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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

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〈14〉令嬢だって相棒を応援するのです 前


 

「僕は、貧乏子爵家の三男です。家は継げないし、二番目の兄さんみたいな商才もないので、騎士団か魔術師団に入るしかないかなと思っています。でも身体が小さくて、魔力も少なくて……体術も取っていたんですが、あのイーヴォという講師に向いてないから、という理由で攻撃魔法へ振り替えさせられました」

 

 ジョエルは、途端に苦々しい顔をする。

 テオは気にせずに淡々と続けた。

 

「レオナさんとは、攻撃魔法実習でペアを組んでいます。卒業実習では、一緒に魔獣討伐へ行くことになると思うので、剣術でもペアで訓練するのは良い機会だと思いました」

「騎士団に入れなくても、かい?」

「……討伐で結果を出します」

「分かった」

 ジョエルは、毎回自分が講師として来られるわけではないが、代理の講師にもきちんと申し送りをする、と約束してくれた。

「こう見えて副団長だからね。ちゃんと人選するよ」



 

 暗に団長とイーヴォをディスってませんか?

 笑顔が黒いわあ〜


 


「さて、じゃあこちらはこちらのペースでやっていこう。テオ君はある程度基礎が身についているようだね。レオナは……」

「ご存知の通り、ですわ」

「はは、了解」

 

 前世では、身体を動かすのは嫌いではなかった。

 趣味でフルマラソンに出ていたくらいだ(一人でできるスポーツをこなしていただけだが)。

 しかし、今世のレオナの身体は魔力が膨大な分、なかなかうまく操縦ができないでいた。

 なんというか、馬力のありすぎる車を公道で運転するにも、アクセルの具合が分からない、ような感じである。魔力制御でも、同じ感覚だ。

 

「よし、じゃあ軽く柔軟からやっていこう。テオ君は実力を知りたいから、後で軽く手合わせしようね」

「え……副団長自らですか?」

「うん」

「……」

「はは、緊張しなくていいよー。僕はラザールほど怖くないでしょ?」

「「確かに」」



 

 あ、ハモっちゃった。



 

 しかし、レオナは知っている。

 この人は、戦場で性格が変わるタイプである。

 『麗しの蒼弓《そうきゅう》』と呼ばれている副団長は、弓の達人で魔眼使い。

 前髪で左眼を隠すことで制約をつけ、右眼に魔力を集中させ、魔眼の能力をブーストする。

 百発百中の矢は、中級クラスの魔獣なら即死するらしい。今は優しい近所のお兄さん風だが。

 

「あはは、あいつが聞いたら落ち込むだろうなあ」

「落ち込む姿が想像できませんわ!」

「あれで結構繊細だよ?」

「「…………」」

 思わず顔を見合わせるレオナとテオからは、なんの言葉も出てこなかった。


 


 繊細……? だと……?



 

「じゃあまず、背伸びをして、全身を伸ばそう〜怪我をしたら大変だからねー」

 華麗にスルーしたジョエルの指示で、柔軟を始めていく。ラジオ体操みたいでなんだかほのぼのだ。

 向こう側では、何人かの学生がへばって座ってしまったところを、木刀で叩かれていた。向こうはガチ勢、こちらはカルチャースクール、という温度差である。

 

「よーしじゃあ、レオナは休憩してて。テオ君、手合わせしよう。武器はそのままで良いよー」

 ジョエルは手ぶらだ。

「え!? これ、切れますよ?」

 テオの武器は刃を潰していない、実戦用だ。

 通常、訓練では怪我を防ぐため、刃を潰したものを用いることになっているが、本日は初日。各々普段使いのものを持参していた。

 

「ふふ。気にしないで、思いっ切りかかっておいでー」

 にこやかなままの副団長に、少しカチンと来た様子のテオ。



 ――わざと煽っている?

 


 テオは、静かに構えたかと思うと、躊躇いなくナイフを横一閃。

 素早い動作に見えたが、ジョエルは数歩下がってなんなく(かわ)した。

 ひらり、ひらり、と舞いつつ切りつけるテオに対し、背中に両手を組んだまま、歩くだけで全てを避けるジョエル。

 徐々にテオの息が切れ、肩を大きく動かして呼吸をしている一方、ジョエルは一糸も乱れていない。

 

「はい。それまで」

 

 テオが大きく振りかぶったところで、無情に告げられた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……ま、まいりました……」

「うん。武器を変えて間もない割に、良く動けていたと思うよ。筋は悪くないし、ナイフは武器自体の間合いが近くて、殺傷能力も刃が短い分劣るから、身のこなしで確実に急所を狙いに行かないといけない。そういう観点で、これから訓練していこうねー」

「……なぜ、武器を変えたと……」

「時々握りが甘いのと、太刀筋が片手剣のままの癖があるからね。それも修正していこうねー」

 うんうん、とニコニコしているが、言っていることとの落差が激しい。

 

「ありがとうございます……僕、副団長に見て貰えて、すごい良かったです……」

「えー、嬉しいなあ! 最近誰も、僕と稽古したがらないんだよねー、なんでか」

 

 多分、欠点の指摘の仕方がえげつないからじゃないかなあ〜、とレオナは思わず遠い目になってしまった。

 

「さて……え、レオナもナイフにするの? あーなるほど、護身術ならその方が良いね、隠し持てるしー。じゃあ今日はナイフの基礎を教えるから、普段から走って基礎体力つけて、素振りしといてねー」

 すっかりゆるんで、語尾が伸びきっている副団長は、楽しげだ。素になっている。

 だがしかし、ゆるふわな雰囲気に騙されてはいけない、危険な戦闘狂である。


 すると突然。

 

「おーい! 俺もやっぱりこっちにするわ〜」

「ゼル様?」

「ゼルさん?」

「副団長さんと、手合わせ願いたい」

 近付くやいなや、ズバッと言うゼルは、態度がデカい!

 ジョエルが苦笑する。

「君は?」

「ゼル」

 シンプルに名乗りながら、首をポキポキ、手首をぷるぷる。

 

「ゼル君。なぜこちらに?」

「騎士団興味ないし、あいつ弱いし、考えたらこっちの組でいいかなと思っ……いまして」

 慌てて敬語を使う。

 自分で気付けて良かったなーとレオナは苦笑する。

「はー、なるほど。ちょっと待っててねー。一応断りを入れてくるから」

「わかりました」

 ゼルが頷くと、ジョエルは早速イーヴォのもとへと向かった。


 その背中を見送りつつ、

「ゼルさん、もしかして走るの嫌でした?」

 テオがナイフを鞘にしまいながら聞く。

 ベルトと一体型のケースは黒革で、シンプルだがセンスが良かった。

 

「うぐぅ、そ、そんなわけないだろうっ!」

 明らかに目が泳いでいる。

 

「……まあでも、ゼル様が来て下さるのは良いかもしれないわ」

「レオナ嬢!」

 パァッと顔が明るくなるが

「私では、テオの相手にならないもの。テオに迷惑ではと思っていたの」

 途端にガクーッと肩を落とす野獣。

 感情表現がいちいち激しい。

 

「レオナさんて、ほんと真面目だよね。僕のことは別に気にしなくていいのに」

「でもテオ……」

「うおい! 頼むから、仲間に入れてくれ!」

 

 思わずレオナは、テオと顔を見合わせて笑ってしまった。

「フフ、フフフ」

「うくくくく」


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お読み頂きありがとうございました。

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2023/1/13改稿

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