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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第三章 帝国留学と闇の里

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〈150〉ガチンコ従軍キャンプです 後



「マクシム中佐。今から大きな魔法を唱えるわ」

「! はっ」


 細いサーベル一本で、あの巨大なダークサーペントに対峙していた彼の戦闘力には、全幅の信頼を置いても大丈夫だろう、とレオナは判断した。


 小柄な身体で縦横無尽に動き回るマリーは、鮮やかにナイフを操って、ダークサーペントの気をそらしてくれている。

 

「ジン、合図したら、ストーンウォールで取り囲んで」

「ういっす!」


 ジンライの壁を基準に空間隔離して、炎の上級魔法、と頭の中のストーリーを実行しようと、レオナが大きく息を吸い込むと――


「え? あ……」

 ずしゃ、とジンライが膝から崩れ落ちた。

「ジン!」

「……く、そ……」

「ジンライ殿!」

 マクシムも、何が起こったのか分からず、呪いか!? と警戒すると

「や、られ、た……」

 弱々しくジンライが、首を指差す。

「!」


 ディートヘルムが購入した、拘束の魔道具。

 タウンハウスで似たような魔道具を試した時も、ジンライは力が入らなくなり「気をつけよう」という話をしていた。鍵がなければ、外すこともできない。


「くっ!」

 マクシムがすかさず周辺を探るが、他に人の気配はない。

「まずいわ!」

 マリーの体力が、みるみる減っていくのが分かる。あれだけ動きの速い大蛇の攻撃を避け続けているのだ、当然長くは持たない。

 

「けひゃっ」

 どこからか、嘲笑が聞こえた気がした。


「……まさか!」

 マクシムは、ラマンが気配を消す魔道具を持っていたのを思い出した。

「ラマン! どこだ!」

 腹の底からその名を呼ぶが、返事をするわけがない。


 レオナは、もう一段上の覚悟を決めた。



 ――皆を助けるためには、()()()()()()()()()



 めらり、と魔力が爆発的に溢れて。

 その勢いで、自分の奥底の、蓋が今……開いてしまった。

 途端に禍々しい殺気がレオナを包む。

「ぐ、ジンを、お願い」

「レオナ様っ!」

 振り返らず、ダークサーペントに近づいていく。


 ざくざくと踏みしめる雑草の感覚も、必死でナイフを振るうマリーの息づかいも、時折軽やかに髪を撫ぜていく風の匂いも、何もかもが、色を失っていくようだ、とレオナは思った。



 ――ごめんね。パンドラの箱、開いちゃった。

 それでも、助けたいから。

 


「なっ!?」

 驚愕するマリーに対して、嘲笑するレオナ。

「んふふふ」

 レオナが右の手のひらを上にすると、ぼ、と青黒い炎の玉が浮き上がり、みるみる大きくなった。

 ダークサーペントがそれに気づき、敵意を向ける。

「ほら、おいで?」



 ――シャアアアア!



 ものすごい速さで蛇行してくるダークサーペントを、丸ごと射程にいれて、レオナは軽く唱える。

「空間隔離」



 ――!?



 巨体が、あっという間に四角い何かに閉じ込められた。

 マリーは驚きでその場から動けなくなる。


「蛇って、焼いても美味しくないんだよねえ」

 

 そして、ニタァと笑むレオナの表情と発言に、戦慄する。


 ()()()()()()


「あ、確かその革高いんだよね。じゃ」

 ぺろり、と口の端を舐める。

「切り刻も」

「レオナ様っ!」

「ウインドカッター」



 ――ブシャアアアア



 それでもさすが最上位種、しぶとく結界の中を暴れ回っている。


「うーん、革が傷ついちゃうかあ」


 言うや否や、レオナはブン、と結界を解いた。


「そ、んな!」

 マリーは、硬直した。

 手負いの魔獣ほど恐ろしいものはない。


 その証拠にダークサーペントは、その真っ赤な目を見開いて――



 グギャアアアアアア!



 ――咆哮とともに、周辺に無差別に、呪いを振りまいた。

 マリー、マクシム、そしてミハルがそれを受け、次々と草むらに倒れていく。ジンライは、拘束具も相まって虫の息になってしまった。


「最期の悪あがき? んふふ」


 レオナが舌なめずりをして近づいて行く、その時。


 パシュン、と一本の矢が、ダークサーペントの眉間(みけん)を貫いた。

 

「あちゃー、間に合わんかったか。とりあえず、目くらましやっ」

(クラスィフィクション)

「うし。トドメよろしくー」

「紅蓮!」

「……っしゃっ」


 颯爽と現れた、五人パーティ。


 炎の剣と黒い大剣が宙を舞い、ダークサーペントはあっという間に三等分になり、大量の血を流しながらドサリ、と草むらの中に落ち、動かなくなった。


 黒いローブで(はりつけ)の魔法を唱えた人物が、フードを後ろに脱ぎながらレオナの顔を見るや、

「……堕ちかけてるぞ」

 と悲しそうな顔をした。

「ちぃ、封印解けてもうたか」

 黒装束で覆面の男が、すかさず何かを唱えながら指で不思議な印を切ると

「ん? もう、寝る時間?」

 とレオナが真っ赤な瞳で、嗤った。

 

「そうや。また、わいの宝物やるさかい。な?」

「ううん、今日はいらないよ。久しぶりに魔法使えて楽しかったから。またねえ、()()()()

「そか……」


 ふ、と意識を失うレオナを抱きとめるのは、黒い大剣を背負った、長身。漆黒の竜騎士と呼ばれる、ルスラーン、その人だ。


「今の……?」

「わいが封じとる、闇や。忘れとき」

「!」

「ちっ、おいまずいぞ、全員呪いが!」

 マリーを抱きかかえて合流するヒューゴーが、舌打ちをする。

「ねー、なんかそこに落ちてたー」

 呪いを受けて気絶していたラマンは、魔道具の効果が切れていたらしい。ジョエルが首根っこだけ掴んで持ち上げ、ブラブラさせている。

「多分、ダークサーペント起こしたのコイツだよー。手首に魔法陣彫ってるー」

「血起こし、か。また古臭い方法を」

 ラザールが眉間のシワを深くし

「……教会関係者やな、そんなん思いつくん」

 ナジャが溜息をつきながらしゃがんで、ジンライの首輪を強引に外す。その視線の先には――ミハル。

 


 ――ブルザークの火山には、レッドドラゴンがいる。


 

 レオナを守れなかった罰として、ドラゴンひと狩り行こうぜ! と提案していたジョエルに、ある日フィリベルトから「レオナ達がブルザーク火山の麓で従軍キャンプをするらしい」という情報がもたらされた。

 

 もちろん、その機会を逃すジョエルではない。

 

 フィリベルトがあっという間に入国申請と討伐許可申請を済ませてしまい、またしてもジャンルーカが貧乏くじで、騎士団副団長、魔術師団副師団長、近衛騎士の予定を調整するはめになったのだった。(ヒューゴーは、内緒で学院をズル休みした。)


 そうしてサプライズでこの地を訪れたら、ナジャが闇の気配に気づき……というわけだ。

 

「破邪の魔石で解けるっしょー?」

 カース・ブレイク、と呼ばれる破邪の魔石による解呪は、石を持ってから対象と密接し、膨大な魔力を通す必要があるのだが

「……あれ」

 ジョエルがレオナの襟を探ってみても、ペンダントがない。それもそのはず、ペトラに託してしまっている。

「まさか、ないのか?」

 ラザールがマリーにディスペルを試みるが、やはりレジスト(拒絶)されてしまった。

「なんでー?」

「失くすはずはない。たまたま持っていないのだろう。だがまずいな」


 全員の肌が、じわじわと青黒くなっていく。

 ダークサーペントの呪いは強烈だ。このままではいくらも経たずに……


「かといって、レーちゃんに解呪はさせられへんで。教会の奴がそこにおる」

 ナジャが言うと

「……俺に考えがある」

 ヒューゴーが硬い表情で切り出した。

「なんや」

「レオナ様が、その教会の奴――枢機卿の息子だろ? を解呪する」

「あ? おま、何言うとんねん」

「最後まで聞け。あいつにはイゾラの加護か何かで、呪いはかからなかった」

「! なーるほどー」

「きちんと修行していれば、他の者たちを祈りで解呪できるはずだ」

「っす」

「だが、祈りが効かなかったらどうする」

 ラザールは慎重だ。

「……そん時は、レオナ様が祈りに合わせて」

「手柄を全部渡してあげるわけねー」

「っくー、相変わらず綱渡りやなあ」

「……レオナ……」

 ぎゅ、とルスラーンが腕の中のレオナを抱きしめる。

「ヒール、キュア」

 ラザールが、そのまま回復と傷を癒す魔法を唱えると――


「……?」

 ぴくり、と瞼が動いた。深紅の瞳がゆっくりと見えてきて

「ふふ」

 笑った。

 レオナだ、と全員ホッとする。

「夢……? ルスだ……」

 レオナが、手を持ち上げてルスラーンの頬を撫でる。

「夢じゃない」

 ルスラーンが、その手に自分の手を重ねる。

「会いたかったの」

「うん。俺も」


 全員の時が、一瞬止まった。

 

「おっほん! はいはーい、甘いのご馳走様ー! 急ぐよー!」

「え……ジョエル兄様っ!? えっ、ええ!?」


 ばち、とレオナが覚醒した。

 

「へ!? うそっ! みんなっ」

「レオナ、あとあとー。今は早いとこ解呪しないとヤバいんだー」

 ジョエルが、眉尻(まゆじり)を下げる。

「! そ、んな」

 慌ててヒューゴーが抱いているマリーを、解呪しようとするレオナを

「待て。あっちだ」

 とラザールが止める。

「な、なぜ……」

「レーちゃん、教会の奴起こして。お前すごいな作戦でいこう、てことや」

「ナジャ君っ……そうね、分かったわ」


 レオナは一瞬で理解した。

 自分では行ってはならないが、うってつけの人物が、ここにはいるのだ。


 草むらに倒れているミハルに、レオナが解呪と回復を行うと

「……?」

 すぐに目を覚ました。

「ミハル様!」

「一体何が……」

「一刻を争います。至急、解呪の祈りを!」

「……この人達は?」

「マーカム王国騎士団です」

 ジョエルが答える。

「!」

「申し訳ないが、余裕がない」

 ラザールが、ジンライを指差す。

「すぐに解呪の祈りを」

「わ、分かりました」


 ミハルが跪き、祈る――が、ジンライの様子は変わらない。


「……っ」

 その間にも、ヒューゴーとルスラーンが手際よく全員を並べて寝かせた。

 

「おーい! 大丈夫かっ!?」

 ヨナターンとヤンがこちらに向かってくるのが、レオナには見えた。学生達の、安全が確保できたに違いない。

 ナジャが姿を消し、ヒューゴーが手を振って応える。


「ミハル様、落ち着いて。大丈夫ですわ、もう一度。何度でも、祈り続けてくださいませ」

 レオナがさり気なく、寝転んでいる全員の肩に触れられるように、立膝で彼の真向かいに位置取る。

 ミハルは真っ青な顔で頷き、皆の足元に跪き、胸の前で手のひらを重ね合わせるイゾラのポーズをし、目を閉じて懸命に(そら)んじる。

「……創造神イゾラよ……我の祈りを聞き届け……この者らに聖なる祝福を……創造神イゾラよ……我の祈りを聞き届け……」

 レオナはそっとジンライの肩に触れ。

 次にマリー。

 マクシム。

 そして――ラマン。

 

「っ……」

 虚脱感に襲われ、ふらりとしたところを、またしてもルスラーンに背後から抱きとめられた。

「大丈夫か?」

「ええ、ありがとう、ルス」

「エリアヒール」

 ラザールが、杖を振って唱えた範囲回復魔法に、レオナも入れてはくれたが、魔力までは戻らない。めまいが酷くなってきた。

「レオナ嬢、無理するな」

「そーよん。ルスにおんぶしてもらいなよー」

「はうっ」

「あー、横抱きとどっちが良い?」



 ――横抱き! そそそそれはすすすすなわちお姫様抱っこってやつでは!

 しし刺激がつつ強すぎるっっ(混乱のサシャ状態)



「んー、あ? あれっ!?」

「あ! ジンッ! 良かった!」

 レオナはふらつく身体で、ジンライに抱きついた。

「レオナさ……げ! ちち違います! 俺は何も!」

 ジンライが慌ててバンザイするのを

「……ちょーっと後で説教しよっかなー?」

 ジョエルがからかって

「ひええええ! 助けてマリー師匠!」

「諦めなさい」

 起きたマリーが微笑み、

「あの、貴方がたは……」

 キョトンのマクシム。


「遅くなった!」

「うわあー、なんかすごそうな人いっぱい!」

 ヨナターンとヤンも合流し、大所帯となった。


「マーカム王国騎士団副団長、ジョエル・ブノワ。レッドドラゴン討伐のため偶然訪れたところを、ダークサーペントに襲われた彼らを発見、救助した」

 ジョエルが指差す先には、事切れたダークサーペント。

「! 大変なご助力、帝国州軍総大将ヨナターン・バザロフ、心より感謝申し上げる」

 ヨナターンは、最敬礼ののち深深と頭を下げ、ジョエルはその肩をポンポンと叩いて応えた。


 とりあえずキャンプ地へ戻ろう、となり――レオナは結局おんぶしてもらった。マリーは歩ける! とヒューゴーと言い争い、最終的に脛を蹴って黙らせていた。ヤンがそれを見て複雑な顔をしていて、ジンライは、ラザールの肩を借りながら笑って見ていた。


「面目ない――散らばった学生達が恐怖で動けず、一人一人救助していた。マクシムがいれば、こちらは大丈夫だろうと」

 ヨナターンがジョエルと肩を並べて歩きながら、話す。

「まさかダークサーペントとは……」

「ああ。血起こしが行われたようだ」

 ジョエルは、ちらりと後ろに目線だけ送る。

 ヨナターンには、それだけで通じたようだ。

「……しっかりと調査する」


 マクシムは一番後ろで、ヤンと共にミハルとラマンの動きを見張りながら歩いている。


「凄いすねー。あの人達、ドラゴンスレイヤーですよね」

「そうだな。副団長と漆黒の竜騎士は、名を聞いたことがある」

「ドラゴンスレイヤー……」

 ミハルはヤンとマクシムの会話を聞いて、教会が憎悪を向ける『忌むべき存在』の彼らを観察する。忌むべき? いや、助けられた。しかも彼らからは()()()()()を一切感じない。

 


「――僕は……一体何を信じて来たのだろう……」

 ミハルを深く冷たい虚無感が、襲っていた。




 ※ ※ ※



 キャンプは当然のことながら中止となり。

 マーカムの一行は、日程に余裕がないから、と颯爽とその場から去っていったわけだが。


「ま、元気そーで安心した」

「うるさい。さっさと行きなさい」

「あー!? たまにはさあ!」

「……ふん」

 木陰で少し、ヒューゴーとマリーの影が重なったのは気のせいか。

 また一方で。


「レオナ、その、元気……か?」

「え、ええ! ルスも?」


 ――くー、抱きつきたい!

 

「おう……」


 ――あー、抱きしめたい!

 


「くくく。ダダ漏れだな」

「ほんと、微笑ましいっつうか、やきもきするっつうかねー。おーいルスー! ヒュー! 置いてくぞー!」

 

 副団長と副師団長は、馬上でたっぷりと優しく見守ってから……容赦なく呼んだ。



お読み頂き、ありがとうございました!

五人、完全に戦隊モノでしたね。

青がジョエルでー、赤がヒューゴーでー、と考えながら書いてしまいました。あなたの推しメンは?(❤︎´艸`)


少しでも面白いと思って頂けましたら、

是非ブクマ・評価★★★★★・いいね

お願い致しますm(_ _)m

いつもありがとうございます!励みになります♡

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