表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第二章 運命の出会いと砂漠の陰謀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/229

〈57〉私だって何かしたいのです



 コンコン


「はい?」

「レオナ・ローゼンです」

「どうぞ」


 レオナにとっては、久しぶりのカミロ研究室である。

 贔屓だと言われて以来の訪問になる。

 中にいたヒューゴーに、公爵家へ帰ることを告げると、レポートの進捗を聞かれた。無事下書きが終わったと伝えると、ホッとされる。

 ルスラーンは、その間フィリベルトと話をしている。


 そうこうしていると、噂通り目が死んでいる副団長が

「カミロー、僕の弓、直ってるう〜?」

 ヘロヘロで研究室にやって来た。

「ええ。酷使しすぎでは?」

 苦笑しながら、メンテ済の武器をジョエルに手渡すカミロ。

「文句はゲルゴリラに言ってー。あ、ルスー! 今日非番だろ? 飲みいこー。あ! ヒュー発見!」

「げ」

「うわぁ制服だあー! 似合ってるー! めちゃくちゃ可愛いー!」

「うっぜええええ! くそ!」

「抱っこさせてー!」

「なんでだよ!」

 研究室で、唐突に鬼ごっこが始まった。

「……」

 目がまん丸で絶句しているルスラーンに、

「あの通り、溺愛なんですの」

 と一応補足するレオナ。

「もしかしてヒューゴー君って、あれが素?」

 わーわー逃げ回るヒューゴーを指差す彼は、戸惑い気味だ。

「ふふ。そうですわ」

「あーなんか安心したわ」

「なぜですの?」

「いやあ、歳の割に凄味があるっていうか、気配が只者じゃないって思ってたからさ」



 

 たらり。ひやり。


 


「……学院では一生懸命、らしく振舞っているそうだよ?」

 とフィリベルトの助け舟。

「なんだそうか。良かった」

「うん。さあジョエル、そろそろ止まろうか?」

 フィリベルトが言うが、でもでもだって可愛いしー、触りたーい、と騒ぐジョエルに、そろそろさすがのカミロもぶちギレそうなので

「……シャルが見たらなんて言いますかね?」

 レオナは伝家の宝刀を抜いた。


 ピタリと止まるジョエル。


「レ、レオナ、あのね」

「言い訳は、シャルになさってね」

 またも目がまん丸のルスラーンに

「ジョエルは、シャルリーヌ嬢に頭が上がらないんだよね」

 と苦笑するフィリベルト。



 ジョエルには、仕方がないかもしれないが、若気の至りでやらかしていた時期がある。俺様最強、女にもモテまくりだぜヒャッハー! のまさに黒歴史だったわけだが、シャルリーヌに

「調子乗ってるのが最高にかっこ悪くて、気持ち悪い」

 と言われ。

「は? お子様に俺の価値がわかんの?」

 と鼻で笑ってみたものの

「あなたに理想はないの? ならその命もただ消費されて終わりね。少なくとも私の中であなたに価値はないわ」

 バッサリ。


 そのシャルリーヌが、ヒューゴーに淡い恋心を抱いた。

 そのヒューゴーは、辛い過去を乗り越え、自分の理想のためにどんなに辛い修行にも耐え、勉強し、ひた走っていた。

 それに比べて僕は一体何をやっているんだろう……と目覚めて心を入れ替えてからは、最強の副団長の出来上がり、というわけで。



「ううう、それだけはやめてー」

「全然変わらないのねって言われても、知りませんわよ」

「ぐほーう! 想像だけですっごい傷つくー!」

 まさにクリティカルヒットである。

 ルスラーンが肩を震わせて笑っている。

「騎士団で人気なシャルリーヌ嬢が、副団長の弱みとは……」

「え? シャルが?」



 知らなかった!



「……あーえっとな、その」

 途端に慌てる黒騎士は、尋常ではなく目が泳いで、やがて諦めた。フィリベルトが呆れた声で呼ぶ。

「ルス」

「やらかした。わりい、フィリ」

「ったく……先日、ヴァジーム卿の側にいて目立ったようだよ」

「まぁ! そうだったんですのね! だってシャルってとっても可憐で可愛いもの! 納得ですわ!」

 

 性格もとても明るくて、優しくて、賢くて、気遣い屋さんで、とっても良い子なんですの! と思わず力説するレオナの頭を優しくぽんぽんするフィリベルト。

 

「大丈夫だよ、副団長自ら牽制しまくってるから。レオナのこともね」



 牽制って? てか、私も?



「あーあーあー! その、そーろそろ帰ろうかなー? ルスー! 飲み行こうなー?」

「……お供します!」

 挨拶もそこそこに、バタバタと去って行く騎士二人。

 どっと疲れた様子のヒューゴーが、お騒がせして大変申し訳ありませんでした、とカミロに丁寧に謝罪していた。副団長よりよっぽど大人である。



 

 帰りの馬車にて。

「レオナ様」

 ヒューゴーが、少し思い詰めたような顔で問う。

「どうしたの?」

「……今日のことは、余計でしたか……?」

 ルスラーンのことだ、とすぐに分かったレオナは

「ううん。むしろありがとう。気を遣わせてしまったわね」

 率直に礼を述べた。

「いえ……」

「ルスの奴、レオナからのご褒美が決まらなくて、悩んでいるみたいだね」

 フィリベルトが、微笑んで言う。

「無骨な男だから。女性から何かもらう、という発想がないらしい」

「まあ! 悩ませてしまっては、かえって申し訳ないですわ」

「気にするな、悩むのも楽しいものだ」

「……お兄様」

「ん?」

「私も街のお店を見て、何か贈り物を探したいですわ!」

「……なるほど」

「ヒューゴーお願い、今度一緒に来てくれる?」

「俺っすか!?」

「何が良いか相談に乗って欲しいの! 男性の意見を聞きたくて」

「……レオナ」

 フィリベルトが、なぜかこめかみを押さえている。

「だってお兄様はお忙しいでしょう? 制服ならそれほど目立ちませんし、ヒューゴーが一緒なら帰りは乗り合い馬車でも構いませんし。ね?」

 フィリベルトは、いや、うん、と言ったきり黙ってしまった。



 (俺、ルスラーン様にやられっかもっすね)

 (……そうだな……だがむしろ煽れ)

 (へ!?)

 (二人ともこの通り鈍感だからな)

 (……マジすか……)



 二人でボソボソ話しているようだが、レオナには馬車の車輪の音で聞こえなかったし、ワクワクしてそれどころではなかった。


 


 忘れないうちにと、レオナは帰ってすぐに、経済学のレポートにとりかかる。

 ルスラーンの挙げてくれた懸念点を、解決できるような良いモデルを作ることができたら……この王国でも生鮮品輸送ができるようになるかもしれない。

 問題は、途中の街で氷を調達できるか? だ。

 せめてドライアイスがあればな、と思う。二酸化炭素からできていることは分かっても、作り方までは分からず……加圧と気化熱だったような気はするが素人なので……この世界にあれば、画期的なんだけどなあと思いを馳せる。


 ふと前世、家族でバーベキューに行った時。

 父がクーラーボックスに入れるのは、板状の氷の方が溶けにくく、一日保つと言っていたことを思い出した。

 王都への途中で板氷を補給する販路を作れればあるいは……それなら貯氷庫はどうだろう? 北のダイモン領に年中氷ができる場所はないだろうか? 採氷も立派な仕事だ。それこそア●雪を思い出す。氷を切り出し、輸送ルートの貯氷庫に供給しながら運ぶ。貯氷庫を持つ街は、その氷を活用して、地産の生鮮品を別の地へ輸送できる。


 

 盗賊だって、イチゴや氷を盗んだところで儲けよりリスクの方が高いわよね! これってなかなか良いアイデアかもしれないわ!



 レポートは概略で終わらせて、あとでしっかりまとめて企画書にしたものを、フィリベルトに見てもらおう。美味しいイチゴが食べたいし、少しでもルスラーンのお役に立てれば嬉しい、とレオナはペンを軽快に走らせた。


 数日後、無事に姪が産まれたとシャルリーヌから連絡があり、懸念していた産後の肥立ちも問題なさそうなので、学院に登校すると手紙が届いた。ホッと一安心なレオナだが、それならシャルリーヌも街へ誘おうというわけで。

 


「……レオナ、あなたね……」

 早速食堂のカウンターで、ランチをしながら話すと、なぜか呆れられた。

「なんでヒューゴーを誘うのよ!」

 背後のテーブルで、多分ものすごく頷いている侍従兼護衛の気配がするが、レオナは理由がイマイチ分かっていなかった。

「え、だって、一緒に選んでくれるかなって……」

 シャルリーヌは周囲を見回して、最大限声を抑えて言う。

「普通に本人誘えばいいじゃない!」

「緊張しすぎて無理よ!」

「……はー、そう……そうよね……」

 シャルリーヌは、そう言ってこめかみを押さえている。

 先日のフィリベルトと全く同じポーズだなあ、とレオナはのほほんと考えてしまった。

「私が一緒ならまだマシかあ……はあ〜もう」

 じゃあ今日の帰り少しだけね、と言ってくれた。


 


 やったー! シャル大好き。


 


「ヒューさん、どうしたんです?」

 心配そうなテオの声に

「……なんでもねー」

 ぶっきらぼうにランチをつつく。

「頭痛とかすか?」

 最近、やっと打ち解けてきたジンライにヒューゴーは

「ちょっと命の危険を感じててな」

 と答える。


 


 えっ、命の危険て何!?



 

「ヒューゴー!?」

 思わずレオナがテーブルを振り返ると

「冗談す」

 ははは〜と力なく返された。

「いのち!?」

「それって、なんでもなくないですよね……?」

 テオとジンライは、顔を見合わせる。

 それ以上聞いても、ヒューゴーが何も言わないので、男子二人はハテナマークが消えないまま、ランチを食べ進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ