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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

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〈15〉令嬢だって相棒を応援するのです 後


 

「はいはーい、仲良しで何よりー」

 ジョエルが戻って来た。

「ハゲ筋……じゃなかった、イーヴォには言ってきたからね。ゼル君勘違いしてて、騎士団組じゃないのに間違えちゃったって言ってあるから。そんな感じで、よろしくー」

 

 ちょっと待って! 公認でもハゲ筋肉なの? とレオナは衝撃を受ける。テオはぷるぷるしている。多分、笑うのを我慢しているに違いない。

 

「承知した。ハゲ筋肉何か言ってたか?」


 

 ゼルは、堂々としすぎだと思う。


 

「んー? 別にー。あっさりだったけど、何かした?」


 

 スルーだ。

 やはり公認か? 公認なのか?


 

「剣気飛ばしたんだが、全く気付かれないから、わざと無視してるんすか? って聞いた」

「うはー、やるねえ」

「テオの仇は、取らねばな」

「え? 僕!?」

「弱いくせに権力を笠に着る奴には、反吐が出る」

 ものすごく実感がこもっている。

 ゼルには過去に何かあったのだろうか? と想像して心配してしまうのは、レオナがそういう(さが)だからだが、テオも同様のようだ。

 何か言いたげにゼルを見ている。

 

「あれでも分からんとは、完全に肩透かしだ。やるまでもなく興味なくなったから、こちらに来た。……来ました」

「はは、了解。ところでゼル君、敬語苦手なんだねー。僕には特別に、敬語使わなくてもいいよー」

 

 軽く言うジョエルに、目をパチパチするゼル。上下関係の厳しい騎士団では、ありえないことだ。

 

「……その代わり、遠慮なくしごくからねー」

 

 途端にブワッと立ち昇る、禍々しい殺気。

 右眼が鈍く光っている。

 肌がゾワゾワして、今すぐここから逃げ出したくなった。

 

「ふふ。このくらい出してあげないと、絶対気付かないよアイツー」

 

 遠くで青ざめるイーヴォが見えた。レオナがちょっとざまあみろ、と思ったのは秘密だ。

 

「ジョエル兄様ったら」

「んー? 今は先生だよー。でも今のは完全に私怨。僕の可愛い妹に下卑た笑み向けやがって! あの下衆野郎が」

「妹? ……なのか?」

 驚くゼル。

 

 あー。とジョエルはまたテオにしたのと同じ説明をする。

「なるほどな。怖い兄貴が二人もいるってことか……なかなか大変だな……」

「? そんなことはないですわ。可愛がって頂いておりますの」


 


 本当に幸せですよ?

 あ、でも未来のダーリンが越えなければならない人がもう一人ここに居たわ……気付いちゃったわ……私の結婚、いよいよ無理ゲーじゃないかな……まだ検討相手すらいないけどな! うう。



 

 ゼルが複雑な顔をしているが、ジョエルがぱん、と手を叩いて場を切り替える。

 

「さて、手合わせだっけ? シャムシールなんて珍しい武器使うんだねー、その体格ならもっとデカい武器使いそうなのに」

「……デカくなったのが遅かった。ガキの頃は小さくてな。速さと殺傷能力でコレになった」

 ゼルは腰に提げていた二刀を抜くと、左手を上段に、右手を下段にして構えた。左足を一歩前に出し、いつでも斬りかかれる体勢だ。

「へえ、なるほどねー! さて、いつでもどうぞー」

 先程のテオの時と変わらず、ニコニコで手ぶらのジョエル。

「……参る」

 ゼルから熱気が弾けた。




 講義が終わると、ジョエルはカミロ研究室に寄ると言う。今日は学院での実習初日であり、任務を調整して、ついでに弓の調整をお願いしていたそうだ。

 魔眼を補助する魔石の付いた魔道具で、カミロが作ってくれた魔弓と呼ばれる武器。さすが魔道具のエキスパート、武器にも応用するとは、と尊敬するレオナであった。


 そのレオナは、いつもの如く論文の続きを読みに寄るつもりだったので、着替えたら私も伺います、と告げて別れた。

 実は、差し入れのサンドイッチを大量に作って持ってきていた。頭の中で、足りるかなあ? と計算しながら、更衣室へと向かう。

 

 道すがらテオは

「ゼルさん、これからよろしくお願いします」

 とぺこり。

「テオは律儀だな。こちらこそ。敬語はいらん」

 二カリと笑うゼル。

 

「移って正解だった。なかなかに有意義な時間だった」

 ジョエルは、ゼルのパワーとスピード溢れる剣さばきすら、ニコニコで避け続けた。

 軌道も読みづらい、蛇剣の二刀流すらものともせず、体捌(たいさば)きだけで避けきった。さすが副団長である。

 手合わせ後、ゼル君の課題は感情を抑えることと、スタミナだねーと軽く言っていた。

 

 あの後は、三人でナイフの基礎をしっかりと習ったのだ。

 武器に慣れて動きが身につくまで素振りねー、とジョエルから宿題を出されている。

 

「ナイフもなかなか悪くない武器だな。使いようだ」


 

 

 ――なんかここにも戦闘狂がいるぞー?



 

 ゼルは、このまま寮に戻ると言うのでお別れをした。

 テオも、更衣室の前まで送ってくれ、またね、と別れた。

 なんだかんだ、テオと接する時間が増えてきたように、レオナは思って嬉しくなった。話しかけてくれたり、デモンストレーションをしてくれたり、一緒に魔獣討伐へ行くと言ってくれたり。

 かなり打ち解けてくれたのではないかと、感じることができるからだ。



 ――私をペアに選んだ理由、そろそろ教えてくれるかな。公爵家のコネのためとかだったら少しショックだけれど、テオは一生懸命だし、礼儀正しいし、生きるために必死なのが良く分かるのよね。それに何より声を掛けてくれて嬉しかったし。私の持っているコネなんて全然ないけど、もう少し仲良くなりたいし、教えてくれたら良いな〜。今度思い切って聞いてみようかしら。

 


 レオナは一人、考え事をしながら、制服へと着替えた。



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お読み頂きありがとうございました。

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2023/1/13改稿

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