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第32話 薔薇と桔梗と千寿菊



 船の場所をマリーと再会した場所へ移した。話したいことが山ほどあるんだけど、一度場を整えようとマリーが言ったからだ。


マリーが乗ってきた船も別方向にあるようで、分かりやすいあの場所で待ち合わせすることにしたのだった。


竜胆達3人はマリーの船で話をすることになっていたため、船を停めてマリーの船前で待機していた。


「なあ竜胆、さっきのヤツとはどういう関係なんだよ?」


「母星にいた時の友人で、仕事仲間だ。星を出る時に色々手を回してくれたのもあいつなんだ」


「へぇー、竜胆にも友達っていたんだね」


「あいつとは話が合うんだ。歳も近いし」


「「へぇー」」


船の小窓からマリーと目が合うと、彼はバタバタと奥へ消えて行った。すぐに扉に繋がる階段が出される。


「にしてもあいつデカいよなー、竜胆と頭1つ分は差があったぞ」


「それ僕も思った」


「確かに、私の星の中でも特に背が高かったな」


竜胆を先頭に階段を登る。一番上の段で竜胆は止まって


「そうだ。蓮は言葉通じないだろうから、何か言いたいことがあれば私づてに言ってください」


と蓮に声をかける。そして少し屈んで、小声で


「あと、クロッカ。あなたの正体については言わない方が良いですか?」


と聞いた。


「そうだね。説明が面倒くさそうだし」


そうして、扉が開いた。


「よく来たね! みんな入ってよ! あ、そうだ靴はここの中で脱いでね」


マリーが入口で待ち構えていた。宇宙空間用スーツはまだ着用したままだった。


「わかった」


「おじゃましまーす!」


竜胆とクロッカが靴を脱いで上がったので、蓮もそれに倣って靴を脱いで合わせた。


船の造りは竜胆の船と大差ないだろう。白を基調とした清潔感のある空間である。リビングが片付いているのでとても広く見えた。


「よく来たな竜胆」


キッチンのテーブルに脚を組んで座っている人物が声をかけた。低い落ち着きのある声だった。竜胆はこれにもまた、懐かしさを感じた。


「まさか……桔梗さん? あなたまで!?」


黒いストレートヘアに、紫色のキツい吊り目。スクエア型の黒い眼鏡をしていた。最後に会った時と全く変わらない格好だった。


「もう1人いるぞ」


桔梗は茶を飲んでいたコップを置き、竜胆達の背後を指さした。


刹那、竜胆の背後に圧を感じた。振り返ると竜胆と同じくらいの背丈の、金髪の男が立っていた。赤くて存在感のある目が幼い印象を与えるが、体格は成人した男性そのものだった。


「うわっ……え……本当に誰ですか……?」


「びっくりした、全然気付かなかったよ」


「始めましてだな! 話には聞いていたぞ竜胆! 俺はイバラだ!!」


イバラと名乗る男は、耳がビリビリする程の、自信あり気な大声で言った。同時に竜胆に握手を求めた。恐る恐る竜胆が手を出すと、力強く握り返して上下に振る。


「会ってみたかったんだよ君とは!! 何せマリーが友達とまで言っていたからなぁ!!」


「おい自己紹介は後でいいだろ。取り敢えず3人、その辺の空いてるところに座ってくれ」


桔梗が席を立って空いている空間を指さした。


「わかりました……」





「まず自己紹介からしよう。初めて見る顔もある訳だしな」


桔梗が言った。リビングの広い床に6人が円を描いて座っている。時計回りに蓮、竜胆、クロッカ、イバラ、マリー、桔梗の順だ。


「じゃあ僕から。僕はマリー、竜胆と同じ星から来たよ。竜胆とは同じ大学で助教をしていたんだ! よろしくね!」


「俺はイバラだ! マリーや桔梗とは別の仕事に就いていた! 簡単に言えば、宇宙開発企業の技術担当だな! ここへは桔梗の誘いで来た感じだ!」


「最後に、俺が桔梗だ。イバラとは長い付き合いなんだ。仕事は元々竜胆がいた研究所で、宇宙に関する研究をしていた。竜胆のことはその時に知った」


クロッカが竜胆と顔を見合わせて言う。


「えーとじゃあ、こっちの番かな? 僕はクロッカ! よろしく!」


「私は竜胆です。知っての通り、研究所で研究をしていましたが、大学で教員もしておりました。それで、隣にいるのは蓮と言います。彼はまだ私達の言語を習得していないので、話すときは私かクロッカを通してお願いします」


竜胆が隣の蓮を指さして言う。蓮は意味が分かったのかマリー達を見て軽く礼をした。


「えーと、紹介は終わったし、僕達のことについて先に話した方が楽かな……?」


マリーが手を合わせる。


「そうしてくれると助かる」


「じゃあ、僕らがここにいる理由から話そうか」





「まず、どうして竜胆が星を出たか知ってる?」


マリーがクロッカと蓮に聞いた。


「竜胆からは爆発事件の犯人になりそうだったからって聞いてるよ」


クロッカが答えた。


「そう、合ってる。爆発に遭った大学も研究所もほぼ全壊で、復興にはすごい時間がかかりそうだったんだ。他の学校で仕事するのも考えたけど、いっそ仕事辞めて僕も宇宙行ってみたいなって思ってさ!」


しん、と場が静まり返ったので竜胆が口を開く。


「……それだけなのか?」


「うん」


「イバラさんと、桔梗さんまで誘っておいて!?」


マリーを詰める竜胆に桔梗が入る。


「俺はいいんだ別に。マリーひとりでは行かせられなかったんだ」


「マリーや桔梗と会えなくなるのは寂しいから、話を聞いたとき俺もついてきた感じだ! だからみんな、あまり大きな意味はないな!」


胡座をかいて座るイバラがそうまとめた。


「で、大事なのはここからなんだよ!」


「ほう」


「実はね、あの爆発事件解決したんだ!」


「え!? 私が犯人だと確定された訳じゃなく!?」


「そうじゃなくて、竜胆が星を出た後真犯人が見つかったの!」


マリーは子供のように目を輝かせて言う。


「……誰なのか、聞いても良いか? もしかして、大学や研究所の関係者か……?」


竜胆は強張った顔で聞いた。マリーは一瞬悩んで、桔梗と目を合わせたが


「……前教授。体調不良を理由に急に辞めちゃったあの人」


と答えた。


「そう、だったのか……」


「鬱病が原因で辞めたっぽくて、自宅で自殺してて、遺書に事件の事が書かれてたから」


「まあ、暗い話になったが、要はもう帰れるってことだ」


「……けど、宇宙船盗んで今ここにいるんですよ? 別の罪に問われませんか」


「そうだなぁ……。しかし、元の船の所有者が許したら解決じゃないか?」


「そんな簡単に言いますけど─」


「あの船は大学に贈られたモニュメントだった。つまり現在の所有者は大学の理事長ということになる。ここまでは分かるだろう?」


「はい」


「それでな、実はこいつ─イバラが、あの理事長の孫なんだ。俺達が星を出る前に、イバラが理事長に掛け合ってくれたんだよな?」


「は─」


桔梗はイバラに確認する。イバラは三つ編みの長い髪の先をいじるのを止め


「ああ! お祖父様には上手い事言って納得させたんでな! 帰っても特に問題ないぞ!!」


と竜胆に言った。


「……本当に事実ですか?」


「ほら、理事長も金髪だったでしょ? イバラと同じじゃん?」


「金髪なんて別に珍しくないだろう」


「信じ難いが、今話したのが事実なんだ。受け入れろ」


桔梗が眼鏡の位置を直して言った。


「わっ……かりました。改めて、これまでの援助ありがとうございました」



深呼吸して、竜胆が3人に深く頭を下げた。


「気にしないでよ! あの時も言ったけど、僕が勝手にやったことなんだから!」


マリーは驚いて、手を振ってそう言う。


「そうだ! 今度は、竜胆の話を聴かせてよ!」


「これまでの話か……。あまり面白くないぞ?」


「いいんだよ!」


「そうか、じゃあ分かった」


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