〈15〉令嬢だって相棒を応援するのです 後
「はいはーい、仲良しで何よりー」
ジョエルが戻って来た。
「ハゲ筋……じゃなかった、イーヴォには言ってきたからね。ゼル君勘違いしてて、騎士団組じゃないのに間違えちゃったって言ってあるから。そんな感じで、よろしくー」
ちょっと待って! 公認でもハゲ筋肉なの? とレオナは衝撃を受ける。テオはぷるぷるしている。多分、笑うのを我慢しているに違いない。
「承知した。ハゲ筋肉何か言ってたか?」
ゼルは、堂々としすぎだと思う。
「んー? 別にー。あっさりだったけど、何かした?」
スルーだ。
やはり公認か? 公認なのか?
「剣気飛ばしたんだが、全く気付かれないから、わざと無視してるんすか? って聞いた」
「うはー、やるねえ」
「テオの仇は、取らねばな」
「え? 僕!?」
「弱いくせに権力を笠に着る奴には、反吐が出る」
ものすごく実感がこもっている。
ゼルには過去に何かあったのだろうか? と想像して心配してしまうのは、レオナがそういう性だからだが、テオも同様のようだ。
何か言いたげにゼルを見ている。
「あれでも分からんとは、完全に肩透かしだ。やるまでもなく興味なくなったから、こちらに来た。……来ました」
「はは、了解。ところでゼル君、敬語苦手なんだねー。僕には特別に、敬語使わなくてもいいよー」
軽く言うジョエルに、目をパチパチするゼル。上下関係の厳しい騎士団では、ありえないことだ。
「……その代わり、遠慮なくしごくからねー」
途端にブワッと立ち昇る、禍々しい殺気。
右眼が鈍く光っている。
肌がゾワゾワして、今すぐここから逃げ出したくなった。
「ふふ。このくらい出してあげないと、絶対気付かないよアイツー」
遠くで青ざめるイーヴォが見えた。レオナがちょっとざまあみろ、と思ったのは秘密だ。
「ジョエル兄様ったら」
「んー? 今は先生だよー。でも今のは完全に私怨。僕の可愛い妹に下卑た笑み向けやがって! あの下衆野郎が」
「妹? ……なのか?」
驚くゼル。
あー。とジョエルはまたテオにしたのと同じ説明をする。
「なるほどな。怖い兄貴が二人もいるってことか……なかなか大変だな……」
「? そんなことはないですわ。可愛がって頂いておりますの」
本当に幸せですよ?
あ、でも未来のダーリンが越えなければならない人がもう一人ここに居たわ……気付いちゃったわ……私の結婚、いよいよ無理ゲーじゃないかな……まだ検討相手すらいないけどな! うう。
ゼルが複雑な顔をしているが、ジョエルがぱん、と手を叩いて場を切り替える。
「さて、手合わせだっけ? シャムシールなんて珍しい武器使うんだねー、その体格ならもっとデカい武器使いそうなのに」
「……デカくなったのが遅かった。ガキの頃は小さくてな。速さと殺傷能力でコレになった」
ゼルは腰に提げていた二刀を抜くと、左手を上段に、右手を下段にして構えた。左足を一歩前に出し、いつでも斬りかかれる体勢だ。
「へえ、なるほどねー! さて、いつでもどうぞー」
先程のテオの時と変わらず、ニコニコで手ぶらのジョエル。
「……参る」
ゼルから熱気が弾けた。
講義が終わると、ジョエルはカミロ研究室に寄ると言う。今日は学院での実習初日であり、任務を調整して、ついでに弓の調整をお願いしていたそうだ。
魔眼を補助する魔石の付いた魔道具で、カミロが作ってくれた魔弓と呼ばれる武器。さすが魔道具のエキスパート、武器にも応用するとは、と尊敬するレオナであった。
そのレオナは、いつもの如く論文の続きを読みに寄るつもりだったので、着替えたら私も伺います、と告げて別れた。
実は、差し入れのサンドイッチを大量に作って持ってきていた。頭の中で、足りるかなあ? と計算しながら、更衣室へと向かう。
道すがらテオは
「ゼルさん、これからよろしくお願いします」
とぺこり。
「テオは律儀だな。こちらこそ。敬語はいらん」
二カリと笑うゼル。
「移って正解だった。なかなかに有意義な時間だった」
ジョエルは、ゼルのパワーとスピード溢れる剣さばきすら、ニコニコで避け続けた。
軌道も読みづらい、蛇剣の二刀流すらものともせず、体捌きだけで避けきった。さすが副団長である。
手合わせ後、ゼル君の課題は感情を抑えることと、スタミナだねーと軽く言っていた。
あの後は、三人でナイフの基礎をしっかりと習ったのだ。
武器に慣れて動きが身につくまで素振りねー、とジョエルから宿題を出されている。
「ナイフもなかなか悪くない武器だな。使いようだ」
――なんかここにも戦闘狂がいるぞー?
ゼルは、このまま寮に戻ると言うのでお別れをした。
テオも、更衣室の前まで送ってくれ、またね、と別れた。
なんだかんだ、テオと接する時間が増えてきたように、レオナは思って嬉しくなった。話しかけてくれたり、デモンストレーションをしてくれたり、一緒に魔獣討伐へ行くと言ってくれたり。
かなり打ち解けてくれたのではないかと、感じることができるからだ。
――私をペアに選んだ理由、そろそろ教えてくれるかな。公爵家のコネのためとかだったら少しショックだけれど、テオは一生懸命だし、礼儀正しいし、生きるために必死なのが良く分かるのよね。それに何より声を掛けてくれて嬉しかったし。私の持っているコネなんて全然ないけど、もう少し仲良くなりたいし、教えてくれたら良いな〜。今度思い切って聞いてみようかしら。
レオナは一人、考え事をしながら、制服へと着替えた。
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2023/1/13改稿




