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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

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〈45〉お兄様は優しい策士なのです 前


 

 久しぶりに会った旧友と話し込んでしまい、会場に戻るのがだいぶ遅れてしまった。舞踏会は既に始まっている。やらかしたか。

「遅いぞ」

 来賓席の親父はほろ酔いだ。最近弱くなってないか? 歳か?

「喜べ! ローゼンの娘が、ダンス踊ってくれるそうだぞ!」


 

 ん?


 ……は??

 


「わし、言っといたから。誘いに行け」


 人がいない間に、なーに勝手なことしてやがる!


「そう怒るな。わしの気遣い。えへ」


 えへじゃねーーーー!

 フィリベルトには挨拶する予定だったから、当然妹にも会うだろうが、それハナから印象最悪じゃねーか。はー、クソ親父。


「逃げられても俺のせいじゃねーからな」

「いいや、お前のせい。いい子だったぞ! ものすごい美人だし。捕まえとけ!」

 

 どうせまた、顔見るなり、開口一番ヒィ! とか言われるんだろうけどな。仕方ねえ。とりあえずフィリのとこ行くか……


 


※ ※ ※



 

 レオナは、壁際に設置された休憩用の椅子に座らせてもらった。

 傍らのフィリベルトが、喉越し爽やかな果実水を持って来てくれる。

 ベルナルドは来賓席へ戻り、アデリナは王妃と歓談しているようだ。

 

「レオナ、よく頑張ったね」

 フィリベルトの気遣いの微笑みが嬉しいレオナであるが、兄は誰ともダンスしなくて良いのだろうか? と心配にもなる。たくさんのご令嬢達がチラチラ見ているからだ。

 

「ふふ、さすがレオナだよ。まさか皇帝陛下に口説かれるとは」



 

 あ、華麗にスルーですね、分かりました。



 

「半分冗談と仰っていましたわ。犯人はお父様ですわね」

「……うん。皇帝陛下がまだ皇子であらせられた頃からの付き合いなのだそうだ」

「返せぬほどの恩があると仰っていましたわ」

「ふふ、そうらしい」

 さすが宰相閣下、どれだけ顔が広いのだろう。後で知り合った経緯を詳しく聞きたいと思ったレオナである。

 

 冷たい果実水をこくり、こくり、とゆっくり飲んでようやく気持ちが落ち着いてきて、周りが目に入るようになった。

 色とりどりのドレスがふわふわと回る様は、まるでおとぎの国のようである。

 キラキラのシャンデリア、優雅なオーケストラ、そこここで展開される上っ面の挨拶と建前、扇の下に隠れた本音。

 どれもが煌びやかで、どれもが生々しい。

 セカンドダンスは踊る気がしないから、今日はこのまま最後までここにいようかな、なんて気楽に思い始めたところで

「フィリベルト」

 と、低い声がフィリベルトを呼んだ。

 ザワつく会場でも通る、凛とした声だ

 

「ルスラーン! 久しぶりだな!」

 家族以外に破顔するフィリベルトを、久しぶりに見たなとレオナは思った。

「ああ。元気そうだな」

 

 顔を上げると、黒い短髪を後ろに撫で付けた、背の高い紫の瞳の男性が立っていた。

 黒いタキシードに黒い蝶ネクタイ、シルバーチェーンのラペルピン。シンプルだが立ち姿がとても綺麗で、映えていた。

 挨拶をしようと立ち上がったハイヒールのレオナより、尚まだ頭一つ分背が高い。ゼルより大きい。身長百九十は有りそうだ、とレオナは内心驚く。

 

「お前こそ! ろくに手紙も寄越さないから怪我でもしたんじゃないかと心配していたぞ。会えてよかった」

「わりい。手紙とか柄じゃねえからさ」

「くく、そうだな」

 頷いてから、フィリベルトがレオナを振り返り、悪戯っぽく笑いながらその手をそっと手を引いて、ルスラーンの前に招いた。

 

「――ルス。早速紹介させてくれ。妹のレオナだ」

「レオナと申します」

 果実水のグラスをフィリベルトが持ってくれたので、カーテシーを行うと

「ルスラーン・ダイモンだ。えーと、……騎士団所属だ」

 切れ長の奥二重で、確かに眼光は鋭いけれど、その奥は優しい。先程会ったヴァジーム卿とそっくりだと思った。

「私は、今学院に通っておりますの」

「あー、そうか。えーとあれだ」

 ぽりぽりこめかみをかきながら彼は言う。

「さっきは親父が何か言ったみたいで……悪かったな」

 ブホ、とフィリベルトが()せた。

 なるほど、先程ダンスをしてくれ、と頼まれた『強面の息子』とは彼のことだったのかと腑に落ちる。

「クックック」

「笑うなよフィリ。俺でもどうかと思ってる」


 

 

 どうしよう、この強面さん、不器用で可愛いんだけど!


 


「……誘わんのか?」

 フィリベルトは、完全に面白がっていた。

「おま! ……あーその、まーなんだ、親父の言うことは気にせんでもいいが、その」



 

 ダメだ、耐えきれない。



 

「ブフーッ!」

 扇が間に合わなくて、急いでフィリベルトの肩に隠れたのだが、ダメだった。

「おい」



 

 あ、怒った?


 


「……怖くないか?」



 

 へ?



 

「何がですの?」

「俺の顔」

「ブフーッ!」



 

 ちょ、どれだけ笑かすのよ!



 

「ちょ、と、あの、待って!」

 腹筋壊れそう! まともに喋れない!


 


「なんだよ!」



 

 拗ねてる!

 可愛い!



 

「ぜんぜん! あはは!」



 

 ダメだ!

 とってもはしたないけど、口開けて笑っちゃった!

 我慢できなかった!



「怖くないですわ!」

「な、なんだよ……」



 赤くなった!



 フィリベルトが、

「早速イチャイチャするな、さっさといけ。終わってしまうぞ」

 と二人の背中を押した。

「じゃーまあ……その、なんだ。とりあえず行くか」



 

 何その誘い文句!


 


 でも不器用に差し出された手が、嬉しかった。

「ええ!」

 


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