可能"
というものがあったはずだ。
この効果で、異空間を経由。
一瞬で帰れるのでは!?
俺は早速預かっていた指輪を嵌めた。
そして、その効果を使いたい、と念じた。
すると。
目の前の空間が歪み、渦が現れた!
これがゲートか。
光が溢れ出すその渦。
渦の向こうに白い空間が見える。
「レイジくん!?」
「ショトカ開通!行くぞ!」
俺はイフェルの手を引きその空間に入った。
入った先にはだだっ広い真っ白な空間。
「おー。結構広いな」
「ここはどこなのよ!」
おっと、忘れてた。
出口を作らないと。
俺はまた効果使用を念じ、出口を街に設定する。
またしても渦が生じた。
その向こうには街の光景が映っている。
「よし。ついてこい!」
「次から無断使用したら……わかってますよね?」
「あ、はい。ごめんなさい」
今度は二人別々に渦に入る。
街の大通りに出た。
「うそ……もう帰って来れたの?」
すごいな。これ。
異空間に物を収納できるし、出入り口を設定すれば即帰宅のショートカットだ。
俺に家はないが、あそこを家にしてもいいかもな。
なんて思っていると。
「と、とりあえず、ギルドに報告しましょ。
祝杯はその後よ!」
「あいよー」
夜の街を歩くこと数分。
イフェルの道案内で着いたギルド。
内部は酒場や道具屋なんかがあって、活気に満ちているのがよくわかる。
「お、イフェルちゃんじゃねえか」
「ダッカーじゃない。久しぶりね」
イフェルに話しかけるダッカーと呼ばれた男。
馬鹿でかい大剣を背負った偉丈夫だった。
「お、そこのイケメンはイフェルちゃんの男か?」
「ち、違うわよっ。彼は旅人。
迷宮攻略をお供してもらったの」
イフェルとダッカーのやりとり。
聞いていて仲が良さそうに感じた。
でもそれ以上に気になったことがある。
あのオッサン、多分めちゃくちゃ強いな。
立ち姿に重心のブレが無い。
それに、ガタイもいいし筋肉の量が見たことないくらいにある。
強そー。戦ったら楽しそうだ。
「で、イケメンくんよ。
何を値踏みにしているんだ?」
「アンタ強そうだなーって。
少なくともイフェルよりも」
「そうかい。嬉しいね。君、名前は?」
「俺はカモト・レイジ。
ダッカーさんはイフェルと仲良いみたいだな」
「まあ元パーティメンバーだしな」
ほー。元、か。
「何があったんだ?」
「リーダーが死んじまってから解散したんだよ。
あの野郎、調子に乗って一人で迷宮に乗り込んで、そのまま消息不明。
こんな可愛い子を残して逝っちまうとはな。
罪な男だぜ。」
ほうほう。
ん? イフェルちゃんはもしかして。
パーティリーダーとデキてたのか?
じゃなくて。
イフェルは三日前、一人で迷宮に向かっていたよな。
もしかしてあれか。
敵討ちだったのか?
と、思っているとイフェルが俺とダッカーの間に割り込んできた。
「はい、話はそこまでよ!
レイジくん、行こ。ダッカーもまたね」
「おう! それとレイジ!イフェルを頼むぜ!」
「あいよ!任せとけ!」
イフェルに引き摺られながら、ダッカーと約束を交わした。
そしてギルドのカウンターに着く。
受付のお姉さんは、イフェルの顔を見るや否や、
「イフェルちゃんッ!?」
「ヘルナリースさん。そんな驚かなくても」
「だって、三日も経つのに依頼取り消しに来ないから、てっきり……!」
カウンター越しにイフェルを抱き止める受付のお姉さん。
状況から察するに、おそらく。
イフェル、ダッカーの所属していた冒険者パーティは、リーダーが亡くなって解散。
イフェルはリーダーの敵討ちにダンジョン攻略に向かい、音信不通だった。と。
ふむ。通りで無謀な挑戦だと思ったわけだ。
イフェルは失恋の最中、死に場所を探していたのかもしれないな。
と、考えているといつの間にか依頼達成の承認を受け終わっていたのだった。