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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
最終章 薔薇魔女のキセキ

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222/229

番外編1 お茶会と言う名の××会なのです 後



「お、お兄様ったらーーーーーー!!」



 ――やっぱり、とんでもないスパダリだったーーーーーー!! ぐおおおおお!!

 

 

 真っ赤になって悶絶するレオナに

「さすがフィリ様ね」

 うんうんと頷くシャルリーヌ。

「わたくし、本当に夢だと思っておりました」

 フランソワーズは、思い出して両頬を押さえながら、クネクネしている。


 が、途端に居住まいを正す元公爵令嬢は、真剣な顔でレオナに向き直り

「ですからその、わたくしの母が、レオナ様にしたことは」

 と切り出した。

「え? ああ、そのこととフランソワーズ様とは、無関係よ?」

 だがレオナは、ケロリだ。

「だからエリデ(家庭教師)は、私の手を叩いたのね~本当にあの時はびっくりしたのよ」



 ――それで前世の記憶を思い出したくらい、ね!



「……ですが……」

「あら、兄はそのことで貴女を責めて?」

「いえ。無関係だと」

「ね。それに、そんな小さなの時のことまで罪に問われるのだとしたら、私もだわ」

「え!?」

「だって私『伝説の隠密』が殺し屋として来たのに、公爵邸に招き入れたのよ?」

 レオナが笑う。

「ひっ」

「ちょお、人聞き悪いのお、レーちゃん」

 ふわ、と現れたリンジーが、仁王立ちで苦笑する。

「はい。彼がその人ですわ」

「うは。えーと、どうもー! 殺し屋やで~」

「!?!?」

「リンジー、冗談にしても」

 シャルが眉間に皺を寄せると

「すまんこって、団長夫人。ちょっとフランちゃんに言わなあかんことあってん」

「フランちゃんて、わたくし?」

「そそ。フィリ様とレーちゃんに頼まれてのー。ローゼン公爵令嬢毒殺未遂事件を調べててんな。あんさんのオカン……ガブリエラやったか。無実やで」


 ガタッ! と思わず立ち上がるフランソワーズ。


「毒盛ったメイドは、白狸の()()()()やってんな。第一夫人は跡取り産んだから、第二夫人を使ってローゼンに打撃をってのが真相やな。まー、白狸がそそのかしたんかしらんけど、自分の命まで懸けてやることかいねえ」

「なら、お母様は……」

「自分が表に出たらフランちゃんが危ないから、引き籠ってたんやと。縁談のごり押し止めるために、裏で色々動いてくれててんよ。ゲルルフの不正の証拠、提供してくれたんは、ガブリエラやねんで。ほんで、謝っとったで」

「!!」

「ようやくピオジェと離縁成立で、実家に戻れてん。フランちゃんも一緒にってことで、今日から伯爵令嬢やな!」

「そっ……」


 フランソワーズは、全身から力が抜けて、文字通り崩れ落ちた。

 リンジーが、そっとその背を支え、椅子に座らせる。

 

「よかった! じゃあ認められたのね」

 とレオナがはしゃぐ。

「伯爵令嬢なら、公爵家に嫁いでも全然違和感ないわね~」

 とシャルリーヌが微笑む。

「白狸とガブリエラの婚姻関係が破綻していたのは、明らかやったからな。十年以上別居やで。そら認められんかったら、逆にびっくりやわ」

 にししし、と笑うリンジーが差し出す書類には『移籍届』と書いてある。

「今から、フランソワーズ・ブルイエ、やな。んでフィリ様から伝言や」


 びく、とフランソワーズの肩が揺れる。


「『他に、私との結婚を躊躇うような懸念があれば、全て叩き潰すから教えて欲しい』やて」

「はう!」

「うわー! 熱烈ー!」

「お兄様ったら……」

「……ご」

「「「ご?」」」

「ございません、とお伝えくださいませ……」


 わー! とレオナとシャルリーヌが拍手する傍らで、

「あーよかった、命拾いしたでえ」

 肩から力を抜いたのはリンジーだ。

「『第三師団長として、これぐらいの問題を解決できなければ即刻……あとはわかるな?』とか言われてみいや。生きた心地せえへんでえ。たまらんっちゅうねん。ほなな!」

 黒霧とともに消えた。すぐに報告しに行くのだろう。

 


 ――そうかもだけど、自分の婚約者のために隠密使っちゃうお兄様、ちょっとアレだね!? あと、結構モノマネ似てるね!?



「よかったわねー、フラン」

 シャルリーヌが、ニコニコと言うと

「はい……ですが正直、そこまで求めて頂ける、フィリ様のお気持ちもまだ、その、信じられなくって……」

 と戸惑うフランソワーズ。

 それもそうだろう、とレオナは暴露を決意する。


「あのね、お兄様はね、一途で気の強い方がお好きなのよね。お母様もほら、あんな感じでしょう」

 

 アデリナは、氷の宰相を溺愛しつつ、顎で使うと有名だ。

 

「フランは、芯がある女性だし、あのゲルルフに対してすら、怯まなかったでしょう?」

「あ……」

「密かに、お兄様の好きな色の髪留めとか、好きなお花が描かれた扇子とか、愛用してたでしょう? それにも気づいてらしてよ」

「え! お、お見通しでしたの!?」

「「お見通し」」


 それにね、とレオナはオッホンと咳払いをする。


「ベヒモス戦で、言葉には出せなくても、お兄様を気遣っていたでしょう」

「それは……その……はい……」

「恐怖で震えているのに、目で猛烈な愛を告白されて、心が動かない男はいないと思う、て仰っていたわ。それで、『気が強いのに、一途でけなげな女性』はフィリベルト・ローゼンの好み、ど真ん中なわけなんだから」

「「ど真ん中」」

「自信をお持ちになって?」

「ありがたく存じます……レオナ様」

「いいえ。それでも不安なら、本人に確かめてね! あと、私はもう義妹よ? 様も敬語もいらないわ」

「! ふふ、そうね、レオナ!」

「あーよかったー! もうほんとどうなることかと……フィリ様、鬼気迫ってて怖すぎるって、エルも愚痴ってたのよー」


 シャルリーヌが、紅茶をごくりと飲み下す。

 レオナは、ふと気づいた。


「ねえシャル?」

「ん?」

「いつからエルって呼んでるの?」

「う」

「この際、シャルも暴露しちゃって?」

 レオナが身を乗り出すと、フランソワーズも

「それ、是非聞きたいわ! あの大層おモテになると有名な麗しの蒼弓(そうきゅう)様を、どうやって夢中にさせたのか!」

 と追撃する。

「うう」

「「白状しなさい」」

「ちょっと、なにこの姉妹、急に息ぴったり……」

「「ごまかさない」」

「ええ!? もう、わかったわよー!」


 フランにばっかり話させても、不公平だもんね、とシャルリーヌは紅茶のお代わりを指示した。


「あれは確か、十歳ぐらいの時かな」


 

 

 ※ ※ ※




 七歳で、レオナの『お友達』としてローゼン公爵邸に出入りするようになったシャルリーヌ。

 ヒューゴーも専属侍従となるべく修行中で、九歳年上の少し悪ぶった、だが夢へと邁進(まいしん)する男性は、侯爵令嬢から見ると非常に魅力的な存在に感じ――これが初恋かな、と自分でも思っていた。

 

 そのヒューゴーに対して

「おやー? ずいぶんいい気になってるみたいじゃーん」

 と度々()()という名目で一方的にやり込めていたのが、ジョエル・ブノワ。

 

 英雄ヴァジーム・ダイモンのパーティメンバーであった、ローゼン公爵家執事のルーカスが、一番弟子と認める存在だ。ブノワ伯爵家四男であったジョエルもまた、ローゼン公爵家の侍従として鍛えられ、王立学院の卒業と同時に王国騎士団入り。輝く蒼髪と紺色の瞳を持つ美男子は、その高い武力もさることながら、数多の浮名を流してもいた。

 遠征に行くたびに、宿に女性が群れをなす。各地に懇意の女性がいる。とても名前を覚えきれず、全員を「レディ」と呼んでいる。などなど。


 シャルリーヌからすると、十三歳も年上の「汚い大人の男」そのものだった。


「ずいぶん甘くて苦ーいねえ」

 

 ある日の、ローゼン公爵邸の中庭。

 ルーカスに剣技の指導を受けているヒューゴーを、椅子に腰掛けて眺めていたシャルリーヌ。その隣にどかりと勝手に座る、ジョエル。(レオナはなぜか、ヒューゴーの近くで腹筋に勤しんでいる。)

 

「うるさい」

「えー。僕これでも、伯爵家子息だよー?」

「だからなに?」

「いっつも僕に対してそんな態度だよねー。ひどくないー?」

「からっぽな人間を、敬う必要はないわ」

「毒舌だねー!」

「虚しくならない?」

「あのー、僕これでもだいぶ年上なんだけどー」

「年齢関係あるの?」

「……ないねえ」

「何を埋めようとしてるのかは、知らないし、知りたくもないけど。ヒューゴーを無駄にいじめるのは、やめて」

「……」

「そんなに、まぶしい? 羨ましい?」

「っ……」

「貴方って、最高にカッコ悪い。気持ち悪い」

「うはあ、傷つくー!」

「……ごめんなさい」


 シャルリーヌは立ち上がって、ぽんぽんとスカートの膝をはたく。


「ただの、八つ当たりよ」


 とっくに、分かっている。

 ヒューゴーにとって一番はレオナだし、そしてきっと、伴侶として選ぶのはマリーだ。自分は、好きな人の一番にはなれない。


「私は、余り物だから。なんとなく貴方の気持ちが分かるだけ」


 ジョエルが、キョトンとシャルリーヌを見上げているのがおかしくて、シャルリーヌは笑った。


「私、レオナのこと好きよ。貴方は? ヒューゴーのことが、好きではないの?」

「そりゃあ好きだよ。可愛い弟弟子だもんー」

「なら、すごいって言われる兄弟子になればよいのに」

「ふわあ……シャルって、すごいねー」

 ジョエルは、眩しそうにシャルリーヌを見ている。

「そう?」

「ねー、僕が心を入れ替えたら、僕のことも好きになってくれるー?」

「どうかな。ドラゴンスレイヤーとか、騎士団長とかになったら見直すかもね」

「うはー、そりゃ、大変だなあ」

 でも、とジョエルは続ける。

「んじゃなるよ、どっちにも」

 にこ、と笑う。

「ほんとかしら?」

「うん。それまで……これ、預かっててくれる?」


 ジョエルが、首から外したネックレスを差し出す。ペンダントトップの銀細工の馬蹄の上に『ジョー』と彫ってあった。


「一番上の兄貴の形見なんだ」

 ジョゼフっていうんだけどね、とジョエルは続けた。

「っ」

「僕、情けないけど、逃げてた」


 死んだ兄貴達を超えるのが、怖い。

 あの子が生きていたら、って言われるのも怖い。


「でも、シャルが好きって言ってくれるんなら、頑張っても良いかなって、今思った」


 ――ああ、なんて優しい人なのだろう、とシャルリーヌは直感で思った。ブノワ伯爵家には四人の男子がいたが、スタンピードと病で長男から三男まで亡くなってしまった。

 ジョエルは四男だが、今や唯一の跡取りだ。

 偉大な兄を超えなくてはならない。だが超えれば、兄達の扱いがおざなりにならないかを、恐れている。


「きっと、好きになるわ。それまで『ジョー』は預かっておくわね……エル」

「! うん。二人の秘密の約束。エルって呼ばせるのは、シャルだけだよ」

 ジョエルは、ぱちりとウインクをして、シャルリーヌに跪き、手の甲にキスをする。

 シャルリーヌは、初めてのその『誓い』の行為が恥ずかしく、照れくさかったが、それをジョエルに悟られたくはなかった。

 

「ふん! なってみせてよね」

「必ずや」


 決意した男の顔が美しすぎて、直視できなかったのは、シャルリーヌの秘密だ。


 それから間もなく、ジョエルの女性達との浮き名はなりを潜めた。

 破竹の勢いで魔獣を討伐しまくり、戦功でもって最年少第一師団長となり、『麗しの蒼弓(そうきゅう)』と呼ばれ、ブラックドラゴンスレイヤーとなり、さらに最年少副団長へと駆け上がっていくのだ。

 


 

 ※ ※ ※


 


「だから、もう呼び方戻そうって言ってるんだけど、本人が嫌なんですって」

 

  話を聞き終わって、ほう、と息を吐くレオナとフランソワーズ。

 

「圧倒的なノロケだわー」

「どこがノロケなのよ、レオナったら」

「いやだって、ジョエル兄様ったら、そんな時から? え? 十歳のシャル?」

「あ、もちろん、最初は違ってたらしいわよ。私が学院に入学する直前くらいから、ちらほら婚約話が持ち上がって来たのだけど、それを聞いて誰にも渡したくないって思ったんですって」

「のおー! やっぱりノロケじゃない!」

「シャル様すごい……」

「うぐ……あ、フラン、様いらない」

「はうっ」

「で、レオナは?」

「……はい?」

「はい? じゃないわよ。まったく。さっさと吐きなさいったら!」

「うふふ。次はレオナの番てことね!」

「うおー……」

 


 ――えーとえーと……どこから話せば!?



「とりあえず、あの黒ポンコツは、ちゃんとしたわけ!?」

「んもー、シャルったら!」

「黒ポンコツって……」

「ルスラーン・ダイモンのことよ、フラン」

「えええ!」

 フランソワーズが、衝撃を受けている。今やダークロードスレイヤーとして名を馳せている英雄を『黒ポンコツ』呼ばわりとは。

「その呼び方は、やめてあげてー」

「だって事実だし。ノロケなんてあるの?」

「あ……る……?」

「ほら、シャル、その、かなり真面目な方でしょうし、ね」



 ――フランにフォローされてるー! やっぱり友達思いよねー。



 ここはルスラーンの名誉のために! とレオナは気合いを入れた。


「ちゃんと、やる時はやる男なのよ!」

「ほーう?」と不敵な笑いのシャルリーヌ。

「まあっ」と真っ赤になりつつ、興味津々のフランソワーズ。

 

「ブルザークでダークサーペントに襲われた時は、私が力を使い切った後支えてくれたし、ホワイトドラゴンの時だって優しく寄り添ってくれて。あ! カミーユやヒューゴーにヤキモチ焼いてくれたりして」

「「へえ……」」

「リヴァイアサンとの戦いで、全滅状態で私が闇堕ちしかかった時なんてね、毅然と呼び戻してくれたわ。愛してる、一緒に生きようって何度も叫んでくれた」

「「……」」

「おまけにリンジーとヒューゴーが、決闘に勝たないと婚約を申し込ませないって言ってたらしくって。ちゃんとその決闘に勝った後に、王宮の宰相執務室に来てくれたのよ。お父様、また『だが、断る!』って言ったのに、負けずに目の前で、デートに誘ってくれたわ。その後トール湖で、ちゃんともう一度愛してるって言ってくれて……素敵だった……」


 沈黙しているシャルリーヌと、フランソワーズ。

 

「あの……なんか……だめだった……?」

「次元が違いますわね」

 フランソワーズが、ほう、と大きく息を吐く。

「んん。で? そのダークロードスレイヤー様は、結婚を申し込んでくれたわけ?」

「うっ」

「「まだなの!?」」

「いやほら、忙しいみたいで……」

「あーもう! やっぱり黒ポンコツ!」

「それはちょっと……忙しいのとお話は違うっていうか……黒ポンコツですわね」

「フランまで!?」

「ちょっと揺さぶってみたらどうなの?」

 シャルリーヌが、悪い顔をしている。

「揺さぶるって?」

「ゼルも魅力的だなーとか、この間ブルザーク皇帝陛下素敵だったなーとか」

「他の男性を褒めると、焦るかもってことね」

 フランソワーズも頷く。



 ――うぐ。そんな高度な駆け引きできないってばよ! それに……



「ルスのことだから、下手したら、決闘を申し込むんじゃないかしらね」

「まあ……それは……外交問題ですわね」

「っていうか、大陸全土滅ぼしそう」

「シャルったら!」



 ――本気出したら、できちゃうかもしれないなぁ〜



「でも、良かったわ、レオナ」

 シャルリーヌが、目尻を下げる。

「ん?」

「愛してるって言ってくれたのね」

「……うん」

「良かった……夢、叶いそうね?」

「叶ったわ」

「夢って?」

 フランソワーズが、パチクリしているので、

「恋してみたい、デートしてみたい、キスしてみたい」

 とレオナが答えると。

「!」

「キスも!?」

「あっ」



 ――やっべ!



「ちょっと詳しく聞かせなさいよー!」

「え、え、羨ましい……」

「フランったら……え? お兄様まだなの!?」

「違うの。恥ずかしくって、逃げちゃった」

「「かわいい」」

「はう!」



 そうして延々と、お茶会と称した愚痴と、暴露と、ノロケ会は日が暮れるまで続き。


「うわ、まだやっとるんかいな。そろそろお開きにしーやー。フランちゃん、王宮まで送ったるわ。フィリ様、夕食一緒に取りたいて、待っとるさかい」


 報告を終えて戻ってきたリンジーに、呆れられるのであった。



お読み頂き、ありがとうございました!

次回は、レオナとルスラーンの未来を書く予定ですので、まだまだお楽しみに♡

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