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次の海へ

 お化け灯台に縋りついて泣いていた奈波の身体が、高波に洗われてぽろりと崩れた。

 砂で作った城を波が押し流すように、寄せては返す波で奈波の身体がじわじわと削り取られていく。

 どうすることもできないまま、ワタシはその光景を見つめていた。

 

 きっとあの巨大な奈波は本当の奈波ではなかったのだと思う。

 ワタシは奈波が深い深い水底に沈んでいくのをハッキリと見ていたのだから。


 あれはきっとお父さんに会いたいという強い気持ちが奈波の形になったもの。

 海に取り残されて、陸に帰ることのできなかった人間たちの悲しみを癒すために現れた天使のような存在。

 灯台に逃げ込み助けを待った哀れな人間たちの魂を連れて、奈波は帰っていったのだろう。


 奈波のいなくなったお化け灯台を見つめて、礁弥(しょうや)は困ったような、怒ったような顔をしていた。


「美海はわかってるか? 自分が禁忌を犯したこと」


 静かな問いかけだった。

 ワタシは頷くことしかできない。

 現に、ワタシも奈波も他人の目から見て明らかな罰を受けているのだから。


 ワタシがあの洞窟に逃げ込んでいなければ、声を失うことはなかっただろう。

 奈波だって命を落とさずに済んだはずだ。


 そう考えると悪いのは全部ワタシだ。


「僕の大伯父さん――ばあちゃんのお兄さんに当たる人なんだけどさ。その人が冒険家なんだ。ばあちゃんでさえ何十年も連絡を取ってなくて、生きてるのか死んだのかもわからないらしいんだけど。その大伯父さんなら美海の声を取り戻す方法を知ってるかもしれない」


 一緒に探しに行かないか? と礁弥がワタシの目を見つめる。

 ワタシは返事をすることができなかった。

 石になったように硬直して、まばたきも呼吸もできずに礁弥を見つめ返す。


 ワタシは禁忌を犯したから。

 里を追われるのは当然だ。

 だけど礁弥は違う。

 礁弥とはずっと一緒にいたいけど、ここに礁弥まで巻き込んだら……――。


「……よし、行こう!」


 答えを出すよりも前に、礁弥はワタシの手を引いて泳ぎ出した。

 奈波といい礁弥といい、どうしてこんなにも強引なんだろう。

 ワタシは迷惑をかけてばかりなのに。


「とりあえず南の方からでいいかな? あっちには大伯父さんと仲の良い友達がいるって聞いたんだ。

 大丈夫。もうサメが来てもこの手は離さないよ」


 礁弥はワタシの気なんか知らないでどんどん泳いで行ってしまう。

 いつか声を取り戻すことができたら、文句のひとつでも言ってやろう。

これにて完結となります。

最後までお付き合いくださりありがとうございました!

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