第21話 神の呪い
背の低い草が茂る、開けた場所に辿り着くと、蓮は減速して、やがて止まった。そして辺りを警戒して一周回る。
少し遅れて竜胆とクロッカも到着した。
「どこだろう、ここ……」
クロッカが呟いた。蓮に近づくと、蓮は手に持った紙を破り始めた。
「はっクロッカに言われなくたってハナからそのつもりだったっつーの!」
4回破って、その紙片を地面にばら撒いた。ロングブーツを履いた足裏全体で踏みつける。
「神とか! 生贄とか! 全部あいつらの都合じゃねえか気色悪ぃ!! 生贄なんて意味ねぇぜってー行かねえ!!」
何度も何度も踏みつけながら、そう吐き捨てた。この行動は予想外だったのか、クロッカが大声で笑った。
「─!? 誰だ!」
蓮が警戒して辺りを見回した。クロッカが腹を抱えながら言う。
「まさか……ふふっ、そこまでするとは思わなくて……っ」
なんとか絞り出した声で言うと、二人の姿を消す術を解いた。
「! 竜胆、と……誰だお前? 何で急に出て来たんだ!?」
「いやだなぁ〜クロッカだよ蓮。わからないの?」
「はあ!? だ、だって! あり得ねえだろ、本当かよ竜胆!?」
「信じ難いですが事実ですね」
「〜〜〜っ!」
混乱して蓮は頭を掻き毟った。
「それより、これを確認させてくれ」
クロッカが蓮の足元にある紙片の傍でしゃがみ込む。
「はぁ!? ちょっ」
「やっぱり地図だったのか」
竜胆と蓮が駆け寄ってクロッカを囲む。クロッカが紙片の1つに触れた瞬間
「っ燃えた……!」
黒い炎で紙片は全て燃え、灰が風に乗って流れた。
「……何か、臭いませんか?」
少しして竜胆が鼻を覆って言った。蓮も言う。
「あー確かに。何か甘ったるい─」
「っあれ、“呪い”がかかってる……!」
クロッカが血の気の引いた顔で言った。
「「呪い?」」
竜胆と蓮が言った。
「蓮! さっきの地図、どこの行き先が書かれてた!?」
蓮の顔をずい、と覗き込んだ。縦長の瞳孔を一段鋭くさせて。クロッカの目に困惑する蓮の顔が映る。
「えっ」
「案内してくれ! 早くっ!!」
クロッカが蓮の肩を揺さぶる。
「わ、わかった! 遅れんなよ!」
そう言うと蓮は、来たときとはまた別の方向に、二人の前を先導して走りだした。
竜胆の前を走る蓮と横並びになって、クロッカが言う。
「蓮、到着前に情報を整理しておきたい! 僕の質問に答えてくれ!」
「何だ!」
「蓮は神に捧げられる生贄だったんだよね?」
「ああ! 15年に1回、集落で一番強え奴を神に捧げるっつー伝統があって─」
「その神ってさぁ! アプスーってやつじゃない!?」
「─! そうだ、合ってる!! 何で知ってんだよ!?」
「どうせ後で分かるさ! 最後に1つ聞くけど、集落の人間で共通して身に付けてる物ってある!?」
「あぁ!? ─あっ」
「何!?」
「耳飾り! 束ねた糸を赤染めしてるやつだ!」
「蓮は今それ、着けてる?」
「着けてねぇ!」
「そうか……っ不幸中の幸い、だろうか……」
クロッカが苦い顔をした。
「そうだ! 悪あがき程度だが、呪いを打ち消す術を……!」
クロッカが指で輪を作り、反対の手でそれを切って、息をかけた。
そこを、蓮が間髪入れずに言う。
「おい、もう着くぞ! 竜胆! 着いて来てっか!?」
蓮が振り向く。竜胆は汗で滑る眼鏡を押さえながら
「ええ、まだ走れます……!」
と答えた。
岩の斜面を登って行くと、頂上に祠があった。辺りよりは開けた場所で、その中央まで来て蓮が言った。
「いつ作られたのか、何で出来ているかは不明だが、ここにアプスーが居るって昔から伝えられてきた。生贄は地図を持ってここに行けって─」
「もう良い」
聞き慣れない第三者の声がした。低い男の声だ。
「生贄が責務を果たさん代わりに、残りの人間を頂いた故な」
「─!?」
竜胆と蓮は目を見開いて周囲に警戒した。しかし、3人以外に人の姿はない。
「─ああ、しかし今来たのか。……だが、もう遅いと言うものよ」
その声は嘲笑混じりに言った。
「おいアプスー! 姿を眩ましてないで、出て来たらどうだ!!」
クロッカが腰の刀を引き抜き大声で言う。横にいた竜胆の肩が跳ねた。
「ん? その姿……“クロユリ”ではないか。少し雰囲気が変わったな」
そう言うと、祠から人が現れた。深く紅い長髪で癖毛の、大柄な男だった。蓮はクロッカの正体も、神の存在も詳しく知らないので混乱の種が増えるばかりだった。
「うるさい。アプスーお前、どういうつもりだ」
刃の先をアプスーに向けて言った。
「何がだ?」
「貴様この星の土地神では無いのか! 恩恵を与えておいて、集落の人間を呪い殺すなど論外だろう!!」
「呪いだなんて心外な。それに俺は土地神じゃあない。契約しただけさ」
「契約だと?」
「あぁそうだ。そこの小僧の集落の長と契約したんだよ」
そう言うとアプスーは蓮を指さした。尚も饒舌に語る。
「決して枯れぬ泉を創り、守る代わりに、15年に一度強い奴を寄越せとな。逆らったら死ぬように、集落の人間に耳飾りを着けることもソイツは了承済み! ……まぁでも、あの泉は俺が術を使わなくとも枯れんのだがな! そうとも知らず“恵み”だなどと……! はははははっ! 滑稽極まりな─」
「てめえぇぇぇっ!!!!」
「おや?」
「あっ蓮! ダメだっ!」
頭に血の昇った蓮が、槍で神アプスーに斬りかかった。アプスーは自身の張った結界の内で優雅に笑っている。
「殺したのかよ!? オレの家族を!! おい、答えろよ!!」
蓮は鋭い歯を剥き出しにして叫ぶ。
「あ゙ーもうダメだ……」
クロッカが額を押さえて言った。
「ほう……美しい筋肉、俊敏さ、力……。気に入った、俺は強い奴が好きだ! 共に闘おうではないか!」
アプスーは術で武器を創り、結界を解いて蓮と鍔迫り合いを始めた。
「─あいつは戦闘狂だ。強い奴と戦っては痛振って殺すのがオチ。あの状態になると手がつけられないんだ」
数歩引いて竜胆の横へ来たクロッカが、小声で話し始める。
「あなたと彼の関係が全く分かりませんが……私はどうすれば?」
「幸い人間と闘う時は術を使わないんだ。それがあいつのやり方らしい。動きを止めて、僕の術で封印するのが一番だと思うね」
「成程」
「僕は蓮をサポートしながら封印の準備をするから、竜胆はアプスーの隙を作ってほしい」
「私がっ?」
「あいつは弱い奴には興味がない。だから一番油断されてる竜胆がやってほしい。封印でかなり負担がかかるだろうから、姿を消す術は僕の体力的に使えないけど……」
「……隙は、どのくらいの時間必要ですか」
「ほんの一瞬でいい。その間に僕が絶対成功させてみせる。封印の準備が出来たら合図を出すから」
そう言うとクロッカは合図として、頭の上で丸を作った。
「わかりました。やります」
「頼んだよ!」
竜胆は捌けて祠の裏に周った。頬に冷や汗をかきながら、蓮とアプスーの戦況を見守る。
そして、自身の腰に用意していたモノに触れた。




