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第9話 少年の案内


「───! ─────!」


「──い! ─胆!」


「おいって……言ってるだろ!!」


少年が私の掛け布団を剥ぎ、部屋の隅に投げ捨てた。素早くカーテンを開けると、私の上に馬乗りになる。


「重い……眩しい……」


私は顔を手で隠して言った。


「いつまで寝てるのさ! 早く起きて!」


少年は浴衣の掛衿を掴んで催促した。


「起きる……起きるから、服を掴まないでください。浴衣は乱れるので」


そう言うと少年は飽きたのか手を離してくれた。


「ご飯作ったから、着替えて居間に来て。食べたらこの地域を案内するよ」


ぴしゃん、と戸を閉めて居間の方へ向かったのだろう、少年の足音が少しずつ遠のいていった。私は体を起こし、灰色のシャツ、黒のズボン、白衣。いつもの服に着替えた。宇宙空間用スーツは必要ないと判断したのだ。環境の条件や体調に異常がないからだ。

居間のテーブルには2人分の食事が用意されていた。少年も食事はこれからなのだろう。米と山菜の汁物が湯気を登らせていた。


「いただきます」


まだ覚束ないが手を合わせて言ってみた。


「どーぞ。竜胆も住み込みで働くし、部屋も布団も新しく用意しないとだね」


少年が汁物を啜ってから言った。


「今のままでも結構ですよ?」


「そういう訳にもいかないさ。竜胆が寝ていた部屋来客用だし、布団だってそうだ。もうお客じゃないんだから」


 食後間もなく山を降りながら、この星について話してもらった。


「この世界の人口は約15万人といわれてる。で、ここは人口100人の小さな集落ってわけ」


「へぇ」


「結局竜胆は遠くから来たんでしょ? どんな環境だったかくらい聞いてもいい? こことどんな違いがあるの?」


「まぁ……環境くらいならいいか。─正直ここと大差ないんです。強いて云うなら一日の時間が違いますかね。この地域の方が時間の流れが速い。あと若干この地域の方が寒冷です。それ以外はかなり似ている。生物、文化、貴方に至っては言語まで……。是非理由を聞いてみたいのですが」


「それは君の話と交換だね。いつでも受け付けてるよ」


「是非またの機会に」


瓦のような黒屋根の、質素な住宅が続く。年季の入ったくすんだ家ばかりだ。所々田畑も確認できたが、何を栽培しているかは判らなかった。暫く歩いていたが、集落に住む人間と遭遇しない。会える気配もない。



「着いた。ここが僕の通ってる学校。まあ、ここ以外の選択肢ないんだけどね」


少年が立ち止まった。校舎とは呼べない程老朽化した木造の建物だった。


「古い建物なんでしょうけど……ボロいですね。建て替えは?」


「取り壊しが決まってる。新しいのが建つまではこの校舎を使うみたいだけど。寂しいけど仕方ないよね」


私に振り返って返事をした。少年は少しだけ笑っているように見えた。


「寂しい? 新しい校舎が使えて嬉しくないのですか?」


「思い出ってものがあるんだよ」


少年は校舎側へ振り返り、暫く一点を見つめた。


「……戻ろうか、あとはみんな家と畑だ。竜胆には神社の境内図を覚えてもらわないと! 祠が転々とあるから山の中も把握してほしいしね」


私の方へ向きなおると、私を押して家に帰ろうとした。


「規模の大きい神社なのですね」


「そうだろうね。神社も一つしかないからさ、この集落」




「似合うね袴! やっぱ形からだよね」


少年が私の周りを回りながら手でカメラのポーズを作った。


「わざわざ着替える必要ないですよね? 足元がひらひらして落ち着かないのですが」


私は紺色の袴を半ば強制的に着せられていた。長い袖とひらひらした足元に戸惑って、その場をぐるぐる回っていた。


「竜胆の仕事も立派な神職さ! 神様に携わるんだから、服装は大事だと思わない?」


「はぁ……わかりました。ただ、私のこと着せ替え人形だと思わないでくださいね?」


「スタイル良いのに勿体ないと思いまーす」


少年が左手をぴんと挙げた。


「私の体は貴方の物じゃないんです」



「境内は倉庫の箒か熊手で掃き掃除。社の前から階段下の参道や鳥居側に向かって掃いていくのが規則。始める前に一礼することも忘れないでね。社の中は雑巾で拭き掃除。清い神社は神様のエネルギーも大きくなるんだ。丁寧に、お願いするよ。」


外に出て、家の隣にある倉庫に来ていた。少年が倉庫の扉を開けて、中にある掃除用具の説明をした。


「これ、今まで毎日やっていたのですか?」


「そうだよ? だから大変なんだよぉ」



 少年の家に住み着いてしばらくが経った。日の出と共に目を覚まし、ハンガーに掛けた袴に着替える。家の扉を開けると、一面落ち葉だらけで毎朝ため息が出る。隣の小さな倉庫から箒、塵取り、袋を出し掃除を始める。この星は常に涼しく風があるため、山の上方から葉が永遠に流れて来る。一時間後、クロユリが朝食の用意が出来たと呼びにくる。少年は早食いなので大抵私より先に完食し、学校へ行く。私も朝食を終えると、山を登り宇宙船の手入れや、植物の世話をする。それからクロユリが帰ってくるまでは掃除をしている。偶に本当に意味はあるのだろうかとクロユリに問うが、「神職の仕事の大半は掃除だ」で終わるだけだった。

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